【後編】「ユニクロ潜入取材」の横田増生さんが語る「ブラック企業とジャ-ナリズム」

※前回の記事はこちら

 

目次

数字に表れないブラック企業の被害者

 

 

NPO法人POSSEは、今野さんが学生の時に立ち上げた団体で、現在も学生を中心に運営されており、年間2000件程の労働相談を受けている。年間2000件の相談と聞くと、多いように思えるが、これはあくまで氷山の一角。世に出ている統計と実態のズレについて、今野さんは警鐘を鳴らす。

 

年間の過労死件数は306人、仕事が原因でのうつ病は436人。これは厚生労働省が把握し、発表している数字だ。

(厚生労働省:過労死・精神障害の労災認定状況※データは平成25年度のもの)

 

これに対し今野さんは、

 

「もっと圧倒的多数が過労で亡くなったり、うつになったりしているはず。ただそのほとんどが訴えてないし、国の認定も受けていない。恐ろしいことですが、過労やパワハラが原因で亡くなったり、うつになったりしても、民事的、刑事的にも問題にされません。労働基準監督署も一切助けてくれない。自力で証拠を集めて訴えるなど、すべて自己責任で行わなければならないんです」

 

その結果、うつ病が原因で退職したとしても、統計上では自己都合退職と反映されてしまう。そしてシュガー社員(※1)や新型うつ(※2)といった、労働者に責任があるという偏った論調を生み出すことにもなる。

 

こういった事態を問題視したPOSSEは、個別の労働相談のみならず、労働環境の実態について調査・研究し、明確にデータ化した上で政策提言まで行っている。現場からの相談を個別の問題のままにせず、社会問題として改善していくことがPOSSEのミッションだと今野さんは話す。

 

※1 自分に甘く、自立心や責任感、向上心を持たないとされる社員。主に企業側のカウンセラーが使用する用語

※2 従来のうつ病に当てはまらず、なまけやワガママと見分けが難しい症状。

 

精神を崩壊させるブラック企業の手口

 

次に今野さんは、ブラック企業の中でも「選別型」と呼ばれる企業の実態や、その手口の巧妙さについて、具体的事例を多く交えつつ解説する。「選別型」の特徴は大量採用、大量解雇だ。今野さんはまず、毎年200名を採用し、100名の退職者を出している某一部上場IT企業の例をあげる。

 

大量解雇をすると問題になるため、この会社では不要と判断した人間を、自主退職に追い込む方法で社員の選別を行っているという。その方法として、リストラ候補者は仕事を取り上げられ、リボーン計画という名のカウンセリングを受ける。生まれ変わるために今までの人生を反省するという趣旨なのだが、その内容は凄惨なものだ。

 

例えば、該当の社員が大学受験に失敗していれば、上司はそこを指摘する。そして、「私は大学受験に失敗するほど怠け癖のある人間なので、今でも全く仕事ができません。その事を未だにコンプレックスにしている小さな人間なので、全く仕事ができません」と反省文を書かせる。これを、ひたすら毎日だ。

 

するとほとんどの人間がうつ病になり、自分から会社を辞めて行くのだそう。総務部では、リストラ候補者の精神状態の進捗報告までもが行われていたという。

 

もう一つ、大量採用大量解雇の選別方法として、正面きって違法解雇を行うという方法もある。今野さんはあるビジネス誌に掲載された、人事特集のQ&Aのエピソードを紹介する。

 

 

Qもし100人解雇したいと思ったら、どうすればいいですか?

 

この質問に対し、ある著名な弁護士はこう答えていたという。

 

 

「違法であっても、そのまま全員解雇するのがいい。退職勧奨や退職金に、労力やコストをかける必要はない。訴える人間なんて100人に1人。もし訴えられたら、その人間にだけ対応すればいい」

 

解雇の違法性を訴えたところで、得られるのはその会社でもう一度働く権利だけ。であれば、確かに訴える人間などそうは現れないだろう。そこに付け込んだ悪質な手口が蔓延している現状を、今野さんは訴える。

 

「正社員が守られているというイメージはもはや過去のもの。人を使いつぶすことでなりたつ経済ブロックが形成され、その手段がどんどん巧妙化しているんです」

 

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