「そのまんまの美しさ」を届ける植物図鑑『微花』—後編—

 

植物図鑑という業界にシンプルさを問いかける『微花』

 

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アヤコ:『微花』って「シンプル」の代名詞のように感じるんですよ。写真もあまり編集していないし、他の図鑑と違って情報量も少ないでしょう? 必要最低限のものしか持ち合わせていないというイメージを抱きます。

 

そしてそれは『微花』を作っている二人にも当てはまるような気がします。今の石躍さんからは出会った当時になかった身軽さを感じます。一方で西田さんも色々(※)経て、今のシンプルさを身につけています。どうして二人はシンプルに行き着いたんですか?

※西田さんはかつてB系やギャル男だったのです!!

 

石躍:大量の情報をのせている植物図鑑を見にくく感じて微花作りをしているので、僕らの生活がシンプルというわけじゃないですよ(笑)。そして、ただシンプルがいいと思っているわけでもないかなあ。

 

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西田:そう言う石躍に、「もっとギャル男とかしてみなさいよ」って僕は思っちゃう(笑)。 B系からギャル男までやった僕は27にして今のシンプルに行き着きました。行き着いたというより、身の丈に合うよう色々削っていったらシンプルになった、というのが正しいかもしれないです。人間も写真も植物も、詰め込みすぎはダメだと僕は思っています。

 

アヤコ:その考えは『微花』にたくさん反映されているように感じます。「詰め込み」よりも「余白」にこだわっている感じがしますもん。

 

西田:まさに! だから微花ではレイアウトにとてもこだわっています。手を加えることで劣化したものが多い世の中だから、余白を大切にしたり写真の加工をあまりしていないんです。そしてそれは手を加えない美しさになるんです。

 

「いいものをそのまんま」という意識です。それが結果的にシンプルになるのかと。普段目にするよりも鮮やかにすることはしていません。本来の植物の美しさを邪魔したくないですから。

 

石躍:そう思うと、植物図鑑の業界でどうして今までシンプルなものがなかったのか不思議ですよね。今、沢山の業界でシンプルの波が来ているにもかかわらず、なお植物図鑑にはなかった。たぶん、僕らがはじめてシンプルな植物図鑑をつくったと思うんです。

 

西田: 植物図鑑以外にも、人の手を介入させることで見にくくなっているものは数多くありますよね。そこに僕は、「人の手を介入させること」=「ものづくり」とする風潮の根強さを感じます。 だから自分らしさをなにかと入れたがる人が多いのではないでしょうか。

 

例えばInstagramとかTwitterでは、写真にポエムを入れている人をよく見ます。この対象物をこういう感情でみたということを知ってほしいからポエムを入れるんです。自分らしさの介入ですよね。でもたまにポエムが合っていなくて、「写真だけで見たかったわあ」と思うときがあるんです。そういう瞬間を微花では生みたくありませんでした。

 

アヤコ:シンプルなものを生み出して気づいたことなどありますか?

 

西田:微花を手に取ってくださった方から、「なんか物足りないね。」と感想をいただくこともあります。「余白しかないから、なんかしたら?」と。でもいらないことをしていないだけで、要る事についてはめちゃめちゃしているんです。どの幅の余白が気持ちいいのかとか、どのサイズでこの写真を載せようかとか。

 

でも要る事は目に見えにくいがために、僕らは「なにもしていない」ように思われるんです。微花をつくって、シンプルこそ難しいものはないってことに初めて気づきました、削ぎ落とす事に妙があるんだって。

 

微花はあなたの世界の「そうであること」を細かくします。

 

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アヤコ:わたしね、微花と出会ってから周りの景色や匂い、音などに前より敏感になりました。感覚を研ぎ澄ますようになったんです。そうしたら、いつも通っている道でも新しい道を歩いているような心持ちになりました。

 

西田:そう言ってくれるとうれしいなあ。哲学者のウィトゲンシュタインが「世界は、そうであることのすべてである」と言っています。自分が「そうである」と思わないと「そう」にならない。認識して初めて自分の世界の中に入ってくる。つまりは、自分の世界には自分の言葉で言い表せるものしか存在しないんです。

 

石躍:きっとアバウトだったものが細かくなっているんでしょうね。今まで「草!」「花!」「木!」「植物!」って言っていたものが「ヤブガラシ」、「サルスベリ」、「コエビソウ」ってどんどん細かくなっていきます。知ることによって、自分の中でやっとその花が咲くんです。

 

西田:こんな風に細かくなっていくと、もうまっすぐ近所を歩けないですよ。僕なんて徘徊者状態ですもん(笑)。

 

石躍:微花を読むことはきっと自分の世界の「そう」を細かくすることだと思います。今はまだ、花と親しくなることは贅沢なイメージを持つ方がいるかもしれません。でも花は花屋にあるようなものがすべてじゃないです。道にあるものも花です。だからこそもっと色んな人の中でその花が咲いてほしいと思います。こんなにも楽しいことないですから。

 

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微花な2人へのインタビュー、いかがでしたでしょうか。素敵だと思った方もいれば、シンプルすぎてさみしいと思われた方もいるのかもしれません。私は数年前から2人を知っているためか、彼らの話を聞いて「羨ましい、悔しい」と思いました。彼らは私よりも敏感に季節の変化を感じ取っているだけではなく、その季節を思う存分楽しんでいるからです。

 

日頃、スマホばかりを見て街を歩いている方。たまには視線を地表30㎝に下げてみませんか。そこには今まで見たこともないような花が咲いているのかもしれません。もしかしたら、その花を発見したことで、その季節がより大好きになるのかもしれません。あなたの中で咲こうとしている花が今もまた蕾をふくらませています。

 

そして『微花-秋号-』、絶賛発売中です。ぜひ手にとって中身を覗いてみてください。(取材・文 サカモトアヤコ)

 

※この記事に掲載している微花の写真には、あえて名前を掲載していません。気になった植物の写真があれば、ぜひ微花を手に取り、植物の名前を探してみてください。

 

—『微花』情報−

 

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値段:500円(税抜き)
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