芥川龍之介も悩まされた片頭痛の前兆症状「閃輝暗点」ってどんなもの?—小説『歯車』から読み解くー

 

雨の日は決まって頭痛におそわれる…そんなことありませんか?

それ、もしかして片頭痛じゃないでしょうか?

 

日本人のおよそ8%が片頭痛持ちで、更にその内の20~30%に「閃輝暗点(せんきあんてん)」と呼ばれる前兆症状があらわれると言われています。

 

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「閃輝暗点っていったいなに?どんなもの?」と思った方、以下の文章を読んでみてください。

 

〈僕の視野のうちに妙なものを見つけ出した。妙なものを?――と云ふのは絶えずまはつてゐる半透明の歯車だつた。僕はかう云ふ経験を前にも何度か持ち合せてゐた。歯車は次第に数を殖ふやし、半ば僕の視野を塞ふさいでしまふ、が、それも長いことではない、暫らくの後には消え失うせる代りに今度は頭痛を感じはじめる〉

 

これは、芥川龍之介が晩年に執筆した私小説的作品『歯車』からの抜粋です。この作品のなかではたびたび彼を悩ませる「歯車」の描写が出てきますが、実はこの「歯車」こそが「閃輝暗点」の正体なのです。

 

 

「閃輝暗点」の症状は人によって多少のちがいがありますが、

 

  • 視界のどこかにギザギザした小さな稲妻のようなものが出現する
  • それがチカチカと点滅しながらだんだんと大きくなっていき、視界がぼやける
  • 前兆がおさまったのちに頭痛が起こり、ひどい時は吐き気をもよおす

 

といった内容です。

 

この前兆症状が起こったらただちに痛み止めなどの薬を飲めば、頭痛はある程度おさえることが出来ると言われています。

 

ですが、芥川はこの「閃輝暗点」の症状を幻覚だと勘違いし、自分が発狂してしまったのではないかという不安を抱えていました。

 

 

〈眼科の医者はこの錯覚(?)の為に度々僕に節煙を命じた。〉

 

ともあるように、かかりつけの医者からも「閃輝暗点」についてきちんとした説明をされていなかったようです。

 

もちろん、芥川はほかにも神経衰弱、腸カタル、胃潰瘍などの病気をかかえながら苦悩に満ちた日々を送っていましたが、この「閃輝暗点」の症状も、彼を自殺に追い込んだひとつの原因になっていたのかもしれません。

 

また、片頭痛持ちの人は五感の働きがとても鋭いため、ふつうの人が気付かないようなちょっとした環境の変化にもすぐさま体が反応してしまうと言われています。

 

 

〈妙なこともありますね。××さんの屋敷には昼間でも幽霊が出るつて云ふんですが。(中略)尤もつとも天気の善い日には出ないさうです。一番多いのは雨のふる日だつて云ふんですが。〉

 

ともあるように、片頭痛持ちの人は天候の変化にとても敏感なため、雨がふる日やその直前に頭痛の症状が出る人がとても多いようです。

 

芥川以外にも、有名な作家ではトルストイ、ルイス・キャロル、樋口一葉なども片頭痛を持っていたとされているため、「片頭痛持ちは天才肌なのではないか」という一説もあります。

 

ですが、これは医学的裏付けがあるわけではなく、片頭痛持ちの人は環境の変化に敏感であることと、症状に常日頃悩まされていることから、感受性が強くなって芸術方面に才能をいかしやすいためではないかと言われています。

 

片頭痛に悩んでいる方は、そのつらく苦しい経験によってつちかわれた感性をいかして芸術世界に足を踏み入れてみたら、もしかしたら芥川のように素晴らしい作品をたくさんうみだす作家になれるかもしれませんね。(文・こーのまな)

 

Photo by nihon_bungaku.