銀座の文壇バーのママとオンライン飲みをしたら、素敵すぎて今すぐ飲みに行きたくなった。

銀座にある文壇バー・ザボン。40年以上の歴史を持ち、丸谷才一氏、渡辺淳一氏、星新一氏など、そうそうたる作家が愛したことでも知られている。そんな名店を支える水口素子ママと、月に吠える通信編集長コエヌマのオンライン飲みに密着レポート! 銀座×新宿ゴールデン街、老舗文壇バー×プチ文壇バー。異色の組み合わせからどんな会話が生まれたのだろう。出版文化、酒場経営、コロナなど話題は多岐にわたった。

 

本企画は、プレジデント社が運営するクラウドファンディングで、ザボンさんが実施した『銀座の老舗文壇バーを支援!ママと「オンライン飲み」してみませんか?』のリターンとして実現したものです。 

 

目次

銀座は未知の世界!?

素子ママ:はじめまして。

 

コエヌマ:はじめまして、今日はよろしくお願いします。よければ最初に乾杯をさせてください。

 

素子ママ:そうですね、乾杯!

 

コエヌマ:乾杯! ……それにしても、すごく斬新な試みですよね。いろいろな飲食店がクラウドファンディングをしていますが、リターンはドリンクチケットが多くて、“ママとオンライン飲み”はほかになかった気がします。

 

素子ママ:私は『プレジデント』さんで連載をさせてもらっているのですが、そのご縁で、プレジデント社の方に企画していただいたんです。オンライン飲みなら、銀座になかなかいらっしゃる機会がない方ともお酒を飲めて、面白いんじゃないかって。

 

コエヌマ:確かに。僕は新宿でお酒を飲むことが多いのですが、夜の銀座は未知の世界という印象です。どう振る舞えばいいかとか、想像できないんですよね。

 

素子ママ:文壇界隈でしたら、新宿も銀座も同じお客様が多いから、雰囲気は近いと思いますよ。ちょっと値段が違うのと、銀座のクラブは女性(ホステス)がいるので、ときどき艶っぽい話にもなりますけど、文化圏は同じだと思います。

 

作家のM.Sさんが、新宿と銀座の違いをエッセーに書いてらしたんですが、新宿で飲むとママにお説教されるんですって。銀座のザボンで飲むときは、ママはじめ大した美人がいないから気楽に飲める、って仰ってました(笑)。

 

コエヌマ:そうなんですか(笑)。

 

素子ママ:褒めてるんだか、けなしてるんだかよくわからないんですが(笑)、まぁリラックスできると書いてありました。K.S先生もそうです。ザボンに来ると、ホームグラウンドに帰ってきたみたいにリラックスできるんですって。だから遅くまでいて、それから新宿に行って朝まで飲まれるんですよ。

 

コエヌマ:そう聞くと、銀座も身近に感じますね。

 

素子ママ:うちは気取ってないですから、親しみやすいと思いますよ。私がノー天気なので(笑)。

 

こんな人はひっぱたきます

コエヌマ:お客様で文壇の方が多いと、働いている女性たちも本がお好きなのですか。

 

素子ママ:うちは小説家も漫画家の先生もいらっしゃいますが、来てくださる方の本を、女の子たちは大体目を通しています。先生のお名前や、どういうジャンルで書かれているか、どういう作品があるか、など把握していると思いますよ。

 

コエヌマ:は~、さすが。採用基準が気になります。

 

素子ママ:本とか映画とかお芝居とか、文化的なものが好きな子は採用します。そういうのは興味ありません、って人は合わないかな。

 

コエヌマ:やはり美人なだけでは務まらない。

 

素子ママ:はい、お客様が退屈されてしまいますからね。映画や音楽の話ができれば、会話が広がっていくことが多いんです。私もね、毎日ひとつずつ新しいことを覚えるようにしています。毎日テレビのニュースを見ていますし、映画専門チャンネルもいっぱい契約しているので、昔の洋画をよく観ています。コロナになる前は、月1回は必ず映画館に行っていたんです。

 

コエヌマ:銀座のママは、お客様との会話を弾ませるために、勉強をおこたらないと聞いたことがありますが、やはり努力されているのですね。

 

素子ママ:でも私、時代遅れなんです。昨日もね、パプリカって言われたのを、野菜のパプリカだとばかり思っていて。そうしたら、米津玄師さんの「パプリカ」っていう歌だったんですね(笑)。

 

コエヌマ:若者文化にまで詳しかったらすごいですよね(笑)。ところで、お客様が口説いてきたときに、働いている女性はどういう距離感で接するんですか?

 

素子ママ:そこはね、各自にお任せしていますが、やっぱり口説く以上は覚悟してもらわないと困りますよね。初めて来たのに、「ホテル行かないか?」なんて言うお客様は、私がひっぱたくんです。「何言ってんの、来たばっかりでしょ。そういうことは、もう少し月謝を積んで(通って)から言っていただいた方がよろしいですよ」って。

 

コエヌマ:さすが、毅然とされていますね…!

 

素子ママ:でも最近は、ギャラ飲み目当てみたいな女の子も時々舞い込んでくるんですよ。働きたいって面接に来て、終わってもなかなか帰らなくて、お客様と飲みながら深夜1~2時までいて。タクシー代だけもらって帰って、結局それっきりの子がいました。だんだんプロがいなくなっちゃったんです、銀座は。私たちのときは修行して、自分でお店を持ったママが多かったんですが、今は素人さんの方が強いですよね。

 

コエヌマ:確かにお店を構えるとあまり身動きできないけど、働くだけなら、すぐいなくなったり逃げたりもできますものね。

 

素子ママ:信用第一で私たちはやってますから、ちょっとでも変なことしたら「あの店はこうだ」って噂になりますもの。だからお客様といい加減なことはできないですし、常におもてなしの気持ちを持ってやっています。

銀座のママから見たゴールデン街

素子ママ:コエヌマさんのお店は、どういう方がいらしてるんですか?

 

コエヌマ:うちは若い人が多いです。編集者も来てくださいますし、ライターや作家の方も。出版社に就職したい大学生もいますね。そういう人同士が交流できる場になれば、と思ってお店をつくったんです。ママは、ゴールデン街には行かれたことありますか?

 

素子ママ:いえ、全然行かないです。と言うか、連れてってくれる人がいないんですよ。お店が終わると、お客様は若い子を連れて新宿に行くのですが、「ママはお留守番」って誰も誘ってくれないの(笑)。

 

コエヌマ:(笑)。どんなイメージがゴールデン街にあります?

 

素子ママ:今は外国人のお客様が多くて、国際的じゃないんですか。

 

コエヌマ:そうですね。今はコロナの影響で外国人がほぼいないんですが、ちょっと前まで観光地としてすごくにぎわっていました。でも昔は、文化人が集まる飲み屋街だったそうです。僕はすごく本が好きで、一時は小説家になりたくて。なのでゴールデン街は、中上健次さんや田中小実昌さんとか、そうそうたる作家たちが飲んでらっしゃった街ということで、すごく憧れがありました。

 

素子ママ:うちに来るお客様も、新宿で飲まれる方が多くて、ゴールデン街のお噂も聞いています。私も今度、行ってみようと思います。

 

コエヌマ:ぜひ、ご案内します!

美人ホステスとママが語る文芸評論家との思い出

 

素子ママ:あ、よければ女の子を一人呼びますね。エミュちゃん、ちょっと!

 

エミュ:はじめまして、エミュです。よろしくお願いします。

 

コエヌマ:よろしくお願いします。エミュさんはどうしてザボンさんで働きはじめたんですか?

 

エミュ:お友達の紹介だったんですけど、文化人の方が多く来られるって聞いて、すごく勉強にもなるだろうなと。もともと本は読まないタイプだったんですけど、ここで働くようになってから、ものすごい量を読むようになりましたね。

 

素子ママ:エミュちゃんは、亡くなられた文芸評論家の坪内祐三さんの担当だったんですよ。

 

コエヌマ:そうなんですか!? どのくらい担当されていたんですか?

 

エミュ:ここ2、3年ですかね。1~2週間おきに同伴してくださって、いろいろなところに連れて行ってもらいました。奥様も交えて飲みに行ったり、相撲に連れて行ってくださったりしました。

 

素子ママ:私は坪内さんが20代のころから知っていたんです。雑誌の編集をなさっていたころからのお付き合いですね。

 

コエヌマ:坪内さんと言えば、映画にもなった『酒中日記』を読みましたが、お酒好きで、豪快というか、古き良き昔の文壇というイメージの方です。

 

素子ママ:最後の文士だと思うんです、昭和の慰労を残した文士って感じですよね。

 

コエヌマ:僕の知り合いも酒場でからまれたと言っていました(笑)。

 

素子ママ:昭和はそういう作家さんが多かったですが、坪内さんが最後じゃないですかね。色んなエピソードいっぱいありましたけどね、今は楽しい思い出です。私ともしょっちゅう喧嘩しましたよ。

 

コエヌマ:それはどんなことで?

 

素子ママ:ママはボケてきたから、晩節を汚さないためにももう店を辞めた方がいいよ、って仰ったので、ムカっと来て、「そっちだってボケてんじゃないの」って言って喧嘩したんですよ。いつもそんな感じで、喧嘩したり仲良くなったり……なんかもう兄弟みたいでした。

 

コエヌマ:すごく貴重な思い出ですね!

 

エミュ:では、私はここで。

 

コエヌマ:ありがとうございました!

大作家たちが原稿料ナシで寄稿

コエヌマ:もう少し文壇の先生方とのエピソードをお聞きしたいです。

 

素子ママ:丸谷才一先生がうちの名付け親で、一番お世話になった方なんです。だから、丸谷先生が芥川賞の選考委員をしてらっしゃったとき、選考会の帰りにはいつもここでお祝いをしてくださっていました。受賞者の方も来てくださってね。

 

ザボンをオープンしたとき、お客様に「ここは文壇バーです」って言ったら、丸谷先生に叱られたこともありました。

 

コエヌマ:何でですか?

 

素子ママ:自分で文壇バーと言うやつがあるか、って。「どういうときに言うの?」って聞いたら、「それは世間様が言ってくださるんだ、みっともないこと言うんじゃない」と。はぁ、そうなんですか……って恐縮したことがありましたね(笑)。

 

コエヌマ:いやその通りですね(笑)。うちも文壇バーとか勝手に名乗っちゃってるんです。開店当初は、ゴールデン街で古くから飲まれている方々に怒られたものでした。

 

素子ママ:いいじゃないですか、なんでもいいんですよ。でもね、昔の作家さんたちは、そういうことをきちっと教えてくださいました。実はそういった体験を書いたエッセーが、11月に新潮社から出版されるんですよ。

 

コエヌマ:そうなんですね、すごい!

 

素子ママ:寄稿してくださった先生方がすごいの! 坪内祐三さんはじめ、重松清さん、島田雅彦さん、吉田修一さん、さいとう・たかをさん、北見けんいちさんなど。私の書いたものより、そっちの方がはるかに面白いです(笑)。しかも、皆さんタダで書いてくださって。原稿料払いますって言ったら、「飲み代と相殺でいいよ」って。

 

コエヌマ:それ世の編集者が聞いたら卒倒しますよ。うらやましくて!

 

素子ママ:今じゃ考えられない思い出がもう、いーっぱいあるんですよ。だから老後のわたしは思い出だけで生きてます。

 

コエヌマ:いやいや、これからも文化を担って、思い出をたくさんつくってください!

 

ホオズキに込めた思い

コエヌマ:ところで、コロナの影響はどうですか?

 

素子ママ:ものすごくありますよ。文学賞の選考会も、今年はコロナの影響で早く終わっちゃうので、そのあと銀座に流れることもないです。受賞パーティーも全部なし。だからもう寂しいですよ、私たちは……。

 

コエヌマ:そうですよね……。やっぱりこんな事態は、40年やられて初めてですか?

 

素子ママ:はじめてです。これまでもバブル崩壊とかリーマンショックとか、いろいろなことがありました。3.11のときも皆さんが自粛されて、すごく不景気になったんです。そのときに、渡辺淳一さんなどお客様の作家の方のお名前を借りて、「こんなときだからこそ銀座の火を消さないで出てきてください」と案内状を書いたんですよ。そうしたらたくさんの方が来てくださって、なんとか持ちこたえました。けれど、ここまで長くて深刻なのは今回がはじめてです。

 

コエヌマ:僕もお店は大変ですが、感染リスクもあるし、お客さんに「来てください」と言えないのが辛いですよね。もちろん、来ていただきたいですけれど。

 

素子ママ:俺たちを殺す気か、なんて言われちゃいますものね(苦笑)。辛いところなんですけど、でもね、めげないようにって、今はホオズキ祭りをやってるんですよ。これ、伝統行事で毎年やってるんです。

 

コエヌマ:あ、きれいきれい、すごくきれいですね。

 

素子ママ:夏はホオズキ祭り、9月にお月見パーティー、そして12月にクリスマス、3月に桜祭りを伝統行事で毎年やっているんです。桜祭りは特に絢爛豪華なんですよ。桜の花をお店の中に300本くらい飾って、すっごいきれいなんです。いっぺん見に来てください。

 

コエヌマ:はい、ぜひ。大変ですが改めて、飲み屋という場所の楽しさや大切さを実感しました。特にこういった文化を担ってきたお店には、何とか残って欲しいってすごく思います。

 

素子ママ:私もいつもそう思ってるんですよ。お酒の取り持つ縁というか、お茶だけだとこういう打ち解けた話はできないですものね。うちは、作家さんに気軽に来ていただけるよう、作家学割というのがあるんです。

 

コエヌマ:作家学割?

 

素子ママ:出版社とか交際費のあるところがお代を持つときは、オフィシャルの料金をいただきますけど、作家の先生が負担されるときは学割にしています。これは、「眉」や(銀座の有名文壇バーの)「エスポワール」のころからそうでした。私もその伝統を引き継いでやらせてもらってます。

 

コエヌマ:とても粋なシステムですね。あ、名残惜しいですが、そろそろお開きのお時間です。今日はありがとうございました、一度ぜひお伺いさせていただきます。

 

素子ママ:ぜひまたお会いしたいですね。私もゴールデン街に伺います。

 

コエヌマ:ありがとうございました。楽しかったです。

 


 

一見してかけ離れたふたつの世界を文士たちが求め、愛し、繋いだように、「お酒の取り持つ縁」が新宿の新しい文壇バーの店主と、銀座の歴史ある文壇バーのママを繋いだ。「文化を残していきたい」と語った二人の目は柔らかく、でも強く、同じ方向を向いていた。ああ、酒場に行きたい! 書きながら何度もたまらなくそう思った。(取材・文 月に吠える通信編集部、みどり)

営業案内

東京・銀座 クラブザボン

東京都銀座6-9-13 第一ポールスタービル6F B室

電話:03-5544-8071

営業時間:20時~24時

定休日:土日

WEBサイト:https://ginzazabon.tokyo/

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