第53回文藝賞、応募作1692篇の中から選ばれたのは、町屋良平さんの「青が破れる」だった。ボクシングと恋と死をめぐって織りなされる、5人の男女の青春。独特の文体から浮かび上がってくる透徹な感情が、人々の胸の内に渦巻く普遍的なものを揺さぶる。
藤沢周氏、保坂和志氏、町田康氏から絶賛された本作。「生」をめぐる新たな青春小説の誕生の裏には、町屋さんの言葉に対する深い思いがあった。
わずか112枚の小説で3人の登場人物の死を書く、選評で「暴挙」とまで言われたストーリーはどのようにして作られたのか? 町屋さんが捉える言葉と小説の関係とは?――「青が破れる」という作品について、また、小説や言葉というものについて、町屋さん自身の実直な考えを伺った。
物を書いていることは友達にも言ってなかった。
――まずは、受賞の感想をお聞かせください。
そうですね、率直に嬉しいという気持ちが一番強いですね。二番目にあるのは、他人事のような感じといいますか。自分のことではないような感じも同時にあります。
――受賞されてから、周りの環境やご自身の中で何か変わったことはありますか?
環境に関していうと、小説を書いているってことは人にはあんまり言ってなくて。友達とかにも言ってなかったんで、自分が書いた本を読んでもらったあとに昔からの友達に会う っていうのは意外に不思議な感じです。ちょっと気恥ずかしいです。
――小説を書くようになったきっかけというのは何かあるんですか?
もともとは漫画が好きで、家にいっぱい漫画があったんですけど、文章に関してはさくらももこさんのエッセイが好きで。文章ってすごいなって思って、そこから書き始めたっていうのがありますね。
あとは思春期に読んで、文学っておもしろいというのを最初に感じたのは、山田詠美さんの「僕は勉強ができない」です。
小説の中で何が起きるか、よくわからず書いている。
――作品のことについても伺っていきたいと思います。「青が破れる」という作品には5人の主な登場人物(秋吉・ハルオ・とう子・夏澄・梅生)が出てきます。失礼ながらちょっと変わっているといいますか、異様なところもある登場人物が多いかと思いますが、どういう風に作っていかれたのでしょうか。
秋吉に関しては、地の文の語りに関わる関係上、あんまりこういう性格の人物だ、と設定づけないように心がけて書きました。梅生に関しても同様の部分が少しあります。あとの3人は秋吉と梅生から見て語る描写が主になってくるので、登場人物として生き生きするように書いています 。
――登場人物として生き生きするように書かれたという3人が小説の中では死んでしまうわけですが……最初からこの3人が死ぬということを考えた上で人物を作っていったんですか?
実は考えてないんです。まずはシーンを書いて、そこから登場人物ができてくるっていう感じなんで。で、その登場人物がそのあとどうなるかっていうのを考えていく中で、自然とそういうストーリーになっていくっていう感じで、小説の中で何が起きるかっていうことは基本的には想定せずに書いています。
――自分に似ている、あるいは全然似ていない登場人物というのはいますか?
1番似ていないのはハルオですね。似ているのは……いません!(笑)
――「青が破れる」は3人の死をドラマチックに書いているというよりは、淡々と書いている、けれどそのなかで登場人物たちの激しい感情が透けて見えるような感じがすると思いました。それは町屋さんのこの独特な文体にもよるのかと思っていまして、そういったことは意識して書かれていますか?
そうですね……ちなみに逆にお聞きしたいんですけど、こういう僕の文体だから、3人死ぬってことが湿っぽくないというか、そういう感じを受けるということでしょうか?
――はい、この文体があるからこそ、この淡々とした空気があって、でもそこで描かれているものというのが逆に浮かび上がってくるような感じがしたので。
面白いですね! 仰っていただいたように、淡々としたもの、激しい感情、そういったものを既存の価値観に捉われず書こうとした部分が、文体によって成立しているのだとしたら、とてもうれしいです。