大阪の堂島に、一度聞いたら忘れられない名前の本屋があるらしい。その名は「本は人生のおやつです!!」(以下、「本おや」)。新刊書籍、古本、雑貨を取り扱い、さらに客の好みに合う本をオススメする「読書カウンセリング」なる取り組みも行っているという。
店内でのトークイベントの開催や、本をスーツケースに詰めての行商などもしているそうで、その活動の幅は普通の本屋とは少々異なる。そんな情報を耳にした筆者は早速、堂島へと足を運んだ。
お店の扉を開けると、こちらも小学校の教室くらいの広さ。店内には新刊書籍や古本が本棚にぎっしりと並べられている。本のジャンルは文芸やアートや絵本、さらには明治や大正時代に出版された貴重な古書など幅広い。
幼稚園に行く前は必ず「機関車トーマス」
迎えてくれたのは店主の坂上さん。早速取材を申し込むと快く引き受けてくれた。
坂上さんと読書の出会いは早く、4歳頃にはすでに文字を読んでいたという。毎朝「機関車トーマス」を親に読んでもらわないと、幼稚園に行こうとしなかったそう。
「物語を楽しむ習慣が自然にあったので、本が好きになっていったのだと思います」と振り返る。小・中・高と本を読みふけり、暇を持て余した大学時代はさらに読書量が増えた。
人生を捧げられるくらい好きなのは本だった
そんな読書家の坂上さんだが、最初から本屋になろうと考えていたわけではない。大学卒業後、デザイン会社でコピーライターの職に携わった。朝から晩まで働く日々の中、ふと「このまま60歳や70歳になったらどうなるのだろう」と思ったという。
一生できる仕事で、なおかつ人生を捧げられるくらい好きなものとは何だろう。1年ほど模索する日々が続く中で、幼少期から本が好きで、面白かった本をよく人に勧めていたことを思い出した。「それを読んだ人から『面白かったわ』と言ってもらえると嬉しかったので、『あ、じゃあ本屋なんだ』と思って転職したんです」と坂上さん。
とある本屋で正社員として採用された。これで安定した収入を得ながら本に携われる、と思ったが、その本屋は売れ筋の本のみが並べられ、一切自分の意思で本棚を作ることができなかった。実績を上げて棚づくりを任せてもらえるようになることも考えたが、実現できるのは何年後になるかもわからない。
「人なんていつ死ぬかわからないし、(もし今死んだら)すごい悔いが残るなと思って。自分が働きたいようなスタイルで、なおかつお金がもらえる本屋は日本中にあると思うんですけど、そこで働かせてもらえる保証もない」
だったら、のたれ死んでもいいから自分でやろう。そう決意し、本おやを立ち上げたのだった。