映画パンフレットという相棒 500冊集めたコレクターの私が思う魅力

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②ノマドランド(2020年/アメリカ)

©2021 20th Century Studios./税込840円

 

映画会社サーチライト・ピクチャーズで働くこと、それが私の中高時代の夢だった。『スラムドッグ$ミリオネア』(2008年)、『(500)日のサマー』(2009年)、『ブラック・スワン』(2010年)など、同社の作品にはほかにはない個性や主張がある。ハリウッド超大作のようにお金をかけた作品は一つもないのに、見ごたえという点ではほかのスタジオ作品を凌駕している。

 

同社には5か条がある。

  • サーチライト魂を受け継ぐ男女2人の共同会長体制
  • 作品数は年間最大12本を目安にすること
  • 手掛ける作品は製作と買い付けが半々
  • 製作費は1500万ドル以下の低予算が基本
  • 潜在するニッチなマーケットを掘り起こす

この5か条は、サーチライト・ピクチャーズのパンフレットの後ろのページに必ず記載されている。

 

同社のパンフレットは「サーチライト・ピクチャーズ・マガジン」という形で、まるで雑誌のように発行されている。『ノマドランド』はvol.18だ。後ろのページには5か条だけでなく、その作品の主演のサーチライト・ピクチャーズ過去作の振り返りや、制作中の作品のニュースページがある。サーチライトは、これからも映画ファンに良作を届けていく。雑誌のような発行形態は、その決意の表れのようにも思える。

 

第93回アカデミー賞作品賞・監督賞・主演女優賞、主要3部門を独占した『ノマドランド』は、紛れもなく名作だ。同作は、『ノマド:漂流する高齢労働者たち(春秋社/J・ブルーダー著)』というノンフィクションが原作である。この書籍で取材を受けていた実際のノマドたちが劇中にも本人役で登場する。フィクションではあるが、ノンフィクションでもある。フィクションが、ノンフィクションの強度を持って、私たちの心に届く。

 

住み慣れた町が閉鎖され、仕事と住居をなくした主人公のファーンは、ノマド(遊牧民)として生きていくことを選ぶ。Amazonの配送センターやバッドランズ国立公園で短期労働に就きながら、全米各地を移動するファーン。共に生きる人はいなくても、一緒に日光浴をしたり、車がパンクしたら助けあったりするような、緩やかな連帯の中で生きている。朝焼けのなか、広大な砂漠と静かに対峙するファーンの心は美しい。

 

私は、美について考えた。美は、概念に宿るものではなく、感覚に宿るものなのだ。劇場で空間を共にする私のなかからも、「こういう人が美人」「こういうあり方が良い」みたいな概念が消えていき、ただ目の前の風景の美しさに浸っていた。

 

このパンフレットを購入した理由は、いつかファーンが見た景色の場所に、自ら足を運びたいと思ったからだ。彼女がたどった劇中のロードマップを何度も見返したい。そして、何度も読み返したい言葉がある。劇中で終盤に引用される一節だ。

 

 

どんな美しいものもいつか衰える
偶然か自然の成り行きによって

だが君の永遠の夏は色あせず
美しさが失われることもない

『ソネット集』18番 ウィリアム・シェイクスピア

 

私も生き方を選べる、富でも繋がりでもなく、自らが選ぶ生き方に豊かさが見出せると信じている。

 

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