セーラー服の歌人・鳥居 授賞式で涙こらえ「私は短歌が一生好きです」

 

幼少時に両親が離婚、小学生のときに目の前で母が自殺、入れられた養護施設で虐待を受け、ホームレス生活を余儀なくされる。義務教育すらまともに受けられなかった少女は、拾った新聞などで字を覚え、やがて短歌を詠むように――。

 

少女の名は鳥居。自分のように、教育を受けたくても受けられなかった全ての人が、教育を受けられる社会になってほしい。そんな思いから、成人した今もセーラー服を着て活動している。また、自身が短歌に出会ったことで救われた経験から、「生きづらければ、短歌を詠もう」と呼びかけ、歌会(短歌を詠みあう会)の開催など積極的に行っている。

 

病室は豆腐のような静けさで割れない窓が一つだけある

 

このような衝撃的な歌から始まる歌集「キリンの子」は、歌集としては異例の2万5000部(通常は500~1000部とされる)を突破した。その「キリンの子」が、第61回現代歌人協会賞を受賞。6月29日に都内で行われた授賞式に、歌人の鳥居さんが登壇した。

 

涼し気な夏服のセーラー服を身にまとった鳥居さんは、「私は特殊な生い立ちだと言われることが多いです」とスピーチ。そして、自分の生い立ちを話すと、聞いた方から「あまりにつらい」「耳をふさぎたくなった」という感想をもらうことがあると明かす。

 

しかし、『キリンの子』の読者から届く手紙には、「共感しました」という声が多いことを紹介し、「直接お話をすると、自分とはあまりにも境遇が違うので共感できない、想像もつかないと言われることでも、短歌や文学なら共感してもらえる力がある。私もいろいろな歌集を読んで感動することが多いので、やっぱり短歌ってすごいなって思います」と短歌の魅力をしみじみ語った。

 

そして、あらゆる歌人の先輩方や出版社、書店など、短歌に関わる全ての方への感謝を、涙をこらえながら口にし、「短歌に出会えて本当に良かったと思います。私は短歌が好きです。一生好きです。今日はありがとうございました」と愛情と感謝を言葉に込めた。

 

 

授賞式では、さまざまな歌人から祝辞が送られた。『キリンの子』の解説も担当した吉川宏志さんは、「(『キリンの子』は)切実な言葉で、技術的にもうまく歌われている。歌人を超えて様々な人に伝わっていくと思った。言葉で表現することで自分の命を支えたり、他人の人生を変えたり、世界を変えたり、そういうことに繋がっていく」と鳥居さんの歌の持つ力を絶賛。

 

東直子さんは、「痛切なエピソードを羅列するだけでなく、出来事を下敷きにして、鳥居さんならではの言語で表現している。伝えたいことがあるという思いを、言葉で模索していることが伝わってきた。自分が生まれてきたことを、何としてもこの世界に残したい、という思いが詰まっている」と、心を揺さぶられたことを明かした。

 

そして鈴木加成太さんは、かつて鳥居さんからお叱りを受けたというエピソードを紹介。「短歌はすごく小さな詩。ビートルズやボブ・ディランがしたように、世界を変えることはできない、と話したら、鳥居さんは強い言葉で『短歌をつくっている私たちが、短歌を信じないでどうするの』と。短歌にはたくさんの力や可能性があると教えてくださった」と、懐かしそうに振り返った。

 

足の調子がよくないという鳥居さんは、主催者の勧めで椅子に座って聞いていたが、やがて感極まったのか、立ち上がって祝辞に耳を傾けた。鳥居さんの真摯な人柄や、他人への感謝の大きさが伺える光景だった。

 

目を伏せて空へのびゆくキリンの子 月の光はかあさんのいろ

 

痛みやつらさを経験し、死んでしまおうと思うこともあったという鳥居さん。短歌に救われた彼女は、今度は短歌を通じて人々に勇気を与えている。短歌好きだけにとどまらず、全ての人の心に刺さる力が、その歌にはある。鳥居さんのさらなる活躍を、期待せずにはいられない。(取材・文 コエヌマカズユキ)