太宰治からハロプロまで、何でも落語にしちゃう立川志ら乃さんの寄席に行ってきた。

撮影・武藤奈緒美
撮影・武藤奈緒美

 

 

落語版『竹青』を聞いてみた

 

太宰治の作品を題材にした落語を聴きにいって来た。噺家は立川志ら乃さんである。その名の通り、立川流所属の落語家であり、故・立川談志の孫弟子にあたる。

 

落語といえば『寿限無』や『黄金餅』など、大正時代までに作られた古典落語をイメージするかもしれない。しかし志ら乃さんは、今回のような文学作品のほか、人気女子プロレスラーの華名を­弟子に取り、落語とプロレスがコラボした興行を行ったこともある。

 

また、ハロー!プロジェクトのアイドルグループ℃-uteそのものを落語化してしまうどころか、「女子落語」というイベントでは彼女たちに落語を教え、なんと落語家としては素人のアイドルが落語を披露したことも。

 

ほかにも漫画「昭和元禄落語心中」や、アメコミのヒーロー「スーパーマン」など、様々なジャンルを題材にした落語を作り続けている。

 

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そんな志ら乃さんは、創作落語を披露する「らくご錬金術」という独演会を、毎月開催している。会場はレフカダ新宿という小さなライブハウス。鳥獣戯画、昭和元禄落語心中など、一体これをどう落語にするのか、想像もつかない作品を毎回発表してきた。今回取材したのは、太宰治の『竹青』を題材に扱った回だ。

 

同じ立川流の立川談吉さんによる前座の後、志ら乃さんは古典落語『看板のピン』、そしていよいよ『竹青』を披露した。

 

『竹青』あらすじ

主人公は、中国の湖南省で暮らす貧しい書生の魚容。マジメだが運には恵まれず、見た目も性格も悪い妻に冷たく扱われる日々。ある日一念発起した彼は、妻を殴って家を飛び出し、郷試(※)を受けるが落第。肩を落として帰る途中、横になってカラスを眺めながら「カラスは貧富がなくていいなぁ」とつぶやくと、突然現れた黒服の男によって鳥にされ、竹青という雌鳥と出会うのだった。

※中国の科挙(日本でいう国家公務員登用のための試験)における試験の一つ

 

太宰作品というだけで、観客、特にファンからすると、既に頭の中でイメージができあがっているだろう。しかし落語にする以上、原作通りというわけにはいかない。

 

そもそも『竹青』は、太宰が中国清代の作家・蒲松齢による怪異譚『聊斎志異(りょうさいしい)』を元に書いた二次創作なので、志ら乃さんの落語は三次創作ということになる。元の良さを残しつつ、落語版としてどこまで「創作」するのか、注意しながら聞いた。

 

落語では、主人公が書生から売れない絵描きに変えられていたところがまず驚きだった。性格は原作同様にうじうじしている。志ら乃さんの自伝本のタイトルも「うじうじ」だったことを思い出し、自分を重ねながら噺を作ったのだろうか、と考えたりもした。

 

 

 

とても面白かったが、情景を思い浮かべるのが大変な部分もあった。目で活字を追うのと耳で聞くのでは、作品の面白さや魅力に微妙な違いが生まれる。そう考えているうちに終演を迎えた。

 

 

皆で作品に赤ペンを入れてみた

 

さて、原作を読んでいるお客さんからすると、「この部分はどうして省いたのか」「なぜ主人公を絵描きにしたのか」など、気になる部分が出てくる。それに答えるのが、「らくご錬金術」恒例のアフタートークだ。

 

今回のアフタートークは、劇団「花組芝居」の劇作家/演出家の大野裕明と、談吉さんを交えて行われた。二人が作品に対して意見や疑問をぶつけていくほか、お客さんのアンケートもその場で読まれていく。まるで、その場に集まった人が皆で赤ペンを入れるように。

 

それを受けて、志ら乃さんは「なるほど」「その見方はなかった」など気づきを得て、作品をさらに研ぎ澄ませていくのだ。そう、『らくご錬金術』は落語を楽しむだけでなく、アフタートークも含めて、観客が「ものを作る」ことの大変さや楽しさなどを垣間みることができるイベントなのである。

 

 

終演後、志ら乃さんに話を聞いてみた

 

ぜひいろいろお話を聞いてみたい。そう思って終演後の楽屋を訪問すると、志ら乃さんは快く取材に応じてくださった。

 

―文学作品を落語にする取り組みは、以前からなさっているのですか?

 

はい。最初にしたのは安部公房の『砂の女』でした。すると周りの人たちから、「内田百閒とかやらないんですか? こんな作品ありますよ」とたくさん紹介されるようになったんです。

 

その矢先に「太宰治の『カチカチ山』を題材にした落語をしませんか?」というお誘いがあって、『転宅』という落語に『カチカチ山』の要素を足した噺を作りました。それが案外面白いってことになり、いろいろな太宰関連のイベントに呼んでもらって、太宰作品の落語を披露するようになったんですね。

 

 

―太宰作品を落語にしてみて、手ごたえはどうでしたか?

 

太宰の作品を何冊か読むと、暗い作品ばかりじゃなく、おちゃらけた作品もあるんだ、という発見がありますよね。けれど、何だかんだで本を読む人と読まない人ははっきりしています。

 

普段本を読まない人が、落語を通して「太宰ってこんな楽しい話も書いていたんですか?」と驚かれるのを見たときは、落語の新たな可能性を見いだせたようでした。

 

 

―今回、なぜ『竹青』を題材に選んだのですか?

 

『かちかち山』を読んでいるときに、同じ本に『竹青』が入っていたんです。読んでみたら夫婦の話で、SF的なノリがあって、カラスっていうキーワードもあり、面白そうだなと。

 

実は、最初は『グッド・バイ』を落語にしようと思っていたんです。あれは未完だから、「私が落語でサゲをつける」みたいなことを言っていたんですが、難しいなと。読んで面白いものと、落語で聞いて面白いものはやっぱり違うので、変換するのが大変なんですね。

 

特に読んで面白くでき上がっているものは変換しづらいんです。それを超えるにはどうすればいいんだ、っていうね。

 

 

―志ら乃さんは、元々文学がお好きなのでしょうか?

 

中学の卒業文集には「ノーベル文学賞を取る」なんて書いてました(笑)。三島由紀夫に被れて読み漁っていましたね。三島が太宰を嫌っていた、と何かで読んだりすると、「太宰を読んでる奴なんかは……」って自分も言うみたいな。

 

あとタイトルにやられて、坂口安吾の『堕落論』も読みましたが、難しい漢字ばっかりだから飛ばして読んだり(笑)。大学では文学部だったのですが、落研に入ってからは勉強しなくなりましたね。

 

 

―そうだったのですね(笑)。志ら乃さんといえば、古典落語以外にも、色々な分野とコラボをした創作落語を積極的に行っていますよね。

 

もともと色々な作品を見るのが好きなんです。見ているうちに、「これを落語にするとどうなるんだろう」と思って、やってみるっていうね。それで、どうせだったら本当の人とやってしまおうと、℃-uteの落語をしたんです。

 

℃-uteを知らなくても分かるような作りにしたら、ファンの方もいっぱい来ましたし、落語がきっかけで℃-uteのことを調べてみた、なんてお客さんもいて嬉しかったですね。

 

 

―志ら乃さんの手にかかると、大抵のものが落語に結びつくんですね

 

そうなんです。しかも、モチーフを知らなくてもちゃんと分かるようにしています。元ネタありきのものは、実は簡単なんです。℃-uteのファンだけ集まっているところで、当日が雨だったら、(メンバーの)矢島舞美が雨女っていうのをみんな知ってるから、「今日はやっぱり雨ですね」と言えばドカンとなる。

 

でも知らなきゃ通用しないでしょ? それが嫌で、わざと苦行をしているんです。どんな作品でも俺は落語にできるぜ、って言いたいですね(笑)。

 

 

―それは、落語をより多くの方に広めたいという思いからですか?

 

うーん、自分の落語のスタイルをまず確立したい、っていう思いが一番先にありますね。ほかの落語では語れない面白い落語を語りたい。それを面白いと思ってくれる人がいて、落語を好きになってくれて、結果的に広がればいいなとは思いますけど、まず自分です(笑)。

 

 

―今後、「らくご錬金術」に来てみたい、という方へメッセージをお願いします。

 

ただ落語を楽しみに来る、っていう方にも十分楽しんでもらえる準備をしていますが、ちょっと創作活動をしてみたい、という方にも来てほしいですね。

 

「らくご錬金術」は、アフタートークで作品を育てようっていうイベントなんです。私は人の意見はすぐ採用しますから、お客さんの意見も採用する確率が高いですし、作品が成長する歴史に触れませんか? エンドロールに名前を入れに来ませんか? みたいな感じですね。

 

 

次回の「らくご錬金術」では、何と『キン肉マン』を落語化するという。今後、『ドラえもん』も落語化する構想があるそうだ。様々な分野とのコラボレーションは、落語家・立川志ら乃さんの挑戦であると同時に、互いの魅力をより多くの人たちに広める架け橋になることでもある。

 

志ら乃さんは落語を通じて、お互いの魅力をより多くの人たちに広めていくのだろう。この先も、どんな分野や題材が落語になっていくのか、楽しみでならない。(取材・文 イトモユミ)

 

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