美しい、インパクト大、仕掛け満載…装丁が素敵な本をひたすら集めてみた

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作り手にとって”装丁”とは

 

さて、今回は先ほどのアンケートでも名が挙がった『胞子文学名作選』出版元である港の人 代表取締役・上野勇治さんに、同作の装丁ができるまでのお話を伺った。

 

ーーこの装丁が決まるまでにどのような経緯があったのでしょうか。

 

デザインをお願いした吉岡秀典さんに、まず土台となるアイディアをつくっていただきました。吉岡さんが提案してくださった「胞子という目に見えないものを肌で感じる読書体験ができるような、触覚に訴えるデザインにしたい」という基本コンセプトを、編集者も含めて確認したうえで、この土台を崩さずに印刷製本費を抑える実現可能なプランに持っていきました。

 

 

ーー特にこだわったポイントを教えてください。

 

こだわったのはむしろブックデザインではなく、内容です。デザインが注目を集めるためだけの飾りになってしまわないよう、アンソロジーとしてもすぐれたものにしたいと考えました。

 

本書のテーマである「胞子」という、謎めいていて、自然の叡智(えいち)が凝縮された存在に興味を持ってもらえるような内容、また、文学としても優れたものを集めるよう、幅広く作品を探しました。

 

 

ーー実際に装丁を形にするうえでは、どういった点に苦労しましたか。

 

大変だったのは、一切の作業の手間を惜しまず、全ページにわたって緻密にデザインしてくださった吉岡さん、そして仕入れ先もさまざまな幾種類もの用紙・資材や工程の管理をおこなった印刷会社の営業担当の方だったのではないかと思います。

 

一方で版元としては、作品を収録させていただく作家の方々に、装丁に込めた意図をご理解いただけるよう尽力しました。一見奇抜に見えるデザインも、単に奇をてらうためではなく、多くの読者に作品をより深く味わってもらいたいという思いがあることを丁寧にご説明しました。

 

幸い皆さんに快諾いただき、本ができあがったときには高く評価してくださった方もいらっしゃり、うれしく思っています。

 

 

ーー金銭面での折り合いはどうなっているのでしょう? 装丁にこだわる場合、予算は通常より多く設定するのでしょうか。

 

『胞子文学名作選』の場合、この本の前に限定部数で刊行した『きのこ文学名作選』を入手できていない方が多くおり、その人たちに手に取ってもらいたいという気持ちが根底にありました。

 

『きのこ文学名作選(港の人)』編集・飯沢耕太郎

 

故に定価と部数は当初からほぼ決まっていて、そこから割り出した予算に合わせるべく、多くの方々のご協力をいただいて知恵を絞ったり手間をかけたりしたため、制作費はほかと比べても極端に高くはないと思います。

 

具体的には、印刷の色数やページ数を減らすなど通常のコストダウンのほかに、カバーに開いている穴の抜き型は以前ほかの本で用いたものを再利用したり、書籍用ではない安価な用紙を入手するために直接用紙の問屋に問い合わせたり、さまざまな手段を講じました。

 

 

ーー完成したものを刊行して、読者や書店員の方などの反応はいかがでしたか?

 

雑誌などで数多く取り上げていただきましたが、デザインだけでなく中身を含めて評価していただけてありがたく思いました。刊行から8年近く経った今でも、弊社のほかの本とは全く違う読者の方々(特に若い方々)が手に取ってくださっていることをネットなどで拝見し、うれしく思っています。

 

 

上野さんにお話を伺って、本のつくり手側は装丁という要素をどのように捉え、何を考えて、形にしていたのか、節々から感じることができた。恐らく、ほかの出版社が装丁をつくる際にも、共通する部分が多いのではないか。

 

また、本というコンテンツにおいて装丁はあくまでも彩りであり、その本質は内容の面白さ・奥深さであるという一貫した姿勢に、感銘を受けた。

 

そして、製本する過程において出版社はメインであるものの唯一ではなく、編集者やデザイナー、印刷会社や作家などさまざまな立場の方が携わっているのだと改めて知ることができた。各方面のプロが力を注いだ本の端々まで余すことなく意識しながら、今後より一層、読書を楽しみたい。(文 安寿)

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