【後編】書肆侃侃房・田島安江さんが語る半生・文学・短歌・地方出版社すなわち多くのこと

目次

本の持つ役割

 

本を作るのだって、何も東京でないと駄目ということもない気がします。むしろ、今は地方の方が自由にやれているのではないでしょうか。福岡はそこまで小さくはありませんが、それでもやりやすい街だと思います。

 

そもそも地方都市では、短歌や小説をやっている人の数が少ないので大切にされ、育ててもらえる風土があります。たまに「福岡でこんなお洒落な本が出せるの?」と言われることもあります。何か地方とはこんなものというような思い込みがあるのではないでしょうか。書肆侃侃房が福岡の出版社だということを知らなかった、という声も耳にしますね。

 

Photo by tsuna72 .

 

宮崎には鉱脈社、鹿児島には南方新社、福岡にも石風社や海鳥社など20くらいの出版社があって、うちは後発組なんです。私が出版社を始めたときも、「出版不況の今から始めるの?」と驚かれることもありました。

 

飛行機ですと、福岡―東京の距離なら2時間もあれば移動できますし。また、いつも東京にいるわけではないので、雑念に捉われないですむというメリットもあります。情報でいっぱいいっぱいにならずに済むんです。

 

最近はいろんなところから「本を出したい」というお話をいただきます。他の出版社では断られてしまったとか、初めて本を出したいと考えています、という方がほとんどどです。

 

以前、宮崎でカフェ本を作ろうと企画しているときに、友人である詩人のお孫さんを紹介されました。そのお孫さんは引っ込み思案で、この企画に関わることで少しでも外部との接触があれば、と友人は望んだのではないでしょうか。お洒落な明るい本を作っているようでいて、その著者の苦労があとがきに残されていたりすると、思わず泣いてしまいそうになります。

 

本の役割は全く未知の人と出会うことです。大袈裟ではなく、いつ亡くなるかわからない方の本を作ることもあります。以前、余命が3カ月だという方の闘病記を担当したのですが、本の帯は著者の希望でリリー・フランキーさんに書いていただきました。

 

それも『東京タワー~オカンとボクと、時々、オトン~』が出て忙しいときにです。駄目もとで事務所にファックスを送ったら、事務所の方から電話があり、「引き受けられるかどうかわかりませんが、時間がないんでしょう? すぐにゲラを送ってください」と。

 

そして本当にリリーさんから帯文をいただき、著者存命中に本が出来上がりました。奇跡のように。『ゆりちかへ ママからの伝言』です。著者の思いと出版社の思いがひとつになれば、読者のもとに届けられるのだと実感した本でした。

 

諦めたら本当にもう先が閉ざされてしまいます。いつまでできるかはわかりませんが、やりたいことがある間はやれるという確信があります。そしてまた、この「やりたいこと」というのも、まず思いがないことには始まりません。向こうから勝手にやってくることはあまりないからです。

 

「たべるのおそい」もいつか文学に携わりたいという思いがあり、その「いつか」を今迎えているのだと思います。本当にありがたいことです。

 

韓国女性文学シリーズ。

 

最近は翻訳出版も手がけるようになりました。特に韓国の詩集や小説を出しています。韓国女性文学シリーズは間もなく6冊になります。このところ、韓国文学へ興味を持つ出版社や読者が増えて、やっと時代が追いついてきた気がします。

 

よその出版社の事情を知らないので比較は難しいですが、本当に無心で、全て一から試行錯誤をくり返しながら本づくりをしてきたことが良かったのかもしれません。

 

もちろん、これくらいの規模の会社ですから、書籍の発送も打ち合わせも、全てここ(会社)で行っています。元々あったRead cafeのほかに、10月から「本のあるところajiro」がスタートしました。小さな本屋さんでカフェもあり、読書会やトークイベントも行えるスペースです。空間を作るのは大変重要なことです。

 

書店で「たべおそ」や短歌のフェアをやらせてもらうときは、「たべおそ」で書いてくれた方の、他社の本も同じコーナーに置いてもらっていますし、その歌人の選書フェアも行っています。他社刊行のものでもいいんです。垣根を越えて一緒に盛り上げることで、「書店で売れない」という現状打破に繋がるはずですから。(取材・文 月に吠える通信編集部)

 

株式会社 書肆侃侃房

WEBサイト:http://www.kankanbou.com/

Twitter:https://twitter.com/kankanbou_e

Instagram:https://www.instagram.com/kankanbou_e/

 

文学ムック たべるのがおそい

http://www.tabeoso.jp/

 

現代短歌ロード

http://www.shintanka.com/

 

Read cafe

住所:福岡市中央区薬院2-2-33 OASビル1F

営業時間:12時~18時

定休日:火曜 ※不定休

http://www.kankanbou.com/readcafe/

 

本のあるところajiro

住所:福岡県福岡市天神3-6-8 天神ミツヤマビル1B

営業時間:[水~金]8時~10時/13時~22時[土日祝]13時~19時

定休日:月・火曜、第1土曜日 ※不定休

http://www.kankanbou.com/ajirobooks/

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