【本に関わる仕事をする人:製本技能士】製本士になったSF好き女子 

製本タワー
一つの本に、読みやすさと耐久性が計算された技術が詰まっている

 

製本士という職業をご存じだろうか。正しくは「製本技能士」と言い、国家試験に合格することが必要な職業だ。出版不況が叫ばれ電子書籍も台頭している現在、若干20歳の女性が製本士として活躍していると聞き、筆者は彼女の工房のある山梨に向かった。

 

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製本工房インキュナブラ。それが製本士・高倉ゆみこさんの工房の名前だ。「西欧の最初期の活版印刷技術を用いた本、それがインキュナブラなんです」 彼女は、アトリエの由来をそう語ってくれた。

 

高倉さん
製本士の高倉ゆみこさん 本が大好きと言う彼女の一番好きなジャンルはSF! SFマガジンが書店に置いていないとしょんぼりする20歳

 

 

専門学校で製本技術を学んだ日々

 

製本士になろうとしたきっかけは、「小説を書くのが好きで、その小説を自分の手で一冊の本にしてみたい! と思ったから」というのだから、紙媒体に対する情熱は人一倍だ。

 

高校生の頃から、「どうすれば製本士になれるのか?」と調べていた高倉さん。しかし、装丁のデザインを学ぶところは数あれど、なかなか製本技術そのものを学ぶところがない。高校三年生になってようやく行き着いたのは、板橋区にある東京製本高等技術専門学校だった。

 

本来であれば、東京都製本工業組合の組合員のみに門戸を開いている職業訓練学校だが、2011年から一般入学も受け入れ始め(一般枠とし人数は制限されている)、高倉さんは晴れてその専門学校に入学することとなった。

 

都内の製本工場で働きながら、授業を受けるという学生生活。20年ほど前には30名ほどが一斉に学んでいたという学校で、高倉さんが一年間共に学んだ同期は6名だった。東京都だけでもかつては1200社ほどあった製本会社が、現在ではほぼ半数に減少したことで、製本士を目指す人も減少しているのだという。

 

「同期の方は年齢もバラバラで40代の方が一番年長でした。全く製本業のことを知らずに学校に入った私は特に学ぶことが多かったです。教えてくださった講師の方は作業がとにかく早く、正確で、その能力に圧倒されました。職人としての姿勢に関しても学ぶことが多かったですね。

 

例えば「いいかげん折り」という紙をあえて揃えずに折る技術があります。遊び心のある変わった技術なのですが、そのような新しい技術や表現方法も積極的に取り込んでいく。

 

職人の世界だと、どうしても保守的になるのではないか? と思う自分の偏見があったので、とても新鮮に感じましたし、そのような先生方を今でも尊敬しています」

 

そう学生時代を振り返った。

 

卒業制作
高倉さんによる卒業制作 小口(本の切断面)にもカラフルなマーブル模様が

 

 

リメイクした本は、カラフルで美しく変身

 

学校を卒業した現在は、自宅のある山梨で製本士として活動をしている高倉さん。主な仕事は本のリメイクで、持ち主のお気に入りの本をオーダーメイドで上製本(ハードカバー)に作り替えている。特にコンパクトなサイズで気軽に買える文庫本をハードカバーにするのが人気で、イベント時には古本店から指定された文庫本をリメイクすることも。

 

依頼された本は必ず内容に目を通して作品にマッチした製本を心がける。装丁にはイタリア製のカラフルなラッピングペーパーを使用するなど、本に対する深い敬意と若い感性で手がけた作品が人気を呼んでいる。

 

文庫ハードカバー三種
文庫の表紙を利用した上製本

 

和綴じ本
和綴じ本制作のワークショップなども手掛けている

 

「学校で教わった先生方に顔向けできる仕事をしたい」と高倉さんは、同校で学んだ「基本に忠実に」をモットーに作業を行っている。そんな彼女に実際の製本工程を教えてもらった。

 

文庫本をハードカバーに―製本の過程

 

1.文庫本のカバーを外し、表紙を本体から剥がす。表紙の題名部分を切り抜いておく(表紙の題名部分は完成後の表紙に貼りつけるため)。

 

製本工程1

2.ホットメルト(熱で融かして接着させる接着剤のこと。本がバラけないように本の背に接着してある白い糊の塊)を剥がす

 

3.見返し(本と表紙を合体させるために表紙の内側に貼る紙のこと)を本のサイズに切る

 

見返し拡大
参考画像 見返し(本の内側の黄色い紙)

 

 

4.化粧断ち(印刷物や本の中味を仕上げ寸法どおりに断裁すること)

 

5.耳だしをする

 

角背 耳
参考画像 耳だしされた上製本(ねじの頭のように角ばっているところが本の耳) 背表紙の内側に見えるピンクの布は、のちの工程で出てくる花(はな)布(ぎれ)

 

耳だしとは、本の中身を万力などで締め付けたときにはみ出した部分をハンマーで整えることを言う。表紙と接着しやすくすることで本の開きを良くし、本の形を整えるための重要な作業だ。

 

製本工程5

耳だし用ハンマー
耳だしに使う特注のハンマー。溝に紙を引っかけて使う。あまり市場に出回らない貴重な品

 

 

6.寒冷紗(かんれいしゃ)(固く糊付けした綿等)と栞を本につける。花(はな)布(ぎれ)(中身の背の上下の両端に貼り付けた飾り布)をつけて、本の背に張り付ける(1日置く)

 

製本工程6

 

たわしで叩いている赤い紙は「背貼り紙」。これをつけることで本の背を補強して、読んでいる最中に本が割れないようにする

 

7.ボール紙と表紙を切る

 

8.表紙に糊付けし、ボール紙をくるむ(1日置く)

 

製本工程8

 

9.表紙と本文をボンドで貼る

 

10.竹籤で溝入れ( 1日置く)

 

製本工程10

 

11.見返しに糊を入れる

 

12.元の表紙を貼り、1日伸す (1日置く)

 

SANYO DIGITAL CAMERA

 

13.汚れ・曲がり・ゆがみチェック

 

14.完成後、納品

 

以上の工程を経て一つの本に仕上げる製本士という仕事。現在、製本工房インキュナブラでは注文から納品まで約三週間かけて製作している。

 

「お客様との打ち合わせや、材料の取り寄せ、新たに作る道具などの用意で時間がかかってしまいますが、時間をかけた分、満足していただけるとうれしいですね」と、高倉さんはオーダーメイドならではの製本の楽しさを語ってくれた。

 

 

出版業界の縮小によって失われつつあるという製本士の技術。本を少しでも長く、美しく保存したいという顧客のニーズがあるかぎり、形を変えながら今に生き続けることになるだろう。 (取材・文 四畳半しけこ)