前代未聞の選考方法!面接で受賞者を決める「第一回クランチノベルズ新人賞」

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小説を書くために本当に必要なこと

 

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イベントではこのほかにも「青春ロボット」制作秘話などが語られ、盛り上がりをみせた

 

今村氏・干場氏・佐久本氏によるトークイベントの中でも、作家にとって「書きたいものがある」ことがいかに大事か、熱く語られた。

 

今村氏「作品を書くときに、実は一番難しいことは「どう書くか」ということではなく、「そもそも何を伝えたいのか」というところ。それを意外とわかっていないで書いている人が大多数なのではないかと。自分の経験でも実際にあったんですね。

 

伝えたいことを書いて全部出し切ってしまうと――僕の場合、二作目の「ジャックを殺せ、」がそうだったんですけど、それ以降書くものがボツになってしまって。後から考えたら、「書きたいこと」がなくなってしまったからだったのだろうと(中略)佐久本さんは、その「書きたいこと」が自然にある。僕の場合、語りたいことなんてない!出し切った!って瞬間もあるんですけど、佐久本さんにはそういうことはないんですか?」

 

佐久本「僕は常に不安を抱えていて、何かしら考えているので……(笑)。例えばいつも楽しい生活を送っている人は、楽しい小説を書くのに向いていると思うんです。僕みたいに、不安とかそういうことばかり考えている人は、暗いものを量産しがちというか……」

 

今村「じゃあ、僕みたいに浮き沈みがある人は?世界は俺のものだ!と思った次の日には、俺は死んだ方がましだ!と思っているんですけど(笑)」

 

佐久本「それは、もう、その浮き沈みをまっすぐ書くべきですよね。人には書けないものですし」

 

今村「結局その人自身でしかいられないわけですし。本当に、自分はこういう人間で、そういう風に生きているんだなと受け入れられないと、書けないんだなぁと」

 

干場「やっぱり心がないとね」

 

小説を書くということは、自分自身を受け入れるということ。テクニックだけではなく、書きたいものを書くこと――そんなシンプルだけれども重要なことに主眼をおいて選ばれた佐久本氏。彼のデビュー作「青春ロボット」は、中学生から高校生にかけて人を傷つけたり、現実に打ちのめされたりする主人公が、時に停滞しながらも前に進む“やり直し”の物語だった。

 

その「青春ロボット」に続く作品はでるのか――と、気になるのは「第二回クランチノベルズ新人賞」の開催時期だ。デビュー作を作家と企画の今村氏の共同作業で進めるという賞の性質上、年一回の開催は難しいとのこと。

 

本当に素晴らしい一握りのものにチャンスをかけるため、不定期、または随時募集を考えていて、よい作品に巡り合えたら開催ということになりそうだ。

 

「そんなに待てない!」という方も安心していただきたい。「クランチノベルズ大賞」とは別に、ディスカヴァー・トゥエンティワンは「本のサナギ賞」も手掛けている。これは現役書店員の協力をもとに賞を選定し、大賞作品は初版2万部を出版するというユニークな賞だ。現在、第二回の募集も行っている。

 

「文壇」から離れた冒険心あふれる賞も出始めた小説業界。小説を書きたい人も、読みたい人も、一風変わった賞の受賞作品に目を通してみてはいかがだろうか。(取材・文 四畳半しけこ)

 

(青春ロボット)

主人公の手崎零は博士に作られたロボットとして、人間を幸せにするための情報収集のため中学校の中に紛れ込んで生徒としての生活することになった。だがそこでの人との関わりの中で、取り返しのつかない「ある出来事」を起こしてしまう。 一度失敗した零は、その後の高校生活で少しずつ再生していくが、やがて彼自身が知らなかった問題が現れる……。

 

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