【エピソード1】壁一面に本棚のあるゲストハウス 旅人たちそれぞれの物語

子供のころから、旅に出るとき本を一冊カバンに忍ばせていた。旅と本はいつもセットだ。25歳になった私は、思い立って仕事を辞めて、壁一面の本棚があるゲストハウスで働くことになった。

 

長野県長野市にある、カフェバーを併設した、町にひらかれたゲストハウスPise(ピセ)。ここには毎日、いろんな人が集まってくる。旅人、移住者、学生、傷心の人、現実逃避がしたい人、地元の人々……。人が混ざり合うこの場所では、日々ドラマが生まれる。

私にとっては「いつもの場所」、訪れる人にとっては「非日常」なこの場所で生まれる、人と本との出会いを綴っていこうと思う。
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LINEの返事を手紙で返す女の子

 

 

同じ種類のさみしさを抱いてきた誰かと、やっと出会えたのであれば、相手と惹かれ合うのは当然のことだろう。

『ここじゃない世界に行きたかった(著:塩谷舞)』より 

 

学生の女の子。「ここに来たらやろうって決めてたことがあるんですよね」と店内の奥の席にこもった。長期休みの間に山ごもりしていたら、SNSとか携帯とか、ぜんぶが嫌になってしまったらしい。しばらくLINEを返していない地元の友だちに、手紙で返事を送るという。

 

めちゃくちゃだけど、LINEの返事がない子から手紙が来たらちょっと笑っちゃうな。携帯に縛られるのは疲れたけど、この子とのつながりは切りたくなくて、と言っていた。携帯が無くなったらつながりが切れてしまう子はどれくらいいるんだろう、と考えてしまう。

 

書き終わりました~。とカウンター席に戻ってきた。そこに居合わせた子2人が、自分も書きたい、と言い出した。あげるよ、とその子が2人に便箋を配る。1人は地元のおばあちゃんに、1人は夏休みに参加した免許合宿で出会った気になる子に手紙を書くという。住所は知らないけれどとりあえず今一番手紙を書きたい相手らしい。

 

どちらも素敵だな、と思っていると、どうぞ、と私も1枚便箋を貰ってしまった。いま手紙を書きたい相手がぱっと浮かばず、どんどん手紙を書き進める2人を尻目にとりあえず便箋をしまった。

 

便箋をくれた彼女は「タイトルに惹かれちゃいました」と、塩谷舞さんの『ここじゃない世界に行きたかった』を本棚から選んで読み始めた。彼女は、「ここじゃない世界」へきっとまたすぐに旅立つ。あれからもう何日も経つけれどまだ手紙を書けていない。あの子のお友だちはもう手紙を受け取っただろうか。

 

ピアスを配る女の子

 

 

人生はドラマではないがシーンは急に来る

『うたうおばけ(著:くどうれいん)』より

 

共用のキッチンで桃を食べていたら、昨日から宿泊していたゲストさんが本を数冊抱えてやってきた。少し立ち話をする。大学生の女の子。以前長野市でインターンをしており、久しぶりに遊びに来たらしい。私が店のインスタに投稿している本の紹介を読んでくれているという。彼女も、私の好きな作家のくどうれいんさんが好きらしい。

 

「ピアスの穴、空いていますか?」「え? ピアスの穴? うん、空いてるよ」「れいんさんの『わたしを空腹にしないほうがいい』を読みながら作ったピアスがあるんです。三食ピーマンのお話ありますよね、だからピーマンのピアス。受け取っていただけますか。私、ピアスを作って配るのが趣味で。旅先とか、出会った人に合うものを持っていたら渡してるんです」

 

薄紫色のビーズでできた、繊細なピアス。なるほど、言われてみればピーマンの断面のかたちだ。

 

この日、実は私はお休みだった。たまたま桃があったことを思い出して店に来なかったら、彼女と出会うこともなく、このピアスは私でない誰かへ渡って行ったのかもしれない。このピアスをつけるたび、れいんさんの『うたうおばけ』に出てくる一節、「人生はドラマではないがシーンは急にくる」を思い出す。

 

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