【1/3】サブカル好きの現代歌人!?伊波真人さん「短歌をエンターテインメントのひとつに」

1
中野ブロードウェイの古本屋にて

 

 

“夜の底映したような静けさをたたえて冬のプールは眠る”
―「冬の星図」より

 

今、若者の間で「短歌」ブームが起きている。“年配の人がやる渋いもの”と思われがちな短歌だが、若手歌人が活躍し、ニコニコ動画で大学生たちによる「歌合せ」が実況中継されるなど、新たな賑わいを見せている。

 

二〇一三年秋、短歌新人賞の中では最難関といわれる第五十九回角川短歌賞を「冬の星図」で受賞した現代歌人・伊波真人さんは、短歌をもっと身近で気軽なものにしたい、と語る。

 

音楽、映像などが大好きで、ラジオ番組への出演や、下北沢B&Bにてサブカルと短歌をテーマにしたトークショーを行うなど、“サブカル好き歌人”としても認知されている伊波さん。短歌界のこと、受賞作のこと、音楽・映像やなぜか“郊外”について――などなど、あらゆる角度からお話を伺った。

 

sponsored link

 

短歌=作詞!?

 

―はじめに、短歌を始めたきっかけを教えてください。

 

もともと音楽が大好きで、作詞に興味があったんです。同時に少女漫画も好きで……彬聖子(あきら・しょうこ)さんという方の『こいのうた』という作品を読んだら、穂村弘さんの短歌(※)が引用されていまして。それまで、短歌といえば年配の方がやっていて、「~なりけり」みたいな難しいイメージだったんですが、そこに引用されていた歌はとても親しみやすい感じがしたんです。

 

短歌にはメロディがあるんですよ。短歌のもつ“韻律”って、メロディだと思っていて。それってすごい作詞に近いじゃないですか。“韻律”の要素は詩とか俳句にもあると思うんですけど、短歌が一番強いですよね。それで、短歌なら作詞に近いことができるのではと思って、作り始めたのがきっかけですね。

※“「フレミングの左手の法則憶えてる?」「キスする前にまず手を握れ」”
――穂村弘「夏時間」(『ドライ ドライ アイス』)より 等

 

 

―それはいつのことですか?

 

大学二年生のときですね。早稲田大学の文学部に通っていたんですけど、短歌の実作の講義があることを知りまして、受講しました。そこで短歌を作りはじめたら、作っているうちにどんどん面白くなってきまして。

 

その年の学園祭で会場内をふらふらしていたら、早稲田短歌会の人がたまたま展示をしていて。その場でお誘い頂いて、入会しました。

 

 

―仲間の中で短歌を作るようになって、影響を与え合ったりとか……

 

影響としては、「かばん(※)」の存在が大きいですね。その頃、歌を作っても発表場所がないのでmixiに載せていたら、穂村弘さんも所属する「かばん」の佐藤弓生さんが見てくれて、「面白いから、かばんの歌会に来ませんか?」と誘ってくれたんです。それをきっかけに「かばん」に入りました。

※歌人集団かばんの会。1984年4月に創刊された歌誌の名称でもある

 

 

―他の人の歌を聞いてみて、感じたことはありますか?

 

いろんなやり方があるんだな、ってことに気づきましたね。一番最初に知ったのが穂村弘さんだったので、それがスタンダードだと思っていたんですけど、「かばん」に入ってみたら、みんなばらばらなんです(笑) いろんな作風がある。そのなかで自分の作風をいつか確立できたら面白いな、と思いました。

 

 

―歌詞を黙読するのと、歌を聴くのでは感じ方が違うように、短歌もまた声にのせるとちがった印象になりますよね。朗読したことはありますか? 

 

ありますよ。中でも面白かったのは、「マジックスパイス」という飲食店で行われたイベント。僕、音楽がすごく好きで、AORやシティポップというジャンルが好きなんですが、一十三十一さんの曲をBGMに、シティポップを題材にした短歌を朗読するっていう。

 

 

―短歌×音楽など、ジャンルを横断する発表の仕方をけっこうされているんですね。

 

そうですね。たぶん、音楽を題材にした短歌の朗読なんていうことを やっているのは僕ぐらいじゃないかな(笑)


意外な接続――「美」と「笑い」の共通点

 

2
音楽好きの伊波さん、時間を忘れてCDを物色。

 

―音楽が大好きとのことですが、好きなアーティストは? また、短歌への影響などはあるのでしょうか。

 

一番好きな日本のミュージシャンはキリンジですね。あと、坂本真綾さんやHARCOさんが大好きです。Steely Dan等の海外のミュージシャンもよく聴きますね。短歌への影響は、すごく大きいと思います。白状すると、元々キリンジの歌詞のような世界観を作りたくて、短歌を始めたんですよ。

 

現在はちょっと変わってきてはいるんですけど、そこで初期に受けた影響は大きいです。短歌の韻律にどういった言葉をのせたら気持ちいいか、っていうのも、歌詞から学んだ部分が大きいですね。

 

 

―映像もお好きとのことですが、影響を受けた作品は?

 

岩井俊二監督の作品です。文学的で抒情的。彼だけの表現を持っていて。十代のときとか、すごく影響されましたね。

 

あと、ジム・ジャームッシュ監督の『ナイト・オン・ザ・プラネット』、ビクトル・エリセ監督の作品など…洋邦問わず見ます。もともと、美大の映像科にいたぐらいなので、僕の原点は映像だと思います。
普段は短歌以外に、映像、写真やデザインの仕事もやっています。「映像」と「言葉」っていう、二本柱。最近は言葉に寄ってますが。角川短歌賞の受賞直後なので、今は特に言葉に注力する時期ですが、一生両方続けていくと思います。

 

 

―深夜ラジオもお好きだとか……

 

「伊集院光の深夜の馬鹿力」とか、聞きます。はがき職人してました(笑)。 深夜ラジオの基本って、「笑い」ですよね。芸人さんがやってるものが多かったり、「笑い」っていうのが土壌としてある。「笑い」って“共感”ですよね。短歌も“共感”っていうのが大事な要素かなと思っていて。

 

僕は短歌を詠むとき、「美」という感覚を大事にしているんですが、「美」と「笑い」って実は近いんじゃないかと思います。全く遠いもののように思えるけど、人の心を動かす、“共感”という意味で、根本は近いんじゃないかと。ラジオは好きなので、機会があれば、もっと出たいですね。

 

短歌がもつ「想像の余地」

 

―映像や写真のように、風景をそのまま写し取るような方法ではなく、短歌という言葉を通して表現する方法をとられたのはなぜでしょうか。

 

映像的な感覚が僕のコアだと思うんですが、作詞に興味があったこともあって、言語表現にも興味があったんです。言語と映像の表現と両立させようとしたときに、短歌がしっくりきたってところですね。

 

 

―映像と短歌では、どのような違いが生まれると思いますか?

 

映像だと、すべて表現できますよね。たとえば、「朝、道を歩いていたら電線が光ってる」とか、すごく細かいディティールまで描ける。

 

言語化するっていうのは、“そのなかでどれをつかみとるか”ってこと、つまり抽象化するってことだと思います。そこに、読者の想像の余地が入り込みますよね。その面白さは、短歌が強いんじゃないかと思います。

 

 

―歌に想像の余地をもたせることで幅広い解釈が可能になる一方で、作者が伝えたい思いが届かなくなる可能性もあると思います。そのような問題とは、どのように向き合っていますか?

 

いま、若手歌人って、すごくわかりにくい歌をつくる人が多いと言われているんですよ。そのなかでも、僕はわかりやすさというものを心がけています。歌が未完成のまま読者に投げるっていうのと、想像の余地を残すっていうのは、違う問題だと思うので。僕は「一度研ぎ澄ましてから見せる」ってことをかなり意識してます。(取材・文 三七十)

 

次回に続く