歌舞伎町を“いいやつ”が集まる街にしたい 手塚マキ氏が語る愛の書店のビジョン

――手塚さんはゴールデン街にもお店をオープンしていますよね。歌舞伎町と比べたときの、ゴールデン街の魅力を教えてください。

 

歌舞伎町より、もっとムラ社会ですね(笑)。最初は何にもわからずにお店を出したんですよ。「あそこってホストがやってるとこなんでしょ」って初めは言われたりしたけど、だんだんと認めてくれるようになった。

 

それも、うちのスタッフたちが、認めてもらえるよう、ゴールデン街の社会に入って行ったからなんです。僕がコミュニティーに入るよう導いたのではなく、自分たちの力で村人としてのポジションを作っていったのを見ていて、面白いなと思ったんです。こういうときにあいさつしなきゃいけないとか、筋を通さなきゃいけないとか。そういうルールはありますよね。

 

別にそういうコミュニティーに入らなくてもいいんです。でもうちは、スタッフがちゃんとゴールデン街に根を張ろうと決めたから、行事やルールにも参加するようになった。するとそこで新しいアイデンティティが生まれるわけです。

 

ゴールデン街で生きていくには、歌舞伎町よりもっと周囲とコミュニケーションを取らないといけないですね。

 

一人で静かにお酒を楽しむ人、友人と賑やかに談笑する人、本を吟味する人。使い方は様々だ。

 

 

――お話をうかがっていると、街とそこにいる人たちとの関わりを大事にしているように感じます。歌舞伎町という場だからこそ、歌舞伎町ブックセンターは特別な場所になりうると。

 

でも実際には、本屋を目的として歌舞伎町ブックセンターに来る人は、歌舞伎町の外にいる人たちなんですよ。でもお店で飲んでる人たちのほとんどは、飲み屋としてここに来ているんです。「あ、本屋も始めたんだ」、みたいな。

 

名前は「歌舞伎町ブックセンター」ですけど、僕は単純化することがあまり好きじゃないんです。たとえば本屋がバイトで、ホストが本職です、みたいな言い方する人いるじゃないですか。そういうカテゴライズの仕方はあまり好きじゃない。

 

限定しないことによって、いろんな人が来やすくなる。いろんな顔を持つ人が集まる場だと、これまでだと会えなかったような人と出会える可能性がある。中途半端だと思われるかもしれないけど、今はそういう在り方の方がイケてるんじゃないかと思う。

 

うちはとくに際立った特色はないけれど、いろんな目的を持った、いろんな人たちがクロスできる場であればいいなと思ってます。「歌舞伎町に本屋」っていう、目新しさで取り上げられることが多い……というか狙ったわけですが、本当のところは、むしろ多様な場であることを目指しています。

 

歌舞伎町を通り過ぎて欲しくない

名物のハンバーガーをはじめ、フード・ドリンクともに様々なメニューがある。

 

――歌舞伎町ブックセンターの開店以前にも、ゴミ拾いや親孝行プロジェクトなど、様々な活動をなさっていますが、その根底にあるのは、「ホストに成長してほしい」という一貫した思いなのでしょうか?

 

もちろんです。「従業員教育」がベースにあるのは、ずっと変わっていません。二十代の頃なんかは、もっと大きなことを考えていたんですけど、この新宿という街の懐のデカさに育てられてきたことを、僕も含め、みんなどこかのタイミングで気づくんです。

 

すると、恩返しをしたいなとか、そういう気持ちが出て来る。その気持ちはここ十年くらいずっと持ってますね。

 

歌舞伎町を通り過ぎて欲しくないんです。とくに水商売だと、街ってどうしても通り過ぎる場になると思うんです。そうじゃなくて、水商売を続けていなくても、仕事場は変わったけど飲みには来る、みたいな場所にしたい。

 

たとえば、「この街で5年間働いたけど、それ以来は来てない」っていうのが、今までの水商売だと思うんですよ。そうじゃなくて、嫌なことも嬉しいこともあった街を大事にする人が増えていくと嬉しい。実際、昔よりはそういう人が増えてきた気がするんです。

 

 

――歌舞伎町はどうしても、長く過ごすイメージを持ちづらいですよね……。

 

こういう街だから、もちろん悪い人はいます。でも、ズルいことや悪いことをする人間は、「もう二度とこの街には来ない」と思って、悪いことをするんです。地元の友達を裏切ったら、もう地元には戻れないじゃないですか。

 

結局、ズルしないことが大事ですね。裏切りが横行する町だけど、ズルせず真っ直ぐでいられる人しか、この街に残ることはできない。

 

僕は歌舞伎町にいる人間だし、残る人間だから、絶対に歌舞伎町とそこにいる人を裏切らない。そして、そういう人と僕はこれからも付き合っていきたい。今年で二十一年目ですからね、歌舞伎町に来て。

 

この街を、そういう「いいやつ」が集まる場にしていきたいですね。歌舞伎町ブックセンターは、その試みのひとつです。

 

 

そして取材終了後……

 

コエヌマ「手塚さん、あのう」

手塚「なんでしょう?」

コエヌマ「実はぼくも、愛の本を書いているんです。もしよろしければお店に置いてくれないでしょうか……」

手塚「いいですよ!」

コエヌマ「!!!!!!」

 

そして、編集長の著書『究極の愛について語るときに僕たちの語ること』を、歌舞伎町ブックセンターに置いていただけることになりました、ありがとうございます!

 

 

取材後記

 

『歌舞伎町に本屋』--筆者もそのギャップに惹かれ、ここを訪れた一人だ。しかし、手塚さんのお話をうかがって見えてきたのは、決して一つの目的に縛られない「歌舞伎町ブックセンター」という場の在り方だった。

 

仕事のための場所、遊ぶための場所、住むための場所。そのようなカテゴライズは、場所だけでなく、そこで出会う人との関わり方をも限定してしまう。

 

異なる目的を持つ人々が「歌舞伎町ブックセンター」という一つの場に集うとき、大遊戯場・歌舞伎町はどのように変わっていくのだろうか。ぜひ足を運んで、確かめてみてほしい。(取材・文 マルス・オギドー)

 

棚に並ぶ愛の本の一部。かなりとがった選書なので、ぜひお店に足を運んで全貌を確かめてほしい。

 

歌舞伎町ブックセンター

東京都新宿区歌舞伎町2-28-14

営業時間11:30~5:00(年中無休)

https://m.facebook.com/KabukichoBookCenter/