銀座の文壇バーのママとオンライン飲みをしたら、素敵すぎて今すぐ飲みに行きたくなった。

大作家たちが原稿料ナシで寄稿

左から作家の丸山才一氏と石川淳氏、講談社の編集者(「ザボン」HPより)。

 

コエヌマ:もう少し文壇の先生方とのエピソードをお聞きしたいです。

 

素子ママ:丸谷才一先生がうちの名付け親で、一番お世話になった方なんです。だから、丸谷先生が芥川賞の選考委員をしてらっしゃったとき、選考会の帰りにはいつもここでお祝いをしてくださっていました。受賞者の方も来てくださってね。

ザボンをオープンしたとき、お客様に「ここは文壇バーです」って言ったら、丸谷先生に叱られたこともありました。

 

コエヌマ:何でですか?

 

素子ママ:自分で文壇バーと言うやつがあるか、って。「どういうときに言うの?」って聞いたら、「それは世間様が言ってくださるんだ、みっともないこと言うんじゃない」と。はぁ、そうなんですか……って恐縮したことがありましたね(笑)。

 

コエヌマ:いやその通りですね(笑)。うちも文壇バーとか勝手に名乗っちゃってるんです。開店当初は、ゴールデン街で古くから飲まれている方々に怒られたものでした。

 

素子ママ:いいじゃないですか、なんでもいいんですよ。でもね、昔の作家さんたちは、そういうことをきちっと教えてくださいました。実はそういった体験を書いたエッセーが、11月に新潮社から出版されるんですよ。

 

コエヌマ:そうなんですね、すごい!

 

素子ママ:寄稿してくださった先生方がすごいの! 坪内祐三さんはじめ、重松清さん、島田雅彦さん、吉田修一さん、さいとう・たかをさん、北見けんいちさんなど。私の書いたものより、そっちの方がはるかに面白いです(笑)。しかも、皆さんタダで書いてくださって。原稿料払いますって言ったら、「飲み代と相殺でいいよ」って。

 

コエヌマ:それ世の編集者が聞いたら卒倒しますよ。うらやましくて!

 

素子ママ:今じゃ考えられない思い出がもう、いーっぱいあるんですよ。だから老後のわたしは思い出だけで生きてます。

 

コエヌマ:いやいや、これからも文化を担って、思い出をたくさんつくってください!

 

ホオズキに込めた思い

店内に飾られたホオズキの実。四季折々の風情を大事にされているそう。

 

コエヌマ:ところで、コロナの影響はどうですか?

 

素子ママ:ものすごくありますよ。文学賞の選考会も、今年はコロナの影響で早く終わっちゃうので、そのあと銀座に流れることもないです。受賞パーティーも全部なし。だからもう寂しいですよ、私たちは……。

 

コエヌマ:そうですよね……。やっぱりこんな事態は、40年やられて初めてですか?

 

素子ママ:はじめてです。これまでもバブル崩壊とかリーマンショックとか、いろいろなことがありました。3.11のときも皆さんが自粛されて、すごく不景気になったんです。そのときに、渡辺淳一さんなどお客様の作家の方のお名前を借りて、「こんなときだからこそ銀座の火を消さないで出てきてください」と案内状を書いたんですよ。そうしたらたくさんの方が来てくださって、なんとか持ちこたえました。けれど、ここまで長くて深刻なのは今回がはじめてです。

 

コエヌマ:僕もお店は大変ですが、感染リスクもあるし、お客さんに「来てください」と言えないのが辛いですよね。もちろん、来ていただきたいですけれど。

 

素子ママ:俺たちを殺す気か、なんて言われちゃいますものね(苦笑)。辛いところなんですけど、でもね、めげないようにって、今はホオズキ祭りをやってるんですよ。これ、伝統行事で毎年やってるんです。

 

コエヌマ:あ、きれいきれい、すごくきれいですね。

 

素子ママ:夏はホオズキ祭り、9月にお月見パーティー、そして12月にクリスマス、3月に桜祭りを伝統行事で毎年やっているんです。桜祭りは特に絢爛豪華なんですよ。桜の花をお店の中に300本くらい飾って、すっごいきれいなんです。いっぺん見に来てください。

 

コエヌマ:はい、ぜひ。大変ですが改めて、飲み屋という場所の楽しさや大切さを実感しました。特にこういった文化を担ってきたお店には、何とか残って欲しいってすごく思います。

 

素子ママ:私もいつもそう思ってるんですよ。お酒の取り持つ縁というか、お茶だけだとこういう打ち解けた話はできないですものね。うちは、作家さんに気軽に来ていただけるよう、作家学割というのがあるんです。

 

コエヌマ:作家学割?

 

素子ママ:出版社とか交際費のあるところがお代を持つときは、オフィシャルの料金をいただきますけど、作家の先生が負担されるときは学割にしています。これは、「眉」や(銀座の有名文壇バーの)「エスポワール」のころからそうでした。私もその伝統を引き継いでやらせてもらってます。

 

コエヌマ:とても粋なシステムですね。あ、名残惜しいですが、そろそろお開きのお時間です。今日はありがとうございました、一度ぜひお伺いさせていただきます。

 

素子ママ:ぜひまたお会いしたいですね。私もゴールデン街に伺います。

 

コエヌマ:ありがとうございました。楽しかったです。

 

 

一見してかけ離れたふたつの世界を文士たちが求め、愛し、繋いだように、「お酒の取り持つ縁」が新宿の新しい文壇バーの店主と、銀座の歴史ある文壇バーのママを繋いだ。「文化を残していきたい」と語った二人の目は柔らかく、でも強く、同じ方向を向いていた。ああ、酒場に行きたい! 書きながら何度もたまらなくそう思った。(取材・文 月に吠える通信編集部、みどり)

 

営業案内

東京・銀座 クラブザボン

東京都中央区銀座6-6-11 第四ポールスタービル4F

電話:03-3571-1727

営業時間:20時~24時

定休日:土日

WEBサイト:http://ginzazabon.com