『微花』ができるまでのストーリー
アヤコ:『微花』を知る前に、2人について教えてください。私の中で2人はいつも仲良く一緒にいるイメージなのですが、出会ったきっかけを教えてもらっていいですか?
西田:Facebook! と言っても、もともと友達ではなかったけれど。数年前、こいつが「カフェやりたいです!」という投稿をしたんです。そしたら僕の友達が「いいね!」をしたことで、僕のタイムラインに「◯◯さんがいいねしました」って石躍の投稿が現れてきたんです。そのときべろんべろんに酔っていた僕は、「面白い奴やなあ」って思って応援のメッセージを勢いで送っていました。それがきっかけですね。
アヤコ:西田さんが酔っていなかったら、2人は一緒にいなかったと思うと感慨深いですね(笑)。カフェを作りたいと言っていたのに、どうして『微花』という植物図鑑をつくる運びになったのでしょうか。
石躍:きっかけはお互いにあるのですが、僕は15年間通っている並木道に突き動かされました。その並木道は5月になるとハナミズキで真っ赤になるんです。でも僕は、小学校1年から15年間も通っているくせに、真っ赤になることを知らなかった。気に留めなかった、が正確かもしれないです。
それがふとしたとき、今までただの背景だったものが、突然、眼前に咲いたんです。もっと言えば、咲かれてしまった、という衝撃を感じたんです。ハナミズキに気づいただけなのに心が揺れました。ほんまに綺麗やったんです。人間って無意識にいろんな情報を削除するっていうじゃないですか。それをハナミズキの道で痛感しました。「人間ってこんなにも曖昧な感覚で生きてんねや」って思いましたね。
それと同時に、ハナミズキが自分の中で咲いた瞬間の心地よさが忘れられなくて、もっと花のことを知りたいと思い、微花を作りました。
西田:僕は別に植物図鑑を作りたいとか思ってなかったし、もちろん植物への想いも全くありませんでした。部屋に植物があったら爽やかでいいよねって思ってた程度。でも、ただ僕は凌摩の願望を形にしたかったんです。こいつってね、自分の願望を形にしたことないんですよ、結局カフェも形にならんかったし。
だから、こいつにものづくりをおもろいと思ってほしかったんです。こいつの願望が形になって、それを世間の人が見てくれて、さらに作りたいという連鎖を生み出したいと思いました。そのために僕ができることはなんだろうって思ったとき、自分にはデザインがあったので微花作りを手伝い始めました。
アヤコ:『微花』を作ろうとしたきっかけは、かなり異なったんですね。西田さんが石躍さんに乗った感じがします。作成中の苦労はなかったんですか?
西田:最初、僕は言われたままやっていた感じなので特に苦労はないです(笑)。こいつがつくった文を読んでから、それに似合うフォントを選ぶんですけど、何度か読んでいると文を覚えるんですよ。覚えたら、こいつの言葉がいつの間にか自分の言葉になるんです。だからお互いの考えがズレることもありませんでした。
石躍:デザイナーってクライアントの思いを汲み取る能力が不可欠。西田さんはデザインだけで食っていけるようなデザイナーではないけれど、一番に僕の言葉を理解してくれるんですよ。だからとてもありがたかったです。
コンセプトはお漏らし?思いが有り余ってできちゃったのが『微花』なんです。
アヤコ:そんな2人がつくった『微花』のコンセプトを教えてください。
西田:え、なんだろう。コンセプトとか無くない?(笑)
石躍:え、ない(笑)。
アヤコ:えええ!(困惑)
石躍:微花は植物にアンテナが立ち始めてから作り始めましたが、微花を作ろうと思って写真を撮っているわけじゃないんです。散歩のついでに植物の写真を撮ったら、お気に入りが撮れてもうたー! みたいなノリ。普段から、どうしても書きたかったもので、撮りたかったもので、微花は溢れているんです。
西田:お漏らし、みたいなもんやな。お漏らしって我慢しても、しちゃうじゃないですか。しようと思ってするもんじゃない。
アヤコ:お漏らし以外の言葉で表現してくださると助かります。(赤面)
石躍:いわば日記ですかね。日記にはコンセプトがないでしょ? だからコンセプトを聞かれても困るんです。コンセプト考えて微花を作りに行ったんじゃなくて、僕たちの日常が積もりつもって微花ができたんです。強いて言うなら、「生きた結果」という感じかな。コンセプトよりも「僕たち、生きてます」っていうメッセージが微花にはあるんです。
西田:確かに。僕たちは季節を彩る花を見て「ああ、夏が終わるなあ。」「秋が来るなあ」と思いながら生きています。その上、綺麗な花を見たら、「なんて名前なんやろ?」ってどんどん知りたくなる。その瞬間を微花は集めたんです。
『微花』な2人のモチベーション=アンチ植物図鑑
アヤコ:目にしたものを伝えるのに、なぜ写真集ではなく植物図鑑という形を選んだんですか?
西田:ああー、別にこれを図鑑ではなく写真集としてとらえてくれても大丈夫ですよ(笑)。
アヤコ:自由すぎます!(笑)。「微花とは図鑑です」と毎号の冒頭に記載されているから、写真集として見てはいけないのかと。
石躍:いやいや、僕たちはそんな厳しくないですよ(笑)。1番は図鑑なんですが、写真集と思わせるところも僕たちは狙っているので。図鑑って載っている情報がお固い上にとっても分厚くて、日常生活の中で読むことが少ないですよね。
本屋で微花を見つけた時、「ああ、いい写真集やな」って手にとって、中身を見てもらったら「あ、図鑑なんや」って気づく。それから植物をまじまじと見て「へえ、この花はユキヤナギっていうんや」という動線があったらおもろいなと思って作ったんです。
西田:既存の図鑑って今までデザインが立ち入ってなかった領域だと思うんです。僕たちはある意味で、アンチ植物図鑑なんですよ。今は調べたいものの名前を検索欄に打ち込めば、いくらでも情報が入ってくる時代。なのに既存の植物図鑑は情報をたくさん入れたがりますよね。ここに時代との齟齬があるように思います。
「ポケット植物図鑑」とか言っているけれど、全然ポケットに入らないようなやつあるでしょ?あれを見るたびに、「どんなサイズのポケットやねん!」と僕はツッコミたくなっちゃいます。笑 だから僕たちは逆に削ぎ落とすことに賭けた植物図鑑を作ることにしました。植物と仲良くなりたいと思うひとにとって、「はじめての図鑑」を僕たちは作りたいと思うんです。だからこそ、微花をきっかけに植物に興味が出たら、既存の植物図鑑を手に取ってほしいですね。
石躍:でも削った結果、他の植物図鑑と分担ができたのでとても良かったと思います。僕たちが写真にこだわる分、情報は頼んだよって。
西田:そんな感じなので、自分が買った「微花」を写真集とも植物図鑑とも、好き勝手に判断していいと思いますよ。僕らにとっても「微花をそう捉えるんや!」って新しい発見がありますもん。あ、このあいだ読者さんのツイート見てたら、微花を花代わりに活けておられる方を発見したんですよ!! すごく驚きましたね、「そうきたか!」と(笑)。
アヤコ:『微花』を花代わりに活けたいと思っちゃうほど、写真のこだわりがすごいですよね。多くの読者をときめかす「微花流! 写真の撮り方」みたいなものはあるんですか?
西田:とにかくダサい格好して撮った写真ほどいい写真だなと思いますよ。こんなんとか。
アヤコ:(爆笑)
石躍:既存の図鑑に載っている花って、証明写真みたいじゃないですか? 僕らが普段目にする花って、雨で濡れていたり、枯れていたりするのに、図鑑に載っているのはよそ行きの顔した花ばかり。だからこそ微花では、僕らの生活の中で見たものをそのまま撮るよう心がけています。
西田:既存の植物図鑑の花は就活生みたい。よく見せようと頑張っている感じがひしひしと伝わる。でも僕らの撮るのは地表30センチのストリートスナップなんですよ。いいところも欠けているところもそのまま伝える。それが微花流です。
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前編はここまで。続きは後編で!
長くなってきたので、続きは後編でお楽しみください。後編では、微花な2人の植物に対する思いをぎゅぎゅっと詰め込んでおります。また、『微花』が気になったあなたは、公式Twitterで設置書店を要チェック! 春号はだんだんと品薄状態になっているのだとか。お早めに。そして今月に発売された出来立てホヤホヤの『微花−秋号−』をぜひ手に入れてくださいね。
※この記事に掲載している微花の写真には、あえて名前を掲載していません。気になった植物の写真があったら、ぜひ微花を手に取り、植物の名前を探してみてください。(取材・文 サカモトアヤコ)
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