「その企画を本にする必要があるのか」ヒットメーカーの編集者2人がトンデモ企画を一刀両断?

「まだ会ったことのない君を、探している」

 

これは、2016年に公開された新海誠監督によるアニメーション映画「君の名は。」のキャッチコピーだ。同作は日本映画の歴代興行収入ランキング4位にあたる250億円を超えた大ヒット作品。1度だけでなく、複数回観たという人も多いのではないだろうか。

 

筆者も「君の名は。」好きの1人であり、かれこれ5回は鑑賞した。しかし、それだけ観ても解けない謎が1つある。劇中で入れ替わりを繰り返す主人公の瀧と三葉は、実際に会うことはおろか、電話やLINEさえせず、日記のみのコミュニケーションしか取らない。

 

しかし突然2人は恋に落ちる。そのきっかけは描写されていない。本当に入れ替わるだけで人を好きになるのか、そんな疑問がいつも頭をもたげていた。

 

 

話は変わり、2018年某日、以前から本を出版することに興味があった筆者は、コエヌマ編集長から「出版BOYZ」という方々を紹介してもらった。出版BOYZとは、実務教育出版の編集者・小谷俊介さんと、ごきげんビジネス出版の編集長・伊藤守男さんにより結成された編集者ユニットだ。

 

小谷さんは語学書から健康書までボーダレスに80冊の本を手がけてきた。これまで出版した本の増刷率は50%を超えるというヒットメーカーだ。

 

伊藤さんは電子出版の領域で著者160名を輩出し、刊行書籍数は270冊。1万ダウンロードを超えるヒット作を続々と生み出してきた。電子出版がきっかけで商業出版をした著者の中には、15万部突破のベストセラー作家になった人もいるという。

 

今回、紙と電子でヒット作を生んできた2人に、筆者が作った本の企画を評価してもらうことになった。その私の企画が、冒頭の疑問を解決し、ノンフィクション作品としてまとめる「リアル君の名は。」だ。簡易的な企画書を下記に掲載する。

 

 

高校生のセッティンングのみならず、周囲の協力も必要なこの企画。本当に可能かどうかは一度脇に置かせてもらう。実現できると仮定して、このノンフィクション作品は2人の目にどう映るのか。企画書を見てもらい、意見を聞いた。

目次

本はギャンブル、5000部を売り切れる企画か

 

――この企画を本にまとめると想定した場合、いかがでしょうか? 率直な意見を聞かせてください。

 

小谷俊介さん(以下 小谷):そもそもなんですけど、この企画を本にする必要性があるのか、少し疑問です。この企画では、男女の入れ替わり生活の様子を、文字と写真で伝えるんですよね。入れ替わっている2人の表情や実際の声、周りのリアクションなどの生々しさがあって成り立つコンテンツかなと。

 

これは本の弱点でもありますが、そういった生々しさを出すことは難しい。企画自体は興味深いですが、基本的に映像向きの作品だと思います。

 

 

――まずはコンテンツがどの媒体に適してるかを考えるべきだと……早速耳が痛いです。伊藤さんはいかがですか?

 

伊藤守男さん(以下 伊藤):そうですね、まずは本ではなくてWEBに掲載した方がいいかなと。企画書では10〜20代の人が対象読者とありますが、本の購入者層はだいたい40〜50代。本で出すなら対象年齢層を50代くらいまで広げたほうがいいし、もしこのターゲット層に向けるならWEBの方が適している。

 

例えばブログやSNSに掲載するとか、小説投稿サイト「小説家になろう」やアメリカでも話題になったチャット型小説アプリなどのプラットフォームに作品を載せてみるとかですね。そういったところで若い人の支持を広げていくことですね。

 

あとWEBで出した方がいい理由がもう一つあって、売れるという確証がないと、本にするのが難しいからです。

 

小谷:そうですね、今回の企画内容的にも、まずはWEBで人気を得ないと出版は難しいですね。本はある意味ギャンブルですから。

 

 

――どういうことでしょうか?

 

小谷:本の出版にどれくらいの費用がかかると思いますか?

 

 

――そうですね……70〜80万円ほどですか?

 

小谷:この企画を本にするなら、写真を入れて、しかもカラーのほうがいいですよね。それに用紙代や印刷代、編集代なども必要です。初版の一般的な発行部数である5000部を刷れば、安くても200万円はかかります。投資と似ていますよ、200万円を投じて果たして利益を得ることができるかです。

 

伊藤:最低でも5000部を売り切れる作品か、未達の場合は残りの部数を買い取ってもらう覚悟がないと、本にするのは難しいですね。

 

文芸作品はマーケティングができない

 

――売れる見込みがないと出版は難しく、その点、WEBで話題になっている作品は売れる確率が高いから、出版に至りやすいと。

 

小谷:そうですね。あと、ジャンル的にも売れる見込みが立てづらい企画なので、やはりWEBで様子を見た方がいいと思います。

 

本は、文芸作品とそれ以外にざっくりと分けられます。後者はいわゆる自己啓発書や実用書。これらは読者の悩みをテーマにしているので、マーケティングができるんですよ。例えば、「二日酔いを予防する飲み方を医者に聞いてみた」という企画など、お酒に困っている人は一定層いるのでニーズもそれなりにあると予測できます。

 

しかし小説をはじめとした文芸作品は、読者がこんな物語を読みたいといったニーズを探ることは難しい。マーケティングができず、売れる確証が得難いのです。また、時代的にも文芸作品はヒットしにくい。

 

そのため一般的には、公募で賞をとった作品や売れっ子作家の作品など、読者が見込める作品が本になります。この企画はどちらかというと、文芸作品に属しますよね。本で出すなら賞を受賞するとか、WEB上でバズらせるとかしないと難しいかなと。

 

 

――確かに、文芸作品は読んで初めて「こんな作品が読みたかった」と思いますからね。ニーズの特定は難しい。

 

伊藤:あと、やってみなきゃわからない実験的な企画でもありますよね。2人に入れ替わり生活をさせて、結局恋が芽生えないという結末もありえる。

 

その場合、映画と同じようなハッピーエンドを望む読者はがっかりするかもしれない。芽生えなかったら芽生えなかったで面白いのかもしれませんが、それもやはり読者に見せなければ分かりません。

 

結末がわからない、不確定要素が多い企画なので、なおさらWEB上で反応を見た方がいいと思います。そこで面白いと話題になれば出版することは可能だと思います。ただやっぱり、文字媒体よりも、映像で見てみたい作品ではありますかね(笑)。

 

小谷:確かに、まずはTV局に企画をもっていくという選択はありだと思います(笑)。

 

 

――では、本を出したい人が企画をつくる際、どんなことを意識するべきなのでしょう?

 

小谷:自分がその本を書ける理由(書く資格)と、読者の得られるもの(メリット)を明確にします。最終的には「書きたいこと」「書けること」「読者の求めること」の三要素が重なる部分を見つけるのが大事です。読者の求めることは、編集者が詳しいので、著者は残りの二要素を明確にすることに全力をそそぐべきですね。

 

伊藤:「著者が読んでもらいたい内容」ではなくて、「読者が読みたいと思う企画かどうか」です。ここは本当に大きな違いで、大概の企画は、著者が伝えたいことが全面に出てしまっていて、読者が置いてけぼりになってしまっています。

 

 

――企画をつくって、編集者に見てもらいたいと思ったらどうすればいいのでしょう。 出版社に郵送したり、電話したりしてもいいものなのでしょうか。

 

小谷:電話は原則NGです。編集者は、自分の時間が強引に奪われることを何より嫌いますから。郵送は可ですが、スルーされるリスクが高いでしょう。よって、本の奥付で担当編集を確認して、その編集者宛に企画書を送ったり、ツイッターで編集者をフォローし、丁重なメッセージを送るのが良いですね。

 

伊藤:直接郵送するなら、送り先の出版社がどんな得意分野をもった出版社なのか、きちんとリサーチして送る方がいいかなと思います。例えば絵本の企画なのに、ビジネス書を出している出版社に持ち込むようなことは止めておいた方がいいかと。

 

また大手出版社に送っても、おそらく見てもらえないので、それも止めた方がいい。それよりは、編集者と直接会えるようなイベントや出版記念パーティに行ってみるとか、編集者と会うということに力を使った方が早いと思います。

 

 

――とても参考になりました。本日はありがとうございました!

 

伊藤さん・小谷さんからお知らせです!

 

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『結局、人生はアウトプットで決まる』

 

初の数学的自己啓発小説!
『論理ガール』 

 

ひふみん初の子ども詰め将棋本!
『ひふみんのワクワク子ども詰め将棋』

 

取材後記

物書きでなくても、「生きているうちに自分で書いた本を出版したい」と願う人は少なくないはずだ。自分の経験や想像が形になった本は、スマートフォンで最新のニュースから動画まで見れる現代においても、色あせない魅力を放っている。

 

ただ、本に最も適したコンテンツとは何なのか。SNSやVRを通じた次世代型メディアが増えつづける時代に、本を出版する夢を持つ人は考え続けなければいけない。(取材・文 田中一成)

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