【1/3】「第一回 月に吠える文学賞」大賞受賞者・塚本オルガさん 最初に恋があってあの小説が生まれました

写真:塚本オルガさん1

写真:塚本オルガさん1

 

「第一回 月に吠える文学賞」で、審査員たちの圧倒的な支持を集めて、断トツで大賞に輝いた「しあわせストーカー日記」。現代の閉塞感をシニカルに描いた作品は、一体どうやって生まれたのか。著者の塚本オルガさんにインタビューを行った。可愛らしいルックスと裏腹に、その口からは過激で不敵な言葉が次々と飛び出した。

 

目次

夢を食べて生きています

 

―塚本さん、普段はどんな仕事をしているんですか?

 

“夢職”です。

 

―無職、ってことですか?

 

いえ。夢の職と書いて“夢職-MUSHOKU-”と読みます。

 

―そ、そうですか……とにかく、この度は大賞おめでとうございます。まずは受賞が決まったときの気持ちを教えてください。

 

「やっぱりな」って感じです。最終選考に残ったときも、「当たり前かな」と思っていましたし、自信はありましたね。自信過剰なんですよ(笑)。でも嬉しかったです。

 

―大賞受賞作「しあわせストーカー日記」はどんなきっかけで書いたのですか?

 

最初に恋があって、あの小説が生まれたという感じです。誰もが恋をして気持ちが昂ぶると、暴走してしまう危険性があると思うんです。同時に、その瞬間にしか味わえない快感もあるかなって。

 

私にもそういうところがあって、昔やっていたブログに片思いの状況を書いていたんですけど、気持ちが昂ぶるとほとんど言葉の暴力に近い激情を書き綴ったりもしてしまいまして。

 

つらいんですけど、でもここまで感情を揺さぶられる人が存在することがどこかしあわせかも、みたいな感覚があり、その日記を自分で「しあわせストーカー日記」ってふざけて呼んでいました。そこから話を膨らませていったようなところはあります。

 


 

創作スタイルは“間を埋めていく”作業

 

―小説はいつから書き始めたんですか?

 

小さい頃から書いていました。小学校2年生です。そのときから小説家になりたいと思っていましたね。

 

―小説を書くときのスタイルを教えてください

 

「主人公はコイツだ!」というキャラクターがポンっと出てきて、そのときにもう最初と最後が決まっちゃうんです。実在する人物を見てピンときて「この人を書きたい!」と思うこともあります。トチ狂った人間を見るとワクワクしますね。

 

それで、きっとこの人はこういう風に動くだろうな、バカだな、とか思いながら、結末を見据えてその間を埋めていく作業をします。主人公とか周りの人のことを固めるのがすごく好きなんですよ。

 

このキャラクターはアメリカ合衆国と同じ誕生日で、身長は163cmのスレンダーな体型、コンプレックスは恋人の家に火をつけた過去があること、みたいな。プロットを書くとすればその後ですね。

 

―影響を受けた作家や作品は?

 

好きな作家は、最近ではミラン・クンデラがすごく好きです。彼の小説からは、生活の力をもらえる感じがします。生きる力というよりも、生活している人間の生々しさやバカバカしさを射抜いてくれているようで、読んでいると共感もするし、安心する気持ちになります。

 

作品単位だったら、夢野久作の「ドグラ・マグラ」が好きですね。読んでいて、その世界に引きずり込まれていくような感じがたまらないです。リズミカルな語り口は、実際に声として再現されているかのような感覚を覚えますね。

 

―塚本さんの文体や言語感覚も、リズミカルで独特ですよね

 

あまり意識はしていないんですけどね。むかし、舞城王太郎さんの「阿修羅ガール」を読んだときに、今まで読んだことのないタイプの小説だったので、すごく衝撃を受けたことはありました。ただ「ああいう風に書いてみたい」と真似したら、スッカスカで痛々しい文章になってしまいましたね。

 

舞城さんの文体は喋り言葉をそのまま書いているように見えて実はリズムをすごく意識されてるのかな、と気付きました。ああいう風に書くのは本当は難しいんだと勉強になりました。

 

(その2へ続く)

 

「第一回 月に吠える文学賞」の受賞作および最終候補作はこちらからご覧いただけます

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