農業を通じてホームレス、ニートに就労機会を 女性起業家・小島希世子さん

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仕事をしたいけれど職がないホームレスと、仕事はあるのに人手が足りない農家。この2つをかけ合わせれば、世の中の問題のひとつが解決するのでは? そんな思いで自ら農園を立ち上げ、奮闘している女性起業家がいる。『ホームレス農園』の著者である小島希世子さんだ。

 

 

畑に囲まれて育ち、幼い頃から農家になることが夢だった小島さんは、大学卒業後に産地直送会社での勤務を経て、2013年にNPO法人『農スクール』を設立。ホームレス、生活保護受給者やニートの若者達を受け入れ、農を通じた様々なプログラムを実施して、農業の世界での就労機会を生み出している。

 

その他にも、生産者である農家と消費者である家庭を繋ぐオンラインショップの運営など、これまでにない取り組みで農業の発展に貢献している。

 

ふと思いついたアイディアを実現させる行動力と熱意。その根源は一体、どこにあるのか? それを知りたいと思った私は、小島さんが運営している湘南藤沢の体験農園『コトモファーム』を訪れた。

 

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気軽に野菜作り体験ができる『コトモファーム』

 

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『コトモファーム』は、農薬や化学肥料を使わない野菜作りを学ぶ体験農園だ。毎週日曜日に野菜作りの講習があり、種や苗・農機具もレンタルできて、誰でも気軽に農作業にチャレンジすることができる。お願いし、私も参加させていただくこととなった。

 

参加者はひとりで来ている人から、小さい子供を連れたお母さん、夫婦で来ている人まで、年齢も性別も様々だ。今回の講習は、大根や白菜など冬野菜の育て方と、玉ねぎの植え方。

 

「玉ねぎは乾燥が好きで、ジメジメが苦手です。そのため、株間をしっかりあけて植えましょう」

 

みんなメモを取ったり、途中で質問を挟んだりしながら、小島さんの話を真剣に聞いている。 そのあと、実際に玉ねぎの苗が配られ、各々の畑で植えていく流れとなった。

 

「わからないところは、なんでも質問してくださいね」

 

小島さんは一人ひとりのところを回って、丁寧に教えていく。

 

 

「無農薬の自然栽培だし、やっぱり自分で育てたものは味が違う」

 

そう言いながら、「食べてみな」と収穫したばかりの野菜をプレゼントしてくれるご夫婦もいた。体験農園に通い始めて2年目だという。二人の畑には大根やホウレンソウ、白菜、ブロッコリーなど種々の野菜が元気そうに育っている。

 

毎週車で1時間以上かけてくるという男性もおり、「大変ではないか」と尋ねると、「だからこそ楽しい」という。土と草、緑の自然に囲まれた湘南藤沢の農園にいる方々には、一様に穏やかで優しい雰囲気が漂っていた。

 

講習が終わった後、農園近くにある野菜の直売所『くまもと湘南館』にて、小島さんにお話を伺った。

 

食べることは生きること。農業はその根源にある産業

 

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―コトモファームが始まったのはいつ頃で、当時のお客さんの数はどうでしたか?

 

2011年からです。当時はお客さんも少なかったですが、今は毎回たくさんの方が来てくださります。農園も1つだけでしたが、今では5つにまで増えました。

 

 

―他の市民農園も最近増えてきて、「農業女子」といった言葉も生まれていますが、どう感じますか?

 

農業に興味を持つ人が増えて、“農ある生活”が増えるのはいいことだと思います。食べること=生きることで、農業はその根源の産業でもあるんです。みんなご飯を食べるじゃないですか。

 

だけど、自分が普段口にしているものが、自然の中でどう育っているのか、どのくらいの年月かかっているのか、などはあまり知りませんよね。農業を通じて知っていただくことで、食卓にも深みが増すと思います。

 

 

―農園には、「ちょっとやってみたくて来た」という方が結構いる印象がありましたが、なぜ最近そういう方が増えているのだと思いますか?

 

人間は本来、もっと自然に触れているものです。しかし、食卓と生産現場との距離があり過ぎるので、潜在意識の中にある願望が「ちょっと自然に触れてみようかな」とか「食べ物つくってみようかな」に繋がっているのかな、と。でも、「ちょっとやってみたい」って言っていたのに、がっつりハマる方も多いんです。(笑)

 

「できるかできないか」ではなく「やるかやらないか」で考える

 

―「コトモファーム」以外には、どのような活動をされているのでしょう。

 

『コトモファーム』と同じように、みなさんと一緒に野菜を作ったり、作り方を教えたりしているNPO法人『農スクール』、あと熊本の農家さんと提携して、農家直送のオンラインショップ『えと菜園』の運営をしています。

 

 

―『農スクール』は、どのような方が対象なのでしょうか。

 

働きたいけど仕事がない方で、農業界に貢献できる能力があるのに、自分がその能力に気づいてない。そして埋もれてしまっている方を対象に、野菜の作り方を教えています。農スクールで自信を取り戻し、農業界に羽ばたいていって、将来的に活躍していただければ、という思いを込めています。

 

 

―「食」と「職」を繋げるという、そのアイディアを思いついたときに、周りからの批判もあったと思います。その中で不安に思ったことはありますか?

 

そうですね。誰もやっていないことなので。でも、だからこそ、やってみないとわからない。私はいつも、「できるかできないか」ではなく「やるかやらないか」で考えています。

 

「できるかできないか」で考えると、「こういう可能性があるから無理そう…」って、できない理由を数知れず挙げられるんですよね。なので「やるかやらないか」で判断するようにしています。

 

 

―農家直送のオンラインショップは、熊本県の農家さんと提携しているとのことですね。

 

はい。熊本県は私が生まれ育った場所で、自然が豊か。お水もとても美味しいんですよ。食べ物も、その湧き水でできたものなので美味しいんです。オンラインショップで販売しているのは、生産者がまず信頼できるかどうか。

 

それと、自分が心の底から胸を張って「これは美味しい」と思ったもの。あと農薬には頼らない、という基準を設け、必須条件として販売しています。またお客さんの健康に繋がるとか、守られる自然があるとか、そういうことにもすごく気を付けています。

 

 

―農薬を作らないのは、自然を守るという目線でやられている、ということですね。

 

というより、野菜を作っていて思うのが、「生きているのって人間だけじゃない」ということなんですね。安全性というのもあるんですが、農薬によって動物が減ってしまうのが嫌なんです。食べること自体が命をいただくことなので、闇雲な殺生は嫌だなっていう思いがあって。無農薬なので虫とか草とかいっぱいですが、その感じが好きなんですよね。

 

 

―確かに、先ほど見学させていただいた農園には虫がたくさんいましたね。

 

でも、虫ってそんなに野菜食べないんですよ。ひとつの種類が増えると、それを食べる虫も増えるので、数が抑えられる。そういう自然の強制力みたいなのが働いているんです。一種類だけを攻撃して殺すような農薬をまくからバランスが崩れるんじゃないかな、と。



 

失敗しても打ち首になるわけではないし、時間が経てば笑い話になる

 

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―これまで困難なことがたくさんあったかと思いますが、その中でも「これはもう本当にだめだ」と思ったことはありますか。

 

喉元過ぎればなんとやら、と言い聞かせてやってます。そのことが笑い話とか、思い出話になるときがくるじゃないですか。それが数週間後か数か月後か、数年後かはわかりませんけど、過去を振り返って「ああいう大変なときもあったよね」みたいなときもあるから、そう思えば大概のことは乗り越えられますね。

 

 

―「あのときなんとかできたから、今回も」という自信はついてくるものですか?

 

自信というか、体が健康であれば、生きていさえすれば、大丈夫じゃないですか。大変すぎて生命の危機まで脅かされるとちょっと問題ですけど、まあそういうのはない時代というか。例えば、失敗したら切腹とか打ち首とか、そういうのもないし。

 

それを想像すると、自分にとってはありがたい時代かな、と。私は結構失敗することが多いので、昔だったら切腹してるかもしれない。笑そう思えば有り難いですね。

 

 

―最後に、やりたいことがあるのに、周りに反対されて悩む若者へメッセージをお願いします。

 

人生って、まあ100年くらいじゃないですか。自分の人生なので、周りからあれこれ言われてするのではなく、自分がやりたいことを納得してやってみればいいと思います。 万が一失敗したとしても、100年頑張って生きればやり直しもききますしね。

 

取材を終えて

 

東京から電車に乗って少しのところにある湘南藤沢の農園は広く、利用者の方々がみんな穏やかで楽しそうに農作業をしているのが印象的だった。

 

「農ある生活を広めたい」という小島さんの思いが、色々な人に自然の中で野菜を育てる喜びを教えている。自分がやりたいと思うことを真っ直ぐにやり続けている人は、周りにも良い影響やエネルギーを与えてくれるものだと感じた。

 

都会での忙しい生活に疲れた人々が多い今こそ、生きる根源である「食」と向き合える「農ある生活」が必要なのかもしれない。(取材・文 ぶっきー)

 

<※小島さんが運営する農園のWEBサイト>