【後編】伝えたいことがないから俳句を書く?俳人・佐藤文香さんが考える俳句の魅力とは

 

作る楽しみを伝え、読み手を育てる

 

―普段は中高生にも教えているとのことですが、佐藤さん自身が刺激を受けることはありますか。

 

次の自分の作品のヒントになるような言い回しに出合ったりします。俳句らしい俳句しか読んでないと考えつかないようなフレーズにときめくことがありますね。素質があるなと思った子には、「東京に出てくることがあったら連絡してね」と事前に伝えているんです。

 

一昨年、灘高の子5人に俳句を教えていたのですが、その子たちが今みんな東大生になりました。このインタビューが終わったら、みんなでお花見に行ってきます。

 

彼らは俳人を目指しているわけではありませんが、句会をしようと呼びかけると、季節に1回は集まります。研究者になりそうなヤツ、弁護士になりそうなヤツ、いろいろいるのが面白いです。

 

いろいろ挑戦してみようと思う気持ちが強い、若いときに、その中のひとつとして俳句に出会ってみてほしいですね。俳句甲子園や句会に出ると作品の面白さがわかるようになります。だから一旦やめても、今度は読者として俳句に関わってくれる人が増えるのではないかと期待しています。

 

さきほども言ったように、俳句を読むときには作品に歩み寄ってその良さを自ら摑む力が必要になるので、俳句は難しい印象があるかもしれません。でも一度作る体験をすると、読み解く鍵も手に入れられるんです。この本を読んで俳句を作ってみて、俳句の読者も増えてくれると嬉しいですね。

 

 

ー又吉さんとの対談の中で、俳句の世界が内輪で盛り上がっているだけになっていると話されていますが、外の人にも広めたり、読み手を増やしたりするために今後していきたいことはありますか。

 

俳句が書かれることよりも、書かれた俳句が読まれることが大事かなと思っています。折角、俳句というこんな面白いものがあるのに、読まないの損ですよ? と私は伝えたい。

 

すごい美味しいケーキ屋さんがあったら、勧めたくなりませんか? 駅から遠くても、ここのイチゴのタルトだけは美味いよ、買ってくるから食べてみてよ、みたいな。そういう感じです。すごいものって、多くの人と共有すればするほど嬉しさがアップしますよね。

 

 

ーありがとうございました。最後に、これから俳句を始めようと思っている方にメッセージをお願いします。

 

特に言うことはないというか……。メッセージというのが苦手だから俳句を書いているんですよね。自分の気持ちを伝えようと思わない。極端な言い方をすれば、伝えたいことがないから俳句を選んだんです。

 

Twitterのタイムラインを見てて政治ネタが流れてくることがありますが、人が意志を持って何かを伝えようとしていることに、私はつらくなってしまうんです。だからそういう私みたいな人に、俳句をおすすめします。

 

 

お話を聞いて、「俳句は読むことがアウトプットになる」という佐藤さんの発言に驚いた。映画や小説とは違い、情報が限られているからこそ、想像力を膨らませる必要があるのだろう。17音の中で、どの漢字を使うか、どの助詞に変えるかで解釈も変わってくる。俳句は言葉を非常に吟味した表現なのだ。

 

本書は佐藤さんが初心者の目線に立った講座を行い、読者は一から俳句の作り方を学べる。写真やイラストが豊富にあり、自分も生徒として吟行句会やイベントに参加している感覚を持てるだろう。この本で作り方を知り、表現方法の一つに俳句を用いてみては? 普段は通り過ぎていた、自分の新しい感性が見つかるかもしれない。(取材・文 平賀たえ)