【第2回】月子を甲子園へ連れてって 出版甲子園グランプリへの道2016 プロ編集者からの金言

 

評価が分かれた「文学」と「卒論」企画

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続いてナツミさんの企画発表。

 

まず発表したのは、前回の企画会議でも挙げた「こじらせ文学のススメ」だ。偉人のイメージがある夏目漱石や太宰治などの近代文学者も、一般の人々と同じようなしょーもないことで悩み、こじらせていたことを紹介し、親しみやすさを伝えることで、名作を読むきっかけになってほしいというのが企画立案の背景なのだそう。

 

S「ナツミさんは、文学が好きだからこういった企画を立てたの?」

 

ナツミ「はい、大学で近代文学を専攻してるんです。私も根暗でこじらせてるところがあるんですけど、文豪の失敗談や発言で元気づけられてきたので、多くの人に広めたいと思って」

 

S「面白いし、文学者への愛を感じるね。読者が共感できるし、笑うことでポジティブな気持ちになれるのもいい」

 

文豪たちのこじらせ発言に焦点を当てつつも、作品や思想を紹介することで文学の面白さを再発見し、学習的要素もある面白い本になるのでは、Sさん。商品化のイメージが早くも浮かんだようで、「カレンダー形式でも面白いかも」とノリノリだった。

 

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二つ目は、インタビュー企画。新宿ゴールデン街で飲んだくれている人々に、「学生時代、卒論で何を書いたか?」を聞いて回ろうという企画だ。ナツミさんは大学4年生。自分自身も卒論の執筆を控えている立場である。大学で学んだことの集大成が表れる卒論にこそ、人の価値観が表れているという視点で、本企画を立てたのだそう。

 

ナツミ「卒論を通じて、一人ひとりが持っているストーリーに迫りたいんです。同時に、大学で何を学べばいいのか分からない人の手掛かりになればいいし、面白い卒論を紹介できれば『トンデモ研究』にもなるかもしれない」

 

ところが一つ目の企画と違い、Sさんはどこか渋い顔。卒論という題材を、学生ならではの説得力がある視点だと評価しつつ、ゴールデン街の人に聞く必然性が分からない、と疑問をぶつける。

 

S「一般の人からすると、『なぜゴールデン街?』となっちゃう。いろんな人が集まっていろいろな人生観のある、っていう面白さを紹介したいのなら、卒論でなくてもいいのでは?」

 

ナツミ「私は月に吠えるがきっかけで、初めてゴールデン街に来たんです。いろんな方が集まって、初対面でも密度の濃い話ができて面白かったのと、せっかく月吠えで(出版甲子園企画を)やるので、ゴールデン街を舞台にしようかと」

 

S「なるほど、気持ちは分かるけどね……」

 

さらに、面白い卒論が集まるか、もネックだとSさんは指摘する。例えばイグ・ノーベル賞という、世の中の役に立たない発明の、受賞作品を集めた本が何冊かある。常人では考え付かない発想や、一見するとバカバカしいことに全精力を注いでいる研究者の姿には、読者の心を揺さぶるものがある。

 

そのため、本としての価値も十分にあるのだ。しかし予定調和でないルポルタージュで、そういう卒論が集まるかといったら、現実的に難しいというのがSさんの見方だ。

 

S「テーマが卒論、ゴールデン街と二つあるから、どっちかに振り切ったほうがいいと思う。例えばゴールデン街という場所に注目しただけで、行きかう人のドラマが立体的に表れてくるよ。質問も一つで良いから、人間の本音や生き様が出るようなことを、100人に聞いて回ると面白くなると思う」

 

ナツミ「分かりました、もう少し考えてみます!」

 

 

実現したら世界基準のノンフィクション!?

 

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続いて三つ目は、「もしもスマートフォンがなかったら」という企画だ。ナツミさんは、実はスマホ中毒なのだそう。一日中スマホをいじって、時間があればSNSをしたり、マンガを読んだりしている。そのため、以前は多くの時間を費やしていた読書も、スマホに触る時間と引き換えにガクンと減ったという。

 

ナツミ「スマホ世代の人は、スマホを持つ前はどんなことに時間を使っていたのか。スマホを持つようになってから何をしなくなったのか、聞いてみたいんです。そこから失われた文化は何かも調査したいです」

 

S「それは社会学のような感じかな?」

 

ナツミ「スタート地点は他人への興味だったんですけど、本として推すのなら、社会学的にも使えるようにした方が評価は高いのかなと」

 

だとしたら、気になる点が二つある、とSさん。まず、スマホは登場してから約10年と歴史が浅く、社会学として論じる題材に値するのか。また、スマホはあくまでもハード。その出現によって、人々の行動は変わっても、内面まで変わっているのか、手掛かりが見つけづらいという。それであれば、とSさんは続ける。

 

S「スマホは音楽や映像や書籍などのソフトを集約させた製品だから、出現によっていろんな産業が影響を受けているよね。個人に与えた影響よりも、どの業界にどれだけ影響を与えたのかを書けたら、世界基準のノンフィクションになりそう。ただ、国レベルのビッグデータが必要で、個人では難しいかもね……」

 

どんどん壮大になっていく企画に、ナツミさんも少々混乱気味の様子。さすがのSさんも、スマホを題材にし、ナツミさんが個人として実現可能で、なおかつ評価されるような企画は何か、この短時間で答えを出すことは難しかったようだ。

 

ナツミ「ありがとうございます、もう少し考えてみます!」

 

そして、2時間30分にも及んだ第二回企画会議は終了した。プロの編集者として、第一線で活躍中のSさんも、JDたちの新鮮な感性には刺激を受けたようだった。

 

S「二人とも発想が捉われていないから面白かった。出版業界にいると、どうしても考えが枠にはまっちゃう。勉強させてもらいました。それで、せっかくだから俺も、こんなものを用意してきたんだ…」

 

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不意に、Sさんも企画書を取り出した。もし自分が大学生で、出版甲子園に出場すると仮定して、企画を作ってきたのだという。その内容は「奨学金問題」に関するもの。世間的に評価が低く、就活で有利になるとは思えない大学であっても、高額な奨学金を払って入学する学生がたくさんいる。

 

そして返済のために寝る時間を削って働いたり、何十年も支払い続けたりしている現状を紹介することで、奨学金制度の問題点を明らかにするという企画だ。

 

また、書籍の企画書にはどのような項目を盛り込むべきか、実例を事細かに紹介し、これにはナツミさんも綾乃さんも真剣に聞き入っていた。

 

そしてこの日の企画会議は終了。プロ編集者にアドバイスを受けた二人の企画は、いよいよエントリーを迎える。果たしてどのような結果が待ち受けているのか、罰ゲームはどうなるのか、そしてナツミさんと綾乃さんの間に友情は芽生えるのか……続報に期待してほしい。(文 コエヌマカズユキ)

 

二回目の企画会議を終えて

ナツミさんの感想

プロの編集者の方の企画書は、レベルが違いすぎてちょっとショックでした……。「学生」が書く必然性や説得力がありつつ、人々の関心を惹きつけそうな、社会全体に通ずるテーマ……。早くこのレベルのものを書けるようになりたいです(泣)。

 

あと早く綾乃ちゃんと打ち解けたい(泣)。 いただいたアドバイスを元にさっそく改稿して、まずは一次突破を目指します!

 

綾乃さんの感想

自分の中でぐるぐる考えていたものを、プロの目線から見ていただくのはとても緊張しました。(笑)自分でもどうしようかなと悩んでいた部分が具体化してきて、いろいろと学ぶことが多かったです。

 

まずは一次突破できるように頑張ります! そして、なつみさんのことを次回こそは”なつみ”と呼びたいです……

 

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