【前編】伝えたいことがないから俳句を書く?俳人・佐藤文香さんが考える俳句の魅力とは

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夕立の一粒源氏物語

 

これは俳人の佐藤文香さんが、高校時代に出場した俳句甲子園にて、個人最優秀賞を受賞した句だ。2006年には「第2回芝不器男俳句新人賞 対馬康子奨励賞」を受賞。現在までに句集と詩集合わせて3冊を刊行している。

 

そんな若き俳人の活躍もあって、最近、俳句を始める人が増えてきている。1998年から行われている「俳句甲子園」は当初、開催場所である愛媛県近隣の出場校が多かった。しかし今では、全国的に参加校が増えているようだ。

 

佐藤さんは中学校、高校で出前授業をするなど、若い人に向けても俳句の魅力を伝えている。今年3月には、佐藤さんが編集を担当した俳句ビギナーのための本『俳句を遊べ!』が発売された。

 

 

この本には、俳句の初心者である2人の若いクリエイターへの俳句講座、句会や公開俳句イベントの模様に加え、お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹さんとの対談が収められている。

 

一般人には少々とっつきづらいイメージのある、俳句の魅力とはなんだろう? 佐藤さんに、講座や句会でのエピソード、俳句への想いなど幅広くお話を伺った。

 

目次

一見どうでもいいことが、俳句では作品として成立する

 

ー俳句を始めたきっかけを教えて下さい。

 

中学校のとき、夏井いつきさんという俳人に教わったのがきっかけです。ゲーム感覚で楽しめて作ることにのめりこむようになり、文化祭で俳句イベントをしたり、高校生の時には俳句甲子園に出場したりしました。

 

 

ー俳句の魅力は何だと思われますか。

 

私は映画とか漫画などの長い物語は、あまり得意ではないんですね。物語ではなく、言葉それ自体が好きなんです。俳句はあらすじがいりません。細部のみや、ムードだけでも作品として成立する数少ないジャンルだと思います。そういう細かいことや、一見どうでもいいことが一句一作品になるのが俳句の魅力ですね。

 

たとえば『俳句を遊べ!』に収録した作品だと、

 

春はすぐそこだけどパスワードが違う

(福田若之)

 

という作品は、17音の中にどんな時間が流せるかといった工夫を凝らしています。

 

春はすぐそこだけど、パソコンにログインができない時は5分でもとても長く感じますよね。正しいパスワードを入力するまで春にならないような、もどかしさを一句にしている。この主人公が誰であるか、なんのパスワードであるかを言わないでも、この気分は伝わります。

 

この句とは逆に、バシっと光景を切り取った作品だと、

 

終電の強き光や蟇(ひきがえる)

(小野あらた)

 

という句があります。これは終電の光とヒキガエルの、色や質感の違いがよく出ている句です。というか、この句ではこの対比しか言っていない。それでも一句として決まっています。

 

この2つの他にも色んなタイプの俳句がありますが、読むときはどの句も17音なので、一目でひとつの作品が見渡せる。私が思う俳句の一番のよさは、このサイズ感です。

 

 

ーどういう時にアイディアは浮かぶのでしょうか。

 

ふと浮かぶということはほぼないですね。俳句をやってると、「花を見て、1句思いつくんですか?」と言われますが、そんな風流なことではないです。

 

でも、花を見た印象やムードなどの細かいところは見るようにします。即座に句にならなくても、五感を働かせて色んなところで情報をキャッチしています。

 

小説だと何日も書き続けて完成させるものですが、俳句は作ろうと思えば一日50句だって作れるので、書いたものの中からどう選ぶかが作家性と言えるのではないかなと思います。

 

 

ーこの人のような俳句を作りたい、と思う俳人の方はいらっしゃいますか。

 

師匠である池田澄子は、やはりカッコいいなと思いますね。現在、80歳なのですが、全然満足せずに創作を続けています。次はどういう新しいことができるかなどを常に考えている方です。

 

自分より若い作家だと、先ほども挙げましたが、福田若之に注目しています。彼は17音のなかでどこまでできるかを常に考えて俳句を書いていますね。今回、又吉直樹さんとの対談で取り上げた、

 

ながれぼしそれをながびかせることば

 

という彼の句がかなり好きです。この句がどう面白いかは、『俳句を遊べ!』をご覧いただければと思います(笑)。

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