【後編】ショートショート作家・田丸雅智さん 『海酒』の映画化に楽しみしかない

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※前回の記事はこちら

 

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ゆくゆくは海外でワークショップもしたい。

 

『海色の壜』に収録されている「海酒」が映画化されましたが、自分が創造したものが映画になり、どんな気持ちになりましたか。

 

本当に楽しみしかありません。映画になるからと言って、原作通りでなくてはいけない、などというこだわりもないです。自分が書いたものが、人にどうインスパイアを与えたかに興味があるので、原作と違った部分があっても「あ、そういう見え方をしたんだな」と。

 

そういった発見は今後の創作にも役立ち、僕の糧にもなります。それに、映画を見た人が原作を読む、というチャンスにもなるので、ありがたいです。

 

 

―良い意味でこだわりを持たないことが、新しい発見につながるのですね

 

はい。たとえば本の装丁でも同じでして、『海色の壜』のデザインを描いてくれた二人は友人で、非常に僕の世界観に共感してくれているんです。だから、たとえ僕のイメージと違ったものが出てきても、「彼らにはそういう見え方なんだ」と思って、刺激を受けます。それによって自分自身の幅が広がっていく感覚もあって、すごく楽しいです。

 

 

また、同作はカンヌ国際映画祭出品予定とのことですが、海外でもSS講座を開いてみたいと思われますか。

 

とても思います。講座を開く国によって、バックグラウンドが違いますし、作品内容も変わってくるでしょうね。日本とどういう違いがあるのかも含めて、楽しみです。

 

 

SS大賞」を立ち上げられましたが、他のショートショートの公募との違いは何かありますか。

 

一番大事な点は、編集者がつくということです。これは決定的に違います。「小説家」と「ショートショート作家」は求められる資質が違うので、鍛える筋肉が違い、訓練の仕方も変わってきます。

 

他の賞は応募して終わりですが、この賞では、SS作家を育てていきたいんです。SSを盛り上げるためにも、仲間やライバル、後輩をどんどん輩出していきたい。そのために、賞を設立しました。

 

ゴールデン街を題材に即興でSSを創作!

 

―プチ文壇バー「月に吠える」は新宿ゴールデン街にあるのですが、この街を舞台としてSSを作るなら、どんな作品ができると思いますか。

 

まだ行ったことがなくて、僕の中でゴールデン街をうまく想像できないのですが、どんな街なのでしょうか?

 

 

今は昔ながらの老舗と、新しくきた人たちが融合している感じです。街に来るお客さんは結構個性的というか、クセのある方が多くて(笑)、最近は外国人客も来ます。

 

クセのある方達が来てざわついているのなら、それを発想のヒントにして……僕の中でいま、ゴールデン街と「形状記憶合金」が結びつきました。形状記憶合金というのは曲げたあとに、元に戻る機能があって、メガネとか曲がると困るものによく使われている針金です。

 

クセのある街・ゴールデン街を、色んな団体がもっとクリーンな街にしようとするけど、どうしてもならない。直しても元に戻っちゃうんです。

 

たとえば紳士服の店を無理矢理オープンさせてみるけど、潰れちゃったり、逆に柄が悪くなってスーツの裾がダボついたり長くなったりしだすと。何でだろうと思ってたら、昔ゴールデン街を作った人が、街自体に「雑多」という形状を覚えさせた。誰か黒幕が、ゴールデン街のクセを保つために、クセのある人を送り込んでいるかもしれません。

 

 

日本社会という大きなボスが…

 

そうです、そうなんです。そしたら、壮大な話になってきますよね。もう日本内部の目はごまかせなくなってきたので外国と手を結んで、観光客と見せかけたクセのある外国人を一定数混ぜ、グローバル化と称し仕組みを維持しているのかもしれない。

 

 

そしてそれを操っている黒幕は、ゴールデン街にひっそりと佇む老舗のママかもしれない。

 

でもそれによって経済が循環するので、延いてはゴールデン街だけじゃなく国のためにもなるんですよ。

 

 

なるほど!何だかこの掛け合いはとても楽しいですね。

 

そうなんです。今の少しのやりとりで話がすごく膨らみましたよね。先ほど出た「即興ライブ」は、まさにこういったことをしていて、その方が持っているものを引き出しながら一緒に物語を作っていきます。

 

今後もいろんな分野の方々とコラボをして、自分が持っていない記憶、体験を聞き、交流をしながら作品を作りたいです。人には物語が必ず一つ以上埋まっていると確信を持っているので、人と話すことを大事にしたいですね。


点が線になり、面になり、立体にもなる

 

―「プチ文壇バー月に吠える」には作家志望の方も結構来られるのですが、その方達に向けて何かメッセージを頂けますでしょうか。

 

ルールや常識に捉われないことが大事だと思います。ルールは自分で壊して、自分で作る。壊して壊して作ったものが、もとと同じものでもいいんです。壊す過程を経て、自分のものにしていることが大事だと思っています。ルールや常識を全く否定はしませんが、自分のものにするために一回壊して、もう一回作るという行為をセットですることがオススメです。

 

 

壊して作る、壊して作るそれを繰り返して、1回きりで終わらず、その点と点を線にしていくにはどうすればいいでしょうか。

 

それでいいますと、そもそも僕は点と点を線に、ではなく、線を超えて平面へ、さらには立体にまでしていきたいなという感覚を持っています。要は、最初は点と点だけだったものを、無限に広げていくと思って頂ければ。

 

大げさに言えば、点から宇宙をつくるようなイメージでしょうか。そのために大切なのは、やはり常識に捉われないことです。そうすれば、点は線にも面にも立体にもなっていくと思います。

 

 

「線」だけを考えなくていいんですね。

 

もちろん線でもいいんですが、それだけではないかもしれない、と疑う姿勢なんです。(隣の椅子を指差して)たとえばですが、これを普通の椅子だ、と思っている限りは普通の椅子でしかないんですよ。でも、常識では考えられない椅子だったとしたらどうでしょう。

 

普通なら、椅子に座っていると腰や肩が凝るのは人間のほうですが、もしかしたら逆に、この椅子は人に座られることで血流が悪くなり、背もたれが凝ってしまう生き物のような特殊な椅子かもしれない。もしそうだったら、定期的に椅子のマッサージをする整体師を呼ばないといけないな…なんて考えるだけで、世界は一気に広がります。

 

さらには、椅子が凝ってるんだったら、じつはほかのもの、たとえば机やベッドも凝ったりするんだろうか、とか広がりますよね。こうやって、最初は椅子という1点からはじまって、整体師という点と繋いで線にしたわけですが、机やベッドに発想が広がった途端に、もう線を超えた立体的な世界になっています。みなさんも、常識やルールを疑うことを、ぜひ楽しんでください!(取材・文 平賀たえ)

 

取材後記

 

インタビューの間、田丸さんは身近なものをつかってどんどん違う世界へ引き込み、狭かった自分の視界をグッと広げてくれた。広大な世界を持っている田丸さんと話すと、どんな引き出しが飛び出してくるのだろうかと、時間も忘れてインタビューを続けてしまった。

 

40分で得られるものは、小説だけじゃない。これからどんどん広がり得る、自分の新しい世界も手に入れられるはずだ。この本で田丸さんが灯した明かりを道しるべに、ほかの誰でもなく、自分が創り出す世界を見つけてほしい。

 

※田丸さんが審査員長を務める「ショートショート大賞」、応募締切は2月29日(月)18時。奮ってご応募ください!