【前編】蛙の詩人・草野心平が愛した福島県の小さな村 小さな文学館を訪ねて

目次

村民との思い出はお酒ばかり

 

――心平さんは、村民の方たちとどのように接していたのでしょうか。

 

親しみをもって接していたようです。東京では「先生」という立場で、講演をされていたりする心平さんですが、ここでは村民の方々も「心平さーん」って気軽に接していたので、心平さん自身もリラックスできたんじゃないかと思いますね。

 

天山文庫ができる前は、長福寺に滞在していて、そこに村民が集まられていたようです。詩にもちょこっと出ているのですが、役場の人たちが心平さんのために、村の車を出して、木を取りに行ったりとか、心平さんが植木を探しに行くって言われたら、それに付き合ったりとか。村総出で付き合っていたみたいですね。

 

天山文庫に滞在中、心平さんは創作活動をしたり、村民たちと交流をしたりしたという。

 

――VIP待遇! 天山文庫ができて、心平さんが滞在してからは、県外からもさまざまな人が来るようになったのですか。

 

はい。それまではあまり文豪の方は来ていなかったようですが、棟方志功先生や辻一先生、石川達三先生など、天山文庫の設立に関わった方々を中心に、よくいらっしゃっていたようです。あとは「心平さんがいる川内村天山文庫」という感じで有名になったので、県内外から心平さんを訪ねてくる人が多かった、と聞いています。

 

 

――村民の方々と一緒に詩作などもしていたのでしょうか。

 

どうなんでしょうね。日記にはほとんどお酒を飲んだことしか書いてなくて(笑)。一緒にお仕事はあまりしなかったんじゃないですかね。村のことはよく詩に出てくるんですけど、ほとんどが村の人と地域の方との思い出話。「ご飯を出してくれた」「お酒を出してくれた」「酔っ払って落書きしちゃって」みたいなのが多いですね。

 

大先生が休める場所、遊びに来る場所みたいな感じだったんですね。ここは「どぶろく」っていう、村の人たちが自分たちで楽しむための手作りのお酒があるんですけど、そのお酒をとても気に入られて、よく飲まれたようです。

 

お酒好きだったという心平さん。酔っぱらったエピソードには事欠かないそうだ。

 

――村の行事にも度々呼ばれるようになっていったようですね。

 

はい、成人式だったり、就任式だったり。あと川内村は野球が盛んな土地なんです。「70の親父を始球式に連れ出すなんてこの村は本当に異常だな」ってことを詩にも書いてあるくらいで。何かあると「心平さんもおいでよ!」という感じだったんですよね。

 

川内村の人も、先生が来てくれるって喜んで、「川内甚句」という盆踊り歌を心平さんに作ってもらって一緒に踊ったりとか。校歌を作ってとか、石碑の文字を掘ってくれとかお願いしたり、お互い楽しい関係を築いていたみたいです。

 

 

――それだけ親しまれていたのですね。では、心平さんが亡くなったときはさぞかし……。

 

村役場で追悼式がありました。しばらく村の人が通えるように、特設会場を作っていたようです。心平さんは亡くなる一か月くらい前までここに来てたんです。

 

病院で入院していたんですけど、「最後に川内村へ連れてってくれ」って言うので、本当は入院していないといけない期間だったと思うんですけど、最期の願いみたいな感じでここにしばらく滞在していたんですね。

 

超簡単で美味!?心平粥

心平さんが寝泊まりしていた部屋が、当時の雰囲気のまま今も残されている。

 

――心平さんが本当に愛されていたことが伝わります。村の人は、初めは有名な人に来てほしい、と思ってたのが、いざ来てくれたら交流するようになったら人柄に惹かれたんでしょうね。

 

心平さんは人たらしなので、村の人もたらされたというか(笑)。気さくにしゃべってくれるので楽しかったみたいですね。ジンギスカンやお肉料理、中華料理をふるまったりしたほか、あとはお盆の中にいろいろなお花を並べてお客さんに出したんです。

 

バラだったりツツジだったり、そこらへんに咲いているのを摘んで。ご自身でも食べて、「これは渋味がある」とか、「これは舌にピリッと来るけどうまい」とか書いていますね。今も村には心平さんと交流のあった方が結構いらっしゃって、「お花を出されてびっくりした」と言っていますね。

 

料理好きだった心平さん。このキッチンで村民たちにふるまう料理を作っていた。

 

――料理好きだったのですね。料理好きの文豪と言えば、檀一雄さんが浮かびますよね。

 

『檀流クッキング』にも心平さんのレシピが載ってますよね。檀一雄さんとは交流があったみたいで、お互い料理もふるまっていたみたいですね。『檀流』に載ってる「心平粥」を、私もこの前作ってみました!

 

水と同じくらいのものすごい量の油を使うので、お鍋全面が油になって心配になるんですけど……意外とさっぱりしています。

 

 

『酒味酒菜』という心平先生さん著の食エッセイに色々とまとまっているのですが、心平さん自身貧乏でしたし、エビの頭の食べ方とか、魚の肝をいかにして食べるとか、食べると食あたりを起こすようなものとかも工夫して食べていたみたいですね。(取材・文 月に吠える通信編集部・ささ山もも子)

後編に続く

 

天山文庫

住所:福島県双葉郡川内村大字上川内字早渡513
開館時間:午前9時~午後4時
休館日:月曜(祝日の場合は開館)
入館料:一般300円、高校生・学生250円、小・中学生150円(20名以上の団体は50円割引)
ホームページ:http://www.kawauchimura.jp/sp/page/page000108.html

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