出したいものがあれば、誰でも出版に挑戦してみてほしい
― 普段こちらの事務所では、お仕事をされるのでしょうか。
今はあまり使っていないですね。ワークショップやイベントをすることもあるし、事務所としてどこかに場所を持っておきたかったのでここを借りました。以前は、「編集者のためのデザイン塾」などを開講。今の編集はパソコン上で完結してしまうことが多いので、色彩やデザイン空間のことなど、みっちり教えていただいたんです。
― そうだったのですね。林さんは、出版に関することを盛り上げたいという想いがあるのでしょうか。
出版業界を盛り上げたい、という気持ちは全然ないんです。ひとり出版社を立ち上げる人や個性的な本屋を開く人など、色々な例が出てきていて、個々のケースには興味があるしおもしろいと思っていますが。業界のことを、一元的には見られないかな。世の中にある全ての本屋というよりは、自分にとって身近な本屋を気にかけたいです。
― 本を作られる中で、本の役割について何か考えることはありますか。
大きな括りでの“本”というものに役割があるとも、本の素晴らしさを残していきたいともあまり思っていません。私は純粋に、面白いと思うものを作りたい。今はそれが、本で届けることがベストだと思っているので出版をしています。
たとえば文章であれば同じ内容でも、書体や紙質で受け取り方が違いますよね。ディスプレイや端末が違う度に文章の印象が変わることを、本という体裁であれば避けられる。逆に本ではなく、ネットメディアで広めた方が良いと思う表現ならば、無理に書籍化しなくてもいいと思います。
色々なメディアが出てきたことで、今までは本や雑誌が担ってきた部分が淘汰されるというか、情報の棲み分けが起きてくる。これからはそれぞれの表現において、ベストな状態で届けられる時代になるのではないでしょうか。
― ありがとうございました。最後に、読者へメッセージをお願いできますか。
出版ってそれほど難しいことではなくて、ZINEとかミニコミを出すこととあまり変わらないと私は思っています。最近は流通の敷居も低くなってきて、小規模で出版している本に関心を持つ読者も書店も増えている。
ですから挑戦してみたい方がいたら、どんどんやってみてください。その方が、素敵な本が増えていくのではないでしょうか。
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林さんは出産後、子育てと並行して本作りを進めている。娘さんも、ニコニコしながら取材に参加してくれた。イベントとして、現在はあみもの作家による「屋上あみもの教室」を開催したり、野球の魅力を語り合う野球倶楽部を実施したりなどしている。
出版業界全体のことではなく、自分の身近で気になることに注目し、行動を起こしていくという林さん。出版社という枠組みに縛られず、興味の赴くまま、今後も新たな展開を見せてくれるだろう。編集室屋上の実験は続く。(取材・文 平賀たえ)
『編集室屋上』WEBサイト