農業を通じてホームレス、ニートに就労機会を 女性起業家・小島希世子さん

目次

 

食べることは生きること。農業はその根源にある産業

 

小島33

 

―コトモファームが始まったのはいつ頃で、当時のお客さんの数はどうでしたか?

 

2011年からです。当時はお客さんも少なかったですが、今は毎回たくさんの方が来てくださります。農園も1つだけでしたが、今では5つにまで増えました。

 

 

―他の市民農園も最近増えてきて、「農業女子」といった言葉も生まれていますが、どう感じますか?

 

農業に興味を持つ人が増えて、“農ある生活”が増えるのはいいことだと思います。食べること=生きることで、農業はその根源の産業でもあるんです。みんなご飯を食べるじゃないですか。

 

だけど、自分が普段口にしているものが、自然の中でどう育っているのか、どのくらいの年月かかっているのか、などはあまり知りませんよね。農業を通じて知っていただくことで、食卓にも深みが増すと思います。

 

 

―農園には、「ちょっとやってみたくて来た」という方が結構いる印象がありましたが、なぜ最近そういう方が増えているのだと思いますか?

 

人間は本来、もっと自然に触れているものです。しかし、食卓と生産現場との距離があり過ぎるので、潜在意識の中にある願望が「ちょっと自然に触れてみようかな」とか「食べ物つくってみようかな」に繋がっているのかな、と。でも、「ちょっとやってみたい」って言っていたのに、がっつりハマる方も多いんです。(笑)

 

「できるかできないか」ではなく「やるかやらないか」で考える

 

―「コトモファーム」以外には、どのような活動をされているのでしょう。

 

『コトモファーム』と同じように、みなさんと一緒に野菜を作ったり、作り方を教えたりしているNPO法人『農スクール』、あと熊本の農家さんと提携して、農家直送のオンラインショップ『えと菜園』の運営をしています。

 

 

―『農スクール』は、どのような方が対象なのでしょうか。

 

働きたいけど仕事がない方で、農業界に貢献できる能力があるのに、自分がその能力に気づいてない。そして埋もれてしまっている方を対象に、野菜の作り方を教えています。農スクールで自信を取り戻し、農業界に羽ばたいていって、将来的に活躍していただければ、という思いを込めています。

 

 

―「食」と「職」を繋げるという、そのアイディアを思いついたときに、周りからの批判もあったと思います。その中で不安に思ったことはありますか?

 

そうですね。誰もやっていないことなので。でも、だからこそ、やってみないとわからない。私はいつも、「できるかできないか」ではなく「やるかやらないか」で考えています。

 

「できるかできないか」で考えると、「こういう可能性があるから無理そう…」って、できない理由を数知れず挙げられるんですよね。なので「やるかやらないか」で判断するようにしています。

 

 

―農家直送のオンラインショップは、熊本県の農家さんと提携しているとのことですね。

 

はい。熊本県は私が生まれ育った場所で、自然が豊か。お水もとても美味しいんですよ。食べ物も、その湧き水でできたものなので美味しいんです。オンラインショップで販売しているのは、生産者がまず信頼できるかどうか。

 

それと、自分が心の底から胸を張って「これは美味しい」と思ったもの。あと農薬には頼らない、という基準を設け、必須条件として販売しています。またお客さんの健康に繋がるとか、守られる自然があるとか、そういうことにもすごく気を付けています。

 

 

―農薬を作らないのは、自然を守るという目線でやられている、ということですね。

 

というより、野菜を作っていて思うのが、「生きているのって人間だけじゃない」ということなんですね。安全性というのもあるんですが、農薬によって動物が減ってしまうのが嫌なんです。食べること自体が命をいただくことなので、闇雲な殺生は嫌だなっていう思いがあって。無農薬なので虫とか草とかいっぱいですが、その感じが好きなんですよね。

 

 

―確かに、先ほど見学させていただいた農園には虫がたくさんいましたね。

 

でも、虫ってそんなに野菜食べないんですよ。ひとつの種類が増えると、それを食べる虫も増えるので、数が抑えられる。そういう自然の強制力みたいなのが働いているんです。一種類だけを攻撃して殺すような農薬をまくからバランスが崩れるんじゃないかな、と。

失敗しても打ち首になるわけではないし、時間が経てば笑い話になる

 

IMG_3736

 

―これまで困難なことがたくさんあったかと思いますが、その中でも「これはもう本当にだめだ」と思ったことはありますか。

 

喉元過ぎればなんとやら、と言い聞かせてやってます。そのことが笑い話とか、思い出話になるときがくるじゃないですか。それが数週間後か数か月後か、数年後かはわかりませんけど、過去を振り返って「ああいう大変なときもあったよね」みたいなときもあるから、そう思えば大概のことは乗り越えられますね。

 

 

―「あのときなんとかできたから、今回も」という自信はついてくるものですか?

 

自信というか、体が健康であれば、生きていさえすれば、大丈夫じゃないですか。大変すぎて生命の危機まで脅かされるとちょっと問題ですけど、まあそういうのはない時代というか。例えば、失敗したら切腹とか打ち首とか、そういうのもないし。

 

それを想像すると、自分にとってはありがたい時代かな、と。私は結構失敗することが多いので、昔だったら切腹してるかもしれない。笑そう思えば有り難いですね。

 

 

―最後に、やりたいことがあるのに、周りに反対されて悩む若者へメッセージをお願いします。

 

人生って、まあ100年くらいじゃないですか。自分の人生なので、周りからあれこれ言われてするのではなく、自分がやりたいことを納得してやってみればいいと思います。 万が一失敗したとしても、100年頑張って生きればやり直しもききますしね。

 

取材を終えて

 

東京から電車に乗って少しのところにある湘南藤沢の農園は広く、利用者の方々がみんな穏やかで楽しそうに農作業をしているのが印象的だった。

 

「農ある生活を広めたい」という小島さんの思いが、色々な人に自然の中で野菜を育てる喜びを教えている。自分がやりたいと思うことを真っ直ぐにやり続けている人は、周りにも良い影響やエネルギーを与えてくれるものだと感じた。

 

都会での忙しい生活に疲れた人々が多い今こそ、生きる根源である「食」と向き合える「農ある生活」が必要なのかもしれない。(取材・文 ぶっきー)

 

<※小島さんが運営する農園のWEBサイト>

1 2
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次