早川書房70周年記念のコミックアンソロジー、ミステリ編&SF編が同時刊行

716R2uFNwBL

 

アガサ・クリスティが好きだ。中学生の頃に初めて読んだ作品はたしか、「ポアロのクリスマス」だったような気がする。フィリップ・K・ディック作品の装丁がリデザインされた時は、あまりのかっこよさに初めてSF小説を読んだ。

 

ミステリ小説を読みたい時、SF小説を読みたい時、早川書房の作品を手にとる人は少なくないのではないだろうか。

 

sponsored link

 

そんなミステリ&SF好きに長年愛されてきた早川書房、今年が創立70周年とのこと。それを記念して今年1月22日に「Comic S」と「Comic M」、2冊のコミックアンソロジーが同時刊行された。

 

 

「SFマガジン」と「ミステリマガジン」(ともに早川書房)に掲載された作品の他、描き下ろし作品まで収録されているなんとも豪華なアンソロジーとなっている。

 

さて、それではなぜ私がこのような記事を書いているのか。それには理由がある。早川書房がコミックアンソロジーを刊行するという噂を聞きつけ、私はふと思った。

 

「あれ? 中学の頃から早川書房作品を読んでいるのに、コミック作品は読んだことがないんじゃないか……?」

 

うーむ、これでは早川ファンは語れない。それならこれを機会にコミック作品を読んで記事にしよう! ということで、今回この記事を書くに至ったのである。

 

早川書房さんから届いた2冊のコミック。早速読んでみた。手塚治虫や石森章太郎といった伝説の作家の作品だけではなく、宮崎夏次系やオカヤイヅミなど、新進気鋭の作家の作品も多く収録されている。

 

今回は本書の中からいくつか作品を紹介しよう。

 

『そしてみんないる / オカヤイヅミ (Comic M収録)』

 

アガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」を思わせるタイトル。母親の浮気現場を見つけてしまった人物が、友だちと一緒に母親を尾行しようとするところから話が始まる。

 

勘違いと真実が交錯するドタバタ劇。タイトルの通り最後には登場人物が全員集合するわけだが、みんながなぜかトレンチコート。ファミレスの店員に「仲良しですね!」と声を掛けられた登場人物たちの、ウンザリしたような返答にクスっとさせられる。

 

『と、ある日の僕のひも / 宮崎夏次系 (Comic S収録)』『と、ある日のわたしとタケル / 宮崎夏次系(Comic M収録)』

 

 

宮崎夏次系の連作。ちなみに私はこの連作が一番気に入っている。

 

 

ある朝 目が覚めると

耳からヒモが垂れていた

 

「たいしたことないよ。なんのスイッチかはわからないけど、よくあることだよ。」と医者は言うが、絶対たいしたことあるだろう……。一体なんのスイッチなのか。不安がりながらも、自分が特別な人間になれたかもしれないことになんだか嬉しそうな少年。

 

 

ある朝 目が覚めたら

水槽がカラになっていた

 

大切にしていた魚のタケルがいなくなった。両親は「そんなものいなかったでしょ?」と不思議そうな顔。悲しみを引きずりながら港を歩いていると、ヒモの少年がいじめっ子たちに「ヒモを引かせろ!」と脅かされている。

 

少年と少女が出会った時、「諦め」とも呼べそうな「何か」を抱くことで二人は少し大人になる(?)。

 

『ドロシー / ふくやまけいこ (Comic S収録)』

 

祖父が死んだ。獣医だった祖父の家で見つけた古びた写真。写真に写っていたのは美しい女性だった。写真と一緒に見つけたその女性を模した蝋人形は固く閉ざされたケースの中で、眠りについているように穏やかに目を閉じている。

 

エリックはその人形の姿にみるみるうちに心を奪われていく。彼女は一体何者なのか。彼女の瞳の色を知りたい。祖父と彼女の過去を知ったエリックは、とうとう人形に手を伸ばしてしまう…。

 

総評

 

背筋がゾクリとするもの、クスリと笑わせてくれるもの、頭を悩ませるもの。様々なテイストの作品が一挙に集められたこの2冊、ミステリ・SF初心者でも十分楽しめるものになっている。

 

超有名なシャーロックホームズのパロディ作品がいくつかあるが、全部ギャグだ。夢幻紳士の夢幻魔実也はまごうことなきイケメンだ。40年以上前に描かれた手塚治虫の作品は、現代人の私たちにも通じる怖さがある。

 

数十年前の作品を懐かしみながら読むも良し。このコミックをミステリやSFを手にするきっかけにするも良し。

 

とくにこのコミックアンソロジーの見所は、なんといっても新進気鋭作家たちの書き下ろし作品だろうと思う。日常と非日常の間を切り取ったような不思議な世界観が、私たちを作品の中へと深く誘ってくれるようである。(文・チ田一日)