※前編はコチラ
こみ上げる怒りとどう向き合うか
――お二人が言うように、コロナは生活様式の変化だけでなく、人の見えなかった部分も浮き彫りにした気がします。
北大路
自粛って自分で慎むということだからね。自粛しろってどんな言いぐさだよと思う。もうまともに人間関係を築けない。本当にしらけるよ。
成宮
確かに、「この人、他人に対してこんな言い方をする人だったのか」って浮き彫りになることは多かったです。
北大路
政府も無能すぎるよ。東京都なんか、いろはかるたで「手を洗いましょう」とかやってるし、バカにしてるだろって思うよね。
成宮
都民を3歳くらいだと思っているんでしょうね(苦笑)。
北大路
怒りを通り越して悲しくなる。次から次にああいう愚策を連発されると、こっちの心も死んでくるよね。だから、諦めないで怒り続けるっていうのが大事かもしれない。こないだラジオに出たとき、小池百合子の悪口言ったらカットされたけど(笑)。
成宮
同じ理由で、私は、感情的すぎない怒りを燃やし続けるっていうのを意識しているんです。一気に限界まで怒ると、また次にかるたみたいなのを出されたときに、「うわー……もう何を言っても無駄だ!」って消耗するじゃないですか。
北大路
でも、小出しにするのって意外と難しいから、できなくて全部抱えちゃってる人の方が多いかもしれない。それが自分に向いちゃうと、爆発しちゃったり、最悪の形になったり。僕はコロナ禍でスキンヘッドにしたんだけど、ちっちゃな抵抗というか、モジモジして何かやらなきゃって思ったんだよね。自分で自分を変化させていかないと、辛くなるよね。
表現者としてできる役割
――おふたりは表現者として、この状況でできることや、どんな役割があると思いますか?
成宮
私は、淡々と続けることしかできないなと思っています。いくらショッキングな出来事があっても、人って忘れてしまうじゃないですか。詩集『伝説にならないで』は、「伝説になりたい」って死を選んでしまった女の子について書いたんです。その子のことをできるだけ忘れたくないけれど人は忘れる生き物だし、私だって伝説になりたい気持ちはゼロではないし。
でも、感情を持ちすぎてしまうと、(危うい方に)引っ張られる可能性があるから、自分にも他人にも淡々と言い続けるしかない。私たちにできることって、死んだ人のことだけを一生考え続けるのではなくて、今生きている人たちに何ができるかを考えることですから。
北大路
そのうちみんな死ぬんだから、慌てることない。宇宙から見れば100年も10年も一緒で変わりはないよ。
成宮
それは、すごく救いですよね! 誰もが等しく死ぬって思えれば。
北大路
僕の一つの役目は、「ある程度ルーズでもいいんじゃない」ってメッセージを出すことかな。マスクも、どうしてもしなければいけない場面だけつければいいと思う。電車に乗っているときだって、喋らなきゃいいんだから。黙ってるなら、マスクをしてもしなくても一緒だと思う。最近身内の納骨があったんだけど、お坊さんがマスクしたままお経を唱えていた。マスクのままでホントにご利益あるのかしら(笑)。
僕ら表現者は、自分のルールで生きるのが矜持というかさ、道徳的なことばかりしてもしょうがないじゃん。わざと悪ノリしたり、勧めたりするわけじゃないけど、ゆるさがあってもいいんじゃない、ってことだけうまく伝えられればいいね。
成宮
私も緊急事態宣言のときに鬱になりましたけど、歌舞伎町にいると途端にメンタルが落ち着くんです(笑)。私が落ち込んでいようが元気だろうが、ホストトラックはめちゃくちゃキラキラした曲を流して道路を走っていて、もう落ち込んでる場合じゃないやって(笑)。
でも、難しいですよね。車椅子に乗ってる障がい者の方が、喫煙をしていると、「障がい者は煙草なんか吸うな、つつましくしろ」って文句を言うタイプの人っているじゃないですか。それと同じだと思うんですけど、「作品をつくる人は繊細でいろ」「鬱の人は怒ったりするな」みたいなイメージを持たれていると感じることがあります。こっちは気に入らなかったらちゃんと怒るのに、それで想像と違うって言われても……。
北大路
こないだ、障がい者を集めた討論会みたいなテレビ番組に出たんだ。出演者の視覚障がい者の人が、「かわいそうって心配されて、べたべたされるのが一番嫌」って言ってて。本人は普通に暮らしていても、障がい者っていうフィルターを通して見られちゃうんだよね。つまり、みんなおせっかいなんだ、親切とおせっかいを取り違えている。
成宮
正義感の押し付けですよね。自分が正義じゃないと気が済まない人たちも、裏ではきっと約束とかいっぱい破ってるのに。
来年はイメチェンしたい
――改めて、今年一年の振り返りと、来年したいことをお聞かせください。
北大路
今年は行事がないから、季節を感じなかったな。コロナが広まり始めたころ、公園で花見をやってたら、僕が座ってるベンチに職員の人が来て、「座るな」みたいなシールを貼ろうとするんだよ。先に座ってるんだからって、意地でどかなかったけどね(笑)。
それが最初で、夏に海に行っても海の家がないし、秋もお祭りがない。暑いとか寒いとかしかわからないから、気持ちの区切りがないよね。ずるずると日常があるだけで、今年は何もなかったみたいな感じがする。
成宮
心は4月のままだから、(対談を行った12月中旬時点で)今年は残り二週間とか言われても、「私まだ4月なんだけど」って気持ちです。
北大路
そうだよね。来年やりたいことは、イメチェンをしていきたいな。『加藤楸邨の百句』はNHKが取り上げてくれて、結構売れたんだ。割と真面目に書いたから、「北大路、やればできるじゃないか」って思ってもらえたかなと。
僕、これまでテレビ出演も深夜番組ばっかりだから、イメチェンして昼にも出られるようになりたい。アウトローと思われるのはうれしいけど、自分からアウトローですと名乗るのも変な話ですから。
成宮
私も似たことをちょうど考えています。これまでのライブは、「みんな、死ぬな!」って拳を突き上げる感じだったんです。でもそれだと、生きづらさを抱えているピンポイントの人には届くけれど、グレーゾーンの人には届きにくいと思って。
なので『伝説にならないで』の朗読CDは、極力自分の意思を入れない作品にしたんです。エンジニアの方に、「私の思いが薄まったとしても、射程範囲が広まるようにしてください」って依頼しました。私も朗読のイメチェンしたい!
北大路
あとは、コロナが落ち着いたら、全国を回りたいな。僕、ネットで知り合った人たちがいろんな地方にいて、「屍派〇〇支部」みたいに遊んでくれている。今まではたまに行ってイベントしてたんだけど、この状況でできなくなっちゃったから、行けるようになったらまた旅したいね。アゴアシだけもらえれば、いつでも行くから呼んでほしいな。
成宮
直接行くのはいいですよね。夏に(大阪の)釜ヶ崎で開かれるイベントにいつも出してもらっていたんですけど、今年はコロナで関西の人しか出演できないことになっちゃったんです。自分の中でめちゃくちゃ楽しみな毎年のイベントだったのに、出られなくなってしまったから、早く行きたいです。釜ヶ崎に帰りたい。あと北大路さんとも、来年ぜひ一緒にイベントやりたいです!
北大路
いいね。SMショーでもやろうか? 「死ぬな!」って言われながら俺が叩かれるっていう。
成宮
そっちですか!? 勉強しておきます(笑)。
(取材・文 月に吠える通信編集部 取材協力・砂の城)