【第5回】恋は突然やってくる ~夜這いしなくちゃ始まらない~

それでは柏木が女三の宮を夜這いするシーンを原文と意訳でどうぞ。

 

 

「宮は、何ごころもなく大殿籠り(おおとのごもり)にけるを、近く男のけはひのすれば、院のおはすると思したるに、うちかしこまりたる気色見せて、床の下に抱きおろしたてまつるに、物におそはるるかとせめて見開けたまへれば、あらぬ人なりけり」

(意訳:女三の宮はぐっすりと眠っていたさなか、ふと男性が近くに来たような気配がして目を覚ました。出かけていた夫が戻って来たのか思っていたら、その人は何やらかしこまったような雰囲気で自分を寝台の上から抱き降ろした。何か変事でも起きたのかと恐る恐る目を開けてみると、なんと目の前の男性は夫ではなく知らない人だった」

 

いやこれ、普通に怖いですよね。既婚女性が寝ている所に男の人が来たら、夫だと思いますよね。それが別人だったらどれだけびっくりするか。怖すぎて声も出せないかもしれません。

 

健気にも女三の宮は声をあげて人を呼ぼうとします。しかし周囲は人が少なくなっているタイミングだったため、誰にも助けてもらえません。相手はなにやら熱心にくどくどと恋心を訴えてきます。それでやっと女三の宮は6年前に恋文を寄越した相手だと気付きます。しかしそれでも彼女にとって寝耳に水の出来事には違いありません。

 

柏木はというと、せめて直接自分の気持ちを伝えたいとの気持ちでやって来ていたのですが、本来絶対に会えないはずの意中の女性を目の前に理性を保てなくなったようです。

 

女三の宮にとってはたいへん不幸なことではありますが、原文では「ただいささかまどろむともなき夢に」(ほんの少しウトウトとまどろんだかどうかもわからないほどの夢の中で)という婉曲表現により、強引に柏木が女三の宮の体を奪ったことがわかります…。だって彼女は深窓の姫君。これまでおそらく大声も出したことがなければまともに走ったこともないはず。逃げられるわけがないのです。

 

その後複数回にわたり女三の宮のもとへ忍んだ柏木ですが、ついに光源氏に密通がバレてしまいます。しかしその時には既に女三の宮は柏木との子どもを妊娠していたのです。現実に引き戻された柏木は心痛のあまり寝込み、衰弱死。一方、女三の宮は光源氏の冷たい態度に耐えきれず出家、生まれた子どもは表面上、光源氏の子として生きていくことになるのでした…。

 

そんなわけで、もののはずみの垣間見が昼ドラみたいなドロドロ系に発展したというエピソードをご紹介しました。今回のケースでの光源氏は若い妻を寝取られてしまった中年男に成り下がったわけですが、実は彼もこれまで似たようなことをいっぱいしてきています。若い頃のツケがまわってきたのだとの因果応報を光源氏の人生に見ることもできますし、とはいえこのような「道ならぬ恋」がたくさん描かれているのがこの物語の面白さでもあるのです。

 

さて、ここまでの回では「噂話で存在を知る」「和歌でアピールする」「垣間見する」「忍んでいく」という平安貴族の恋愛の流れを追ってきました。次回は「恋の終わり」について引き続き源氏物語からの引用を中心に紹介していきたいと思います。(文・村上杏菜)

※『源氏物語』の原文の引用は新編日本古典文学全集『源氏物語』(小学館)から行いました