江古田文学、三田文學、文芸ラジオ。新旧の大学文芸誌が見る”今”と”これから”。

 

今後も変化するかもしれない、しないかもしれない でも変化は恐れないようにしたい  「文芸ラジオ」玉井建也編集長

 

文芸ラジオ

東北芸術工科大学文芸学科の学生と教員が中心となって編集する新感覚文芸誌。小説を中心に、多彩なチャンネルを用意したラジオのような一冊。年1回発行。

 

ラジオのように多様な内容を発信

文芸ラジオの編集部員たち。

 

――文芸ラジオは2015年に創刊された新しい雑誌ですが、創刊された経緯を教えてください。

 

小説や評論などの作品を書くという行為は、授業内の課題として取り組み、それを教員もしくは同級生が読むだけでは不完全だと思います。それを知らない人にまで届けるというメディアの役割を担ってはじめて、それは作品と言えるものになると考え、そのプラットフォームとして創刊しました。

 

また作品を作り上げるだけではなく、編集を学ぶための実践の場の必要性も同時に存在するため、その意味でも文芸誌を創刊する必要がありました。

 

 

――創刊されて、学生からどのような反応がありましたか。

 

編集に関わった学生からは、作業自体の大変さと達成感が感想として耳に入ってきました。授業ではどうしても知り合い同士で冊子を制作し、知り合いが読むだけで終わってしまいますが、書店で販売されることのプレッシャーと喜びが混在している感じです。

 

もう一つは作品を書いた側の感想ですが、こちらも同様に誰か知らない人が読むことへの緊張感と、自分の作品が全国で発売されているという喜びです。

 

 

――学生編集長という仕組みがとても興味深いです。日ごろ、学生の編集作業はどのようにおこなわれているのですか?

 

毎週、学生と教員が一緒になって編集会議を行っています。そこでは学生たちが中心となり、特集やインタビュー案などの企画を練っています。それとは別に小説や評論が届いた際、教員一名・学生一名が担当となり、作品内容に関して協議し、執筆者と打ち合わせを行っています。

 

この執筆者は学内の学生だけではなく、プロの作家も含みます。これら全体を学生編集長に統括してもらっています。

 

 

――文芸ラジオの第二号を見たとき、創刊号ではイラストだった表紙が、タレントの写真にガラっと変わっていたのが印象的でした。なぜこのような変化をされたのでしょうか。

 

『文芸ラジオ』という名前の通り、ラジオのようにさまざまな内容を発信していくことを目指しています。いろいろな曲がかかる(ときには面白いトークも披露される)ラジオのように、一ジャンルにこだわるのではなく、多様な内容を提示できれば良いと考え、現状のようになっております。

 

 

――二号以降、最初にカラーの絵や写真があって、雑誌に入りやすかったです。これらも今おっしゃられた「ラジオのように~~」という思いからなのでしょうか。

 

上記の回答と同じになりますが、単に一色で塗りつぶすというのは面白くないと考えたからです。文芸誌として制作すると、どうしてもお堅いものになってしまうので、その先入観をできるだけ持たないようにしています。ただそれでも文芸誌という枠組みからは完全に抜け出ていないとは思います。

 

 

――最新号では短編漫画を載せられていたのが印象的でした。コミック掲載の経緯を教えてください。

 

メディアの差異は、作品評価の差異に直接的につながりません。したがって、漫画掲載も特別なこととは考えていません。

 

ジャンルにとらわれない特集を組む狙い

 

――ゲストにインタビューを行う「Guest Talk」には、モデルの押切もえさんやタレントの吉木りささん、格闘家の前田日明さんなど、さまざまな方が登場します。人選はどのように決められているのですか? 

 

学生と相談して決めています。実際に会って話を聞いてみたい人を、特集テーマに合わせて挙げています。流行を単純に追いかけるのではなく、事象を追究したい欲求に基づいて面白くしようと考えて取り組んでいます。結果的に、最先端の人に話を聞いていることになっているかもしれませんが。

 

 

――怪談小説家の黒木あるじさんが、怪談を書くコツを教える「黒木あるじの怪談教室」のコーナーを楽しく拝見しました。おそらく大学の文芸誌だからこそできる取り組みだと思うのですが、この企画の経緯を教えてください。

 

黒木あるじさんは普段から文芸学科で授業を受け持っていただいているので、その延長線上で学生との座談会をお願いいたしました。黒木さんは親身になって学生の原稿に向き合ってくださるので、その雰囲気をお届けできればと考えております。

 

 

――特集についてお聞かせください。創刊号では「ポップカルチャーの時代小説」、その後は「“ブラックニッポン”の歩き方」「人が歴史を語る時」、そして「猫というメディア」「僕らのいなくなった世界~22世紀を考える~」など、ジャンルにとらわれない組み方が印象的でした。それぞれの特集はどのように決めているのでしょうか? また、特集を一つだけでなく、二つ組むようになったのは何故ですか?

 

特集の決定は、既述のように教員と学生とが、会議で話し合って取り組んでいます。学生が興味を持っているものを、ただ直球で出していくのではなく、読者にいかに届けるのかを考えながら取り組むようにしています。ラジオという名前の通り、文化および文芸に対して多様なアプローチができればと考えています。

 

ちなみに特集が二つになったのは、一つでは雑誌としての広がりのなさや物足りなさにつながっているのではないかと思ったからです。

 

 

――第三号での編集長の交代がありましたが、このまま引き継いでいきたいこと、また逆に、変えていった・変えていきたいことがございましたらそれぞれ教えてください。

 

編集長交代が行われましたが、教員三名が個々独立して動いているというよりは、連動しているので、トップが交代しても大きな変化はないと思います。

 

ただし、それぞれの個性や立ち位置が異なるので、少し色の違いは出てくると思いますが、それは変化につながりプラスだと考えています。頭が変わろうが変わらまいが、文芸ラジオは常に変化していく、ぐらいのものです。

 

 

――すべての号に共通してとても小説が多い印象を受けましたが、これには何か理由があるのでしょうか? また学生の小説はどのように原稿を集めているのでしょうか?

 

単純なところとして、小説を書く学生が多いという点が挙げられます。その影響が大きいと思います。学生の原稿は授業の課題で書いたものではなく、完全な新作を求めていますので、年に一回の締め切りを設けて、その日までに書き上げて送ってもらっています。したがって学年も何も問うてはおりません。

 

小説を書く行為のすそ野を広げたい

 

――第四号ではどのような雑誌にされるのか、お教えいただける範囲でお聞かせください。

 

四号に関しては、「作家デビューガイド」と「変身」という二つの特集を組んでいます。「作家デビューガイド」では、女子高生が小説家デビューする物語『響~小説家になる方法~』を描いた柳本光晴さんに話をお聞きしました。また、本学科からデビューした猿渡かざみさんにも、デビューにいたるまでの取り組みについて述べていただきました。

 

「変身」では、特撮や魔法少女のような身体的な変化を考えるのではなく、さまざまな「変身」に取り組んでいる人を取り上げ、ジョニー・デップの声を担当されている声優の平田広明さんや、他人の顔を奪うことができる女性を主人公とした『累-かさね』を描いた松浦かさねさんなどにお話しいただきました。そのほか、宮木あや子さんやオキシタケヒコさんなどからも小説も掲載されています。

 

 

――若い人に手に取ってもらえるよう、こだわっていることはありますか。

 

特に若者に媚びて物を届けようとはしていないのですが、面白いものを届けるにはどうしたら良いのかを考えていることはこだわりかもしれません。

 

 

――最近、「活字離れ」という言葉をよく聞きますが、身近に感じることはございますか。

 

「活字」をどう定義するのかにもよります。単純に文字ということであれば、今も昔もかわっていないと思います。そこにあるのは文字を受け入れるメディアの差異だと思います。ネットで小説を読む、漫画を読む、ニュースを読む。誰かのtwitterのつぶやきを読む。というように読むという行為は消えてはいません。

 

文字ではなく、物語を消費することが減っているという意味であれば、スマホゲームなど多方面から物語自体の摂取は行われていると思います。紙のメディアの市場が狭くなっているという意味であれば、それはその通りです。『文芸ラジオ』も紙の文芸誌というメディア形態をどこまで維持すべきなのかは考える必要があるかもしれません。

 

 

――大学が発刊する文芸誌として、今後どのように文学や出版業界と向き合っていこうと考えていますか。

 

プロの作家や編集者を目指す本学科の学生の通過点として、そして卒業後にはプロになった者の発信場所として『文芸ラジオ』があれば良いと考えています。

 

ただそれだけでは成り立ちません。プロ野球が存在し、高校野球が存在し、大学野球が存在し、社会人野球が存在し、草野球もある、ということと同じように小説を書く行為に対して、すそ野を広げる役割を担っていければと思います。

 

 

――今後の「文芸ラジオ」の展望を教えてください。

 

常に様々な文化を多面的に分析し、読者の皆さんにお届けしていきたいと考えています。『文芸ラジオ』は大きく変化するかもしれませんし、しないかもしれません。でも変化を恐れないようにしたいと思います。

 

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紙媒体としての書籍の数が減っていくなか、・若者へ大きく門を開いた江古田文学・世界を見つめる三田文學・自由な形で雑誌を提供する文芸ラジオと、大学の文芸誌はその多様性を保ち続けていた。

 

「こだわれる」という特有の強みを、それぞれの取材を通して感じた一方、文芸発信の「場」として維持し続ける強い意志は、3つの編集部全てから強く伝わってきた思いだった。

 

今回の記事で興味を持っていただけたのなら、ぜひお手に取って読んでみてほしい。それぞれの雑誌に吹く、大学ならではの風を感じていただけると思う。(取材・文 井上柚季)