【2/3】ノンフィクションライター・北尾トロさん 松本への移住を機に、猟師になった

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全ての活動とライターはリンクしている

 

― これまでにオンライン古本屋、本の町プロジェクト、そしてノンフィクション雑誌レポの創刊など、新しいことに常に挑戦し続けている北尾さんですが、そのモチベーションはどこから来るのですか?

 

そんなに強い思いはないし、元々新しいことをやりたがる人ではないんだけど、新しいことをやって種まきをして、後は人に任せるというのが自分は向いていますね。

 

それに新しいことって言っても、自分がやっているのは、世の中にあってもなくてもいいようなことなので、放っておくと誰もしない可能性がある。だったら自分でやってみようと思うだけで。

 

オンライン古本屋だったら、素人がインターネットを使って古本屋を始めるということだけど、当時あまりやっている人がいなかったことを、割と本気でやってみたと。その経験を色々なメディアに書いたところ、やる人が増えていったんだよね。

 

後は放っておいてもそのジャンルは大丈夫ということじゃん。そうすると僕は他のことをまたやってみる。本の町も、オンライン古本屋で知り合った仲間たちと組んでやってみた。

 

その繰り返しなので、あまり進歩はないんですよ。家族を巻き込んで人生を賭ける、っていうのはあまり好きじゃないし、自分に合っていないとも思う。

 

― 一定の余裕がある中で、ということでしょうか?

 

経済的っていうか、お金をかけることは良いんですよ。ただし、本当に本の町をやりたければ、ライターを辞めないとダメじゃない。そんな気はサラサラなくて、もし本の町をやったなら、そのことを書きたいっていう気持ちがあるわけですよ。

 

つまり、ホームグラウンドはやっぱりライターにあるんですよね。片手間と言えば片手間なんだけど、どれもリンクしているっていうか。季刊レポも同じで、ライターとして活動していく中に、ちょっと新しいことが加わったという感じなの。

 

ライターは一人でやる仕事でしょ、基本。僕は勝手にやらせてほしいタイプなので、取材から何まで一人でやるのが好きなんだけど、古本屋の仲間たちと祭事やイベントをするときは、人と協力しないとできない。それはライターにはなかったことで、人と何か一緒にやるのも面白いんだな、と。

 

ただ、それだけだときっと僕はストレスがたまるので、ライターはライターでやっていると。無駄に我慢して耐えて、ということはやっていないです。

 

何でもこなせることは弱点にしかならない

 

― 今後も何か新しいことに取り組んでいく可能性もあるんですか?

 

今は猟師をやっています。元々猟師に対するモチベーションはないんだけど、なぜやるんだというと、東京から長野県松本市に引っ越したというのが一つあって。引っ越した以上は、東京ではできないけど松本ではできることを始めないとウソだなというのがあるんです。

 

それが何かと言ったら、猟師だった。僕が長野の森を本気で心配しているかと言ったらそうでもないし、むしろ面白がっているスタンスなので、本当に真面目にやっている人からは怒られたり、不謹慎と言われたりもするわけですよ。

 

それはもっともなんだけど、仲間になろうとする立場でその世界の人たちに会えば、絶対に分かってもらえる確信がある。県庁に行って「長野の森が大変なことになっていますね」とインタビューをしただけじゃ、猟師に会っても本当のことを喋ってくれないと思う。

 

鉄砲一発撃ったことのある奴と、打ってない奴との違いというか、どこかで苦労して体験をした方が、取材はもちろん、胸を開いた人間関係になりやすい。それが基本的な考え方ですね。

 

猟師になりたい!(信濃毎日新聞社)

猟師や狩猟はもちろん、アウトドアにもほとんど縁のなかった著者が、突然猟師になることを宣言―。狩猟免許や銃砲所持許可を取るまでの戸惑い、初めて持つ銃の重さ、家族の反応、出猟できずに途方に暮れる感じ、さらには先輩猟師との違い、山や川を見る目の変化……など、猟師1年目の出来事を詳細につづった体験レポート。

 

― 北尾さんのように、自分のスタイルを見つけるということは、ライターにとってやはり重要ですか?

 

何でも器用にこなせるってことは、ライターとして中堅くらいになってくると、弱点にしかならない。でもスタイルがあれば、できることは少なくても、「これをやらせるとあいつは良いものを書く!」ってなりますから。作家性とかいうほど大げさなものじゃなく、型みたいなもの。

 

それを見つけるには、やりたいことを絞り込んで決めるのが良いよ、と若い人に言うことがあるんだけど、でもそれが無理だってことも分かるのよ。二十代の頃は自分も無理だったから。ただ、そこを探す意識があれば、見つかる人は見つかるはずなので。

 

― どのようなやり方で見つければ良いでしょう?

 

例えば旅について書きたい人が、海外に行っていろんな体験をしたとしても、似たようなものはすでに書かれているし、それはもっとすごい体験である可能性が高い。それに著者がまだ無名であれば、知りたがる人はいない。

 

だから「旅について書きたい」をゴールにしちゃうと、一冊の本を書くことはできても、その後が辛くなるよね。したいことをゴールじゃなくて、スタートにして何か一つ書くことによって、分かってくることがあるから、そこで変化していけばいいんだよ。変わっていくってことは恥ずかしいことではないし、年を取るごとに変わっていける方が僕は好きなんだよね。

 

書き方とかスタイルとか、そういうのはある程度やっていくうちに、自分の好みっていうか、しっくりくるやり方が見つかると思う。それが分かったときが本当のスタートライン。たどり着くまでに色々失敗したり、冷や汗かいたり、叱られたりするだろうけど、その経験は本当に後で役に立つんだよね。遅咲きになったとしても、栄養分をたくさん吸収した樹木のように、ワッと成長するよ。(取材・文 コエヌマカズユキ)

 

その3へ続く。 

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