【後編】伝えたいことがないから俳句を書く?俳人・佐藤文香さんが考える俳句の魅力とは

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※前編はこちら

 

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ビギナーでも一日で名句を生み出せるかも?

 

ーひらのりょうさん、水野しずさんと句を作りながら、佐藤さん自身が勉強になったことはありますか。

 

プロのクリエイターは、これだけ話せばこれだけの俳句ができるんだということが分かって嬉しかったです。創作に携わる人は俳句必須にしてもらったら、俳句はより豊かになるでしょうね。夏目漱石や芥川龍之介も、昔は俳句を作っていましたし。

 

ふだんは音楽が専門の人も、小説を書く人も、スポーツ選手が筋トレするような気分で俳句を作ってくれたら面白くなりそうです。

 

俳句は短いので、初心者でも面白い句が書ける可能性があります。小説や映画では難しいですが、俳句はたまたまできたものが、すごくいい可能性があるんです。私としては、そういう句も見逃したくない。俳句に普段関わっていない人が作る面白い句を、どんどん見ていきたいですね。

 

 

ー吟行句会では芥川賞作家の長嶋有さんも参加されていますが、いかがでしたか。

 

長嶋さんは、非常にサービス精神が旺盛な方で、作品に対しても、細部にとても目が行き届く人でした。気を回してくれて、長嶋さんが一番喋ってくれました。(笑)

 

句会で選評する時、

 

長嶋「特選だからハードル上げとこう。他のどの句よりも素晴らしいと思った理由をしっかりと語ってね」

佐藤「ダメですよ、震えちゃうから(笑)」

長嶋「そっか、じゃあ気楽に」

 

という、ハードル上げながらも次には下げることを言って、周りを和ませてくれました。(笑)

 

このやり取りの他に、本の中にはムダと思われそうな掛け合いが少なくありません。「ひえー」とか「ふーん」という相槌まで、ライターの与儀明子さんが書き取ってくれました。

 

そのおかげで、現場のムードが伝わる一冊になったと思います。細部を入れてムードを伝えるというのは、俳句とも繋がる。つまりこの本自体が、すごく俳句的なんです。

 

作る楽しみを伝え、読み手を育てる

 

―普段は中高生にも教えているとのことですが、佐藤さん自身が刺激を受けることはありますか。

 

次の自分の作品のヒントになるような言い回しに出合ったりします。俳句らしい俳句しか読んでないと考えつかないようなフレーズにときめくことがありますね。素質があるなと思った子には、「東京に出てくることがあったら連絡してね」と事前に伝えているんです。

 

一昨年、灘高の子5人に俳句を教えていたのですが、その子たちが今みんな東大生になりました。このインタビューが終わったら、みんなでお花見に行ってきます。

 

彼らは俳人を目指しているわけではありませんが、句会をしようと呼びかけると、季節に1回は集まります。研究者になりそうなヤツ、弁護士になりそうなヤツ、いろいろいるのが面白いです。

 

いろいろ挑戦してみようと思う気持ちが強い、若いときに、その中のひとつとして俳句に出会ってみてほしいですね。俳句甲子園や句会に出ると作品の面白さがわかるようになります。だから一旦やめても、今度は読者として俳句に関わってくれる人が増えるのではないかと期待しています。

 

さきほども言ったように、俳句を読むときには作品に歩み寄ってその良さを自ら摑む力が必要になるので、俳句は難しい印象があるかもしれません。でも一度作る体験をすると、読み解く鍵も手に入れられるんです。この本を読んで俳句を作ってみて、俳句の読者も増えてくれると嬉しいですね。

 

 

ー又吉さんとの対談の中で、俳句の世界が内輪で盛り上がっているだけになっていると話されていますが、外の人にも広めたり、読み手を増やしたりするために今後していきたいことはありますか。

 

俳句が書かれることよりも、書かれた俳句が読まれることが大事かなと思っています。折角、俳句というこんな面白いものがあるのに、読まないの損ですよ? と私は伝えたい。

 

すごい美味しいケーキ屋さんがあったら、勧めたくなりませんか? 駅から遠くても、ここのイチゴのタルトだけは美味いよ、買ってくるから食べてみてよ、みたいな。そういう感じです。すごいものって、多くの人と共有すればするほど嬉しさがアップしますよね。

 

 

ーありがとうございました。最後に、これから俳句を始めようと思っている方にメッセージをお願いします。

 

特に言うことはないというか……。メッセージというのが苦手だから俳句を書いているんですよね。自分の気持ちを伝えようと思わない。極端な言い方をすれば、伝えたいことがないから俳句を選んだんです。

 

Twitterのタイムラインを見てて政治ネタが流れてくることがありますが、人が意志を持って何かを伝えようとしていることに、私はつらくなってしまうんです。だからそういう私みたいな人に、俳句をおすすめします。

 

 

お話を聞いて、「俳句は読むことがアウトプットになる」という佐藤さんの発言に驚いた。映画や小説とは違い、情報が限られているからこそ、想像力を膨らませる必要があるのだろう。17音の中で、どの漢字を使うか、どの助詞に変えるかで解釈も変わってくる。俳句は言葉を非常に吟味した表現なのだ。

 

本書は佐藤さんが初心者の目線に立った講座を行い、読者は一から俳句の作り方を学べる。写真やイラストが豊富にあり、自分も生徒として吟行句会やイベントに参加している感覚を持てるだろう。この本で作り方を知り、表現方法の一つに俳句を用いてみては? 普段は通り過ぎていた、自分の新しい感性が見つかるかもしれない。(取材・文 平賀たえ)