歌舞伎町を“いいやつ”が集まる街にしたい 手塚マキ氏が語る愛の書店のビジョン

Photo by beibaogo .

 

学生のとき大好きだった歌手は、「JR新宿駅の東口を出たら 其処はあたしの庭」と歌っていた。アジア最大の歓楽街であり、大遊戯場である歌舞伎町のことだ。今もなお、歌舞伎町のイメージは当時抱いたものとさほど変わっていない。華やかだが、どこか危険な夜の街。

 

そんな歌舞伎町のど真ん中に本屋がオープンしたというニュースは、瞬く間にメディアを賑わせた。店名は「歌舞伎町ブックセンター」。オーナーは、ホストクラブやバーなどを経営するSmappa!Group代表の手塚マキさん。最大の特徴は、「LOVE」をテーマにした選書が並び、「ホスト書店員」が本を選んでくれるという接客スタイルにある。

 

これはぜひ取材をしてみたい! とコエヌマ編集長に提案をしてみた。

 

筆者「歌舞伎町ブックセンターって知ってますか? “愛の本”ばかり置いているみたいですよ」

コエヌマ「え、愛の本だって?」

筆者「はい」

コエヌマ「僕の本は置いているのかな……もしなかったら、ぜひ置いてもらいたい!」

 

そう、コエヌマ編集長はさまざまな愛の形を追ったルポルタージュ、『究極の愛について語るときに僕たちの語ること』の著者でもあるのだ。けれど、選書にもいろいろなルールや法則があるはず。そこへ割り込み、いきなり自分の本を置いてもらおうだなんて、あまりにも無謀かつ子供じみている気が……。

 

 

すぐに交渉に行こう、と息巻く編集長をなだめつつ、取材陣は歌舞伎町ブックセンターを訪れた。月に吠える通信を運営するプチ文壇バーも、歌舞伎町のゴールデン街で本をコンセプトにするお店だ。同じ街で本にまつわるお店を開くもの同士、非常に興味がある。

 

オープン後、歌舞伎町ブックセンターはこの街にどんな変化をもたらしたのか? どんな人々がここを訪れるのか? インタビューに答えてくださったのは手塚マキさん。いきなり自著を取り出そうとする編集長を押さえつけ、取材を開始した。

 

イメージしたのは歌舞伎町のデパート

オーナーの手塚マキさん。ナンバー1ホストを経て若干26歳で独立。ホストの教育や人間的成長を大事にし、マナー講座や資格取得、家族への感謝を伝えるプラットフォームの立ち上げなどを行う。ボランティア団体「夜鳥の界」を発足し、歌舞伎町のゴミ拾いなど地域活動も実施中。

 

――2017年10月に開店した「歌舞伎町ブックセンター」ですが、反響のほどはいかがでしょう。

 

「歌舞伎町に本屋」という珍しさから、ここを訪れる人は多いですね。でも、歌舞伎町ブックセンターを支えているのは、本を置く前から通ってくれていたもともとのお客さんたちなんです。実はここで、もともとバーを経営していたんですね。

 

正直なところ、本屋をすることが一番の目的ではなく、「歌舞伎町のデパート」みたいなものをイメージしました。たとえば、フードやお酒があって、イベントも開催できる。そういう、いろんなことが出来る場所に人が集まって、いろんな使い方ができたら楽しいなと考えています。本屋はその一環ですね。

 

 

――本屋だけに特化するのではなく、場や人の多様性を重要視していらっしゃるんですね。歌舞伎町ブックセンターでは「LOVE」を選書のテーマにしていますが、もっとも人気がある本を教えていただけますか?

 

作家でいうと、岡崎京子さんが一番人気なんじゃないでしょうか。やっぱり黒帯の本が一番売れます。あとは、先日イベントをしてくれた中村うさぎさんの本とか。

 

「LOVE」に関する本が並ぶ選書スペース。恋愛感情のピンク、家族や友達に対する愛情の赤、執着心や憎悪という情念の黒、と帯の色で本を分けている。

 

 

――ここで販売した本によって、お客さんや、ホストの方が変化したというエピソードがあれば、うかがいたいです。

 

これと言ったエピソードはまだ無いんですよ(笑)。でも、実際に書店員として立っているホストには、「お客さんに一冊くらいは勧められるようにしなきゃ!」というプレッシャーはあるみたいです。

 

僕は自分の店のホストに、「カバンに一冊文庫本を入れておけ」と言っています。待ち合わせのときなんかに読書してたら、かっこいいじゃないですか。まずはそういうファッションみたいなところから、読書に入っていくのもいいんじゃないかと思っています。

 

 

――まずは読書の面白さよりも、「本読んでるのってかっこいい!」というところから入ってもいいと。

 

はい、歌舞伎町ブックセンターだって同じです。外から見たときにまず、「なんかかっこいいな」って思ってほしい。まずはそういう形からでも、読書に関わっていってほしいですね。

 

そういえば、ここでジャニーズの加藤シゲアキさんが出版イベントをやったときに、出版社の方が来てくれたホスト全員に本を配ったんです。そしたらみんなめちゃくちゃ喜んで、「これから読みます!」っていう投稿をSNSに上げたりしていました。まあ、いまだに「読みました」って投稿は見てないんですが(笑)。

 

実際のところ、自分だって家にある本の半分くらいは読んでいないんですよ。でも、ずっと放置していた本をあるときふと手に取って、一気に読み終わったりしちゃう。読書へのきっかけも、そういうのでいいんじゃないかと思うんですよね。歌舞伎町ブックセンターが、ふとしたときに本を手に取るきっかけになるといいですよね。

 

いいやつだけが街に残る

道路に面した歌舞伎町ブックセンター。ストリートアート風の外装が目を引く。

 

――次に、歌舞伎町ブックセンターがある「歌舞伎町」という場について、うかがいたいと思います。手塚さんが歌舞伎町で過ごしてきたなかで、エピソードや忘れられない思い出はありますか?

 

数え切れないほどあります。でも、一口に歌舞伎町と言っても、ゴールデン街、歌舞伎町一丁目、二丁目……というふうに、全然特徴が違うんですよね。

 

例えばブックセンターのある二丁目だと、お店が通りに面しているので、店の中にいながら外を見ることができるんです。これが本当に面白い。

 

とくにホストクラブやキャバクラが閉まる深夜一時。店の中にいた人たちが一気に外に出て、通りをぐるぐる回り始めるんです。綺麗なお姉さんもいれば、べろんべろんに酔っ払ったおじさんもいる。そういう人たちが入り乱れて、ずっとこの通りを回遊するんです。

 

最近はその風景を見ているのが一番楽しいですね。ちょっとしたドラマより面白いですよ。歌舞伎町にはいろんな人間がいて、だからこそ面白い。