【第1回】月子を甲子園に連れてって 第11回出版甲子園グランプリへの道 闘いの幕開け

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正直、この企画では難しいかも……

 

まず、先に企画を発表したのはみもりんだ。彼女は一ヶ月間、アイルランドに短期留学をした経験があり、すっかり気に入ってしまったのだそう。

 

アイルランドのことをもっとたくさんの人に知ってもらいたいが、ガイド本以外の関連本が少ない点に着目。留学中の体験をエッセイ風にまとめるほか、「アイルランドの民話には日本のこぶとり爺さんそっくりの話がある」といった豆知識も紹介していきたいのだそう。

 

しかし読み物にするのならば、アイルランドの魅力はもちろん、みもりんならでは視点や体験が詰め込まれていなければ成立しないだろう。

 

コエヌマ「みもりんならではの体験って何かある?」

みもりん「……日本人とばっかりいたので、そんなに。世界遺産の遺跡に行ったりしました」

コエヌマ「危ない目にあったとか、アイルランド人と恋をしたとかは?」

みもりん「スラム街みたいなところで、電柱の上にサンタクロースが括り付けられていたのが怖かったです」

コエヌマ「何それ?」

みもりん「分かりません……」

 

たまたまお店に居合わせたプロの作家にも意見を聞く。「アイルランドのきれいなところを紹介する本にしたいの?」と作家。コクリと頷くみもりんに対し、「読む方としては、その国の危ない部分や、汚い部分も知りたいな」という感想だった。

 

そして、ごく普通の青年がドヤ街で暮らす日々を描いたノンフィクション『だから山谷はやめられねぇ―「僕」が日雇い労働者だった180日(幻冬舎)』を挙げ、「こういう作品だったらねぇ」とアドバイス。確かに、現時点でのアイルランド企画では一回戦突破は難しそうだった。

 

助け舟を出すかのように、そーたが「ほかに企画ないんですか?」と口を挟む。するとみもりんは、「すごくつまらない本があるんです」と切り出し始めた。

 

現在、大学4年生で、就職活動中でもあるみもりん。とある企業の会社説明会に行ったとき、その会社の製品について書かれた本をもらったのだそう。

 

実はその会社、日本人なら誰もが知っているあるモノに関して、ものすごい功績を残している。詳細は伏せるが、どれだけすごいかを聞いて、僕たちは大いに盛り上がった。しかし、それだけすごい会社なのに、なぜか本はめちゃくちゃつまらない。「もっと面白い本にできるのでは?」と、何となく方向性が見えてきたところで攻守交代。

 

バラエティに富んだ5つの企画

 

そーたは企画作りに当たって、これまでの出版甲子園のグランプリ作品をリサーチしてきたのだそう。

 

「これまでグランプリを獲った企画を見ていると、企画者はホストとか医者とかばっかり。学生と言っておきながら、普通じゃない経験してる人ばっかりだから、ずるいんですよね……」とグチりながら、用意してきたという5つの企画の発表を始めた。

 

1つ目と2つ目は、彼自身が浪人していた頃の経験を基にした勉強法とメンタル術。3つ目は、そーた自身や、彼の周りにいる男子たちの生態をまとめた本。その生態とは、イケメンでモテるのになぜか彼女がおらず、女子にも興味がない男子のことらしい。

 

「僕の周りにそういう男子って本当に多いんです。僕自身もイケメンって言われることが多いんですけど、あ、草食系男子とは違います。彼らはモテないじゃないですか? 僕らはモテるけど、自分からはガツガツ行かないタイプなんです……」

 

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「僕もイケメン」という単語に吹き出しそうになるみもりん。そーたはなぜか、聞かれてもいないのに、自分が童貞であることもカミングアウトし、3つ目の企画のプレゼンを終えた。

 

そして4つ目は、女子たちの生態を幾つかに分けてカテゴライズし、とあるアニメに置き換えた本の企画。5つ目は、かつて漫画家を目指していたそーたが、教科書やノートにたくさん落書きをしていたことから、いろいろな落書きを通じて見えてくる心の闇に着目した企画だ。

 

先ほどの作家は、「編集者と話していると、タメになる本がやっぱりいいよねって話になることが多いですね」とアドバイス。1と2の実用書が有利という見方だった。みもりんは、「3番目のイケメンの本は女子に売れるかも」という感想。僕は個人的に、4の女子の生態企画が面白いと感じた。

 

結局、みもりんは「つまらない本」を配る企業の企画を。そーたは5つの企画をブラッシュアップし、全て応募することになった。

 

そして次回、締切直前の6月下旬にもう一度集まり、完全版の企画案を発表しあうことに。健闘を誓い合って、この日はお開きとなったのでした。(文・コエヌマカズユキ)

 

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一回目の企画会議を終えて

<そーた>

みもりんさんは下町のやさしいお母さんみたいな印象だった(これ怒られるかも……)。

 

彼女が出した企画は、最初は本戦へ通るのは難しいかなとおもった。しかし、あとから出した企業の企画は同席していた編集のかたにも好評で、なかなかおもしろそうだった。負けてられない……。

 

肝心の僕の方はどうにか企画はしぼりだしたものの、考えれば考えるほど自分の人生の浅さに気づかされてばかりだった。そもそもこの企画へ参加した理由も、もし自分の提案した企画が本になったら、お金になるかも……というなんとも浅はかな理由だった。自分という人間の薄さにとことん嫌気がさす。

 

だが弱音ばかりははいていられない! 一度出ると決めたら、目指すは優勝のみ!! こんなライバルなんかやっつけて、絶対出版させてみせる! たぶん……。

 

<みもりん>

そーたの第一印象は(一番初めは、ライター仲間の飲み会で)、かなり安易に「チャラそう」「某大学っぽい」「口達者な感じ」……と正直、こわいなーと思いながら、第一回目の発表。しかし遅刻してきたので、画びょうをお見舞いしておいた。

 

私のアイルランド企画は、いざ話してみると、イマイチ……とはいえ、いつか本にしてみたい、と密かに心の中で誓った。
そーたの企画は……む、なかなか、面白い……特に私はイケメン大好きなので、三つ目はかなりぐっときた。本人が「自分、イケメン」発言しちゃったときは、初めて何の照れもなく、あんなこと言う人に会ったので、引いたを通り越して(でも、ちゃんと引いた)、清々しかった(笑)

 

今度は画びょうでは済ませまい……ではなく、次は面白い企画で、負かしてやろう! と私は強く誓った。

 

第2回へ続く

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