好きなものをつくるのが一番いい
―今回、角川短歌賞を受賞し、古くから短歌を詠まれている、いわば権威ある方々に認められたことになりますが、賞に出そうと思われたのはなぜですか?
「かばん」で作品を発表したり編集長をしたりするなかで、そろそろ新人賞にチャレンジしたいと思ったんです。早稲田に行く前に美大で映像の勉強をしていたんですけど、そのときの経験をもとにした『春の印画紙』という連作を、まず「短歌研究新人賞」という新人賞に応募しました。
初応募だったんですけど、最終選考に残って、選考委員の栗木京子さんと加藤治郎さんが上位に推してくれた。「これはいけるのでは?」と思って、その次の年も応募したら、また最終選考に残って……そのあとも2回ほど応募したんですけど、受賞はできなかった。
―それはもどかしかったでしょうね……。
それで、しばらく新人賞への応募は休もうかなと思ったんですよ。でもそのとき、長い間温めていた、天体をテーマにした『冬の星図』という連作を、新人賞の中では最難関であるといわれている角川短歌賞に、ダメ元で応募したんです。思いっきり好きなテーマで作ってみようと、それでダメだったらもう休もうと。
そしたら、受賞できた。けっこう温めていた作品ではありましたが、なにしろ難関なので、受賞できるかなとはあまり思わなかったんですが……。
結局、自分の好きなものを作るのが一番いいのかな。新人賞にも「傾向と対策」とかありますけど、そういうのに合わせるよりも、好きなものを出すほうが大事かなと。それでダメだったら、諦めがつくじゃないですか。
―受賞の前後で、ご自身の心境の変化や周りの変化はありましたか?
すごくありましたね。大げさですけど、歌壇をしょっていかないといけないな、という意識を持ちました。それだけ意味のある賞なので。
それで『角川短歌』や朝日新聞などから短歌やエッセイ等の寄稿の依頼がくるようになって……商業誌で書けるようになった、っていうのは大きかったですね。受賞者として恥ずかしい作品は出したくないじゃないですか。そこの心境の変化は大きいと思います。
―現在、社会人としてお仕事もされながら、歌人として活動しておられますが、兼業をしていることで影響はありますか?
時間の制約があることですね。いい影響は、〆切に対して集中力を持って取り組めること。反面、悪い影響もあります。「詩」って、無駄な時間がすごく大事だと思うんですよ。そこからもやもやしたものが生まれて、最終的に詩になる。そういう時間が持ちづらい。
―短歌賞の選考の基準とはどういうものだと思われますか?
「自分の文体を持っているかどうか」、ではないでしょうか。技術っていうのはあとからついてくるので、その人が持ってる感覚とか、そういうものが大事。ただ、短歌っていうのは定型詩で、伝統がある。そのなかで、自分の感覚を伝えるための技術っていうのはすごく大事なので、そのバランスですかね。
歌舞伎でも、基本を知らないことを「形無し」って言うじゃないですか。短歌も基本を知らないで書くとそうなっちゃうから、メッセージを伝えるための技術は必要だと思いますよ。
―ありがとうございました。最後に短歌を詠む人に向けて、メッセージをお願いします。
最近の歌人ばかりでなく、いろんな昔の歌人の方の作品も読むといいですよ。そこから学ぶことも多いと思うので。そして、とにかく短歌を続けてください。一緒に盛り上げていきましょう!(取材・文 三七十)