映画パンフレットという相棒 500冊集めたコレクターの私が思う魅力

 

キャラメルポップコーンの甘く香ばしい香りを嗅ぐと、映画を観に来た実感が湧いてくる。ポップコーンは映画館の相棒だ。でも、ほかの売り場にも目を向けてみてほしい。あなたが見落としているかもしれないもうひとつの相棒――パンフレットがいる。

 

新型コロナウイルス流行下で、映画館への休業要請や、座席の間引きが行われた。当然、ほとんどの映画館が大打撃を受けている。映画ファンの多くも心を痛めているだろう。

 

支援という意味では、ポップコーンなど飲食物を購入することが、劇場にとって一番の貢献になる。原価が20%~30%なので、粗利は70%~80%にもなるからだ。パンフレットは配給(映画の上映権を持つ会社)の取り分が70%~80%、映画館の取り分が20%~30%。粗利は飲食物よりも少ないが、パンフレットならば映画館はもちろん、配給の支援にもなる。

 

映画業界の収益全体を支えるものだからこそ、手にとってもらえるように工夫が凝らされ、内容も面白い。私は大学時代の2年間、ミニシアターで働いていた。映画が始まる前に、パンフレット片手に、映画のあらすじや見どころの前説をした。映画館の入り口には、手作りのPOPと共にパンフレットを並べた。ときには、待ち時間に館内を回り、手売りした。

 

自分でも買い集めるうちに、自宅にある映画パンフレットはいつしか500冊を超えていた。そんな私がおすすめする、厳選した3冊を紹介させてほしい。

 

①花束みたいな恋をした(2021年/日本)

©2021『花束みたいな恋をした』製作委員会/税込900円

 

マルマンの定番のスケッチブックを模した表紙には、イラストレーターを目指していた麦の絵のタッチで、主人公の麦と絹二人の似顔絵が描かれている。二人の詳細なプロフィールや、劇中に出てくる書籍の細やかなブックリスト、何枚もの自然体のオフショット、二人が出会うきっかけとなったお笑い芸人・天竺鼠の単独ライブのレプリカチケット、それらすべてから、本編やパンフレットを制作した人が、この映画を愛していることが伝わってくる。

 

この作品の魅力は、菅田将暉さんと有村架純さんという二大若手スターを起用したラブストーリーでありながら、「確かにこの瞬間が私にもあった」と観た人に思わせてしまう説得力だ。大学時代に出会い、二人で就職活動を戦い、同居し、すれ違い、別れる。

 

二人の日々と私たちの日々を結びつける装置として機能するのが、書籍だ。部屋の中央に位置した横長の本棚が、日々の文化的な豊かさを象徴している。今村夏子さん、穂村弘さん、柴崎友香さん……。二人の好きな作家が会話に出てくる度に、「私も」と心のなかで短い共感の声を上げてしまう。近藤聡乃さんの『A子さんの恋人』は積読になっていたけれど、それでも嬉しい。

 

そんな読書を愛する二人だからこそ、就職して忙しくする麦が、絹に借りた滝口悠生さんの『茄子の輝き』を放り投げるときには、行為そのものに対してよりもずっと絶望してしまうのだ。二人の恋愛は、ありきたりにダレて、ありきたりに終わっていく。

 

この映画を観た後、ある不安がずっと薄っすらと私を覆っていた。素晴らしい文学に出会って感動すると、特別な気持ちになって、自分も特別な存在になったように感じる。けれど私が感動した文学は、実は同じようにみんなが好きで、私を特別にするどころか、ありきたりなところにおとしめているのではないか。

 

そんな不安を解消してくれたのが、パンフレットに掲載された角田光代さんのレビューだった。

 

 

私たちはだれかとつながりあえる。好きなものを「好き」と言っていいし、その思いを共有してくれるひとは、地球上のどこかにきっと存在するのだ

 

私が好きな文学自体が私を特別にするのではなく、それらを読むことにより得た感覚や交わした言葉が、私を特別にするのだ。角田さんのレビューがなければ、私のなかで映画が完結しなかった。これも、パンフレットのおかげだ。