生け花体験に行ったら楽しすぎた! 若き次期家元はあの探偵小説のモデル

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「生け花を体験してみませんか?」

 

コエヌマ編集長からの突然のネタ振り。生け花? あの、和服を着て畳の上で気難しい顔をしながら花を剣山に刺して飾る、あの、生け花? そもそもこのWEBマガジン、本に関する記事を発信するものではなかったのか? 生け花と本、なんの関係が??

 

そんな疑念やガッチガチの固定観念を引っさげながらも、日本の伝統芸の世界に深く興味を持った筆者は、北海道から東京の学芸大学駅前へ降り立った(もちろん編集長は交通費など出してくれないので、参加予定だった学会の日程に合わせて上京)。

 

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雪舟流の次期家元・増野光晴さんはすごい人!

 

今回お邪魔したのは、学芸大学駅からほど近い「いけばな雪舟流」の目黒本部教室。指導してくださったのは、いけばな雪舟流の次期家元である増野光晴さん(31歳)だ。

 

増野さんは生け花教室で生徒指導をしているほか、記者会見や舞台で飾る花の制作、展覧会への出展など幅広く活躍中。日本テレビ「ヒルナンデス!」の大人のシュミ活コーナーに出演し、芸能人たちに生け花を教えたこともある、若くて才能ある方だ。

 

そして青春ミステリー「家元探偵マスノくんー県立桜花高校☆ぼっち部(著・笹生陽子)」の、主人公マスノくんのモデルとなった人物でもある。

 

高校での輝かしい青春を夢に描いていたチナツは、ひょんなことから「ぼっち部」に入部することに。メンバーは、部長であり次期華道家元のマスノくんをはじめ、学校の変わり者たち。

コミュニティ理念は「孤独に負けない強い心」で、NGワードは「一致団結」と「和気あいあい」。そんなぼっち部のもとに舞い込む数々の謎に、マスノくんと個性的なメンバーが挑む。

 

なるほど、「まったく本と関係ないじゃないか」と思っていたが、こんなところで関係していたのか。

 

「北海道からわざわざ来てくれたんですねー、ありがとうございます」

 

本の表紙のイラストそっくりのマスノくん、いや、増野さんが、さわやかな笑顔で出迎えてくれた。いよいよ生け花体験のスタート!

 

初心者でも安心! いけばなには型がある

 

「じゃあまず、使うお花を選びましょうか」

 

増野さんが今回用意してくださった花は、赤の鶏頭(ケイトウ ※ヒユ科の一年草。花の上部が鶏のとさかのように広がり、小さな花が密集しているのが特徴)をメインにしたものと、ピンクのバラをメインにしたものだ。

 

筆者は即座に鶏頭を選んだ。

 

編集長「なんで鶏頭にしたの?」

筆者「えー、なかなか見ないし、派手だから!」

 

滅多に目にしない鶏頭に筆者のテンションは若干上がっていた。増野さんの「それでは始めましょう」の声とともに、花を生ける器である「花器(かき)」の並ぶ棚へと促される。

 

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「花に合いそうなものを自由に選んでいいですよー」と、増野さんはニコニコ。 しかし花器は、50種類はある。「え、こんなにあるんですか!?」と若干引き気味の筆者。

 

そしてなにより、「花に合いそうなものってなんだ…?た、試されている……」

突然の試練である。

 

何がいいのかなんてわかるか!! えーい、直感じゃあ! と選んだ花器がこちら。

 

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選択理由、「黒色ならどんな色の花にでも合うと思った。あとなんか重厚感がある。以上」
初心者の直感なんてこんなものである。

 

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花器の中に剣山を設置し、水を流しいれると、いよいよ生け花をする実感が湧いてきた。しかし、何から始めればいいのだろう? どうしようどうしよう、とあたふたしていた筆者であったが、増野さんが「まずはこの図を参考にして進めていきましょう」と、植物の長さや配置などを分かりやすく指導してくれた。

 

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どこの流派も基礎的な型というものがあり、最初はその練習をしながら花の生け方を学んでいくとのこと。華道家は全て自らの感覚で花を生けているものと思っていたので、この図にはびっくりした。しかし、一つの指標があるのは素人にはとてもありがたい。

 

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「なんてとてもわかりやすいんだ!」と言いながら、全体の基盤となる最初の一本を生ける。

 

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……。

………。

固っ!!!!!

 

初めて花を剣山に刺してみてわかったのだが、しっかりとした茎のもの、柔かくて繊細な茎のもの、植物それぞれに特徴があり、その特徴をつかみながら力を加えるのが難しい。

 

「うわあー、刺さらねえ!」

「あ、やばい、折れそう」

 

などとブツブツ言いながら花を生けていく。

 

編集長はというと、「剣山、プロレスで凶器に使われてるんですよね。これはすごい威力ですよ」と、プロレス話に熱が入っていた。編集長、今はデスマッチじゃなくて生け花の時間です。

 

そんな編集長に「プロレスラーの方もいらっしゃたことあるんですよ(笑)」と優しく返す増野さん。相手にしなくていいのに、なんて人が良いんだ……。

 

そんなこんなで黙々と花を生けていく。

 

生け花は引き算の美学

 

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完成! と行きたいところだが、うーん、やればやるほど細かいところが気になってくる。どうしても隙間を埋めたくなってしまうのだ。

 

しかし増野さんいわく、空間を埋めるフラワーアレンジメントとは違って、生け花は“引き算の美学”。できるだけ少ない数の植物で、空間を作らなければならない。

 

「ここの花は、もう少し短くしてもいいかもしれません」

「後ろが少し寂しいので、ここの花をもう少しこちらへ寄せましょうか」

 

悩んでいる筆者を見て、増野さんはさりげなく救いの手を差し伸べてくれる。小説から印象を受けた、我が道を行くトンチンカンなキャラクターとはまるで違い、とても丁寧に教えてくれる。この時点ですっかり筆者は増野さんのファンになった。いけばな雪舟流には若い受講生が集まるらしいのだが、納得である。

 

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中腰になったり、遠くに花器を離したりしながら、植物の角度を調整すること1時間ちょっと。

 

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完成!!!

 

「うわああああああ!!! できたあああああああああ!!!!!!!」 と、テンション急上昇。花を生ける前は、まさかこんなにちゃんとした形になるとは思わなかった。歓喜の笑顔である。

 

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ピンクのバラの作品は編集長作。花を扱っている最中に茎を思いっきり折ってしまうというトラブルに見舞われながらの完成。剣山近くにある極端に短い黄色の花がそれである。

 

筆者と編集長の初の生け花、大成功。すっかり満足したところで、インタビューをさせていただいた。



 

生け花の魅力は、正解も失敗もないこと

 

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ーどういったきっかけで小説のキャラクターのモデルになったのですか?

 

僕は文学部出身なのですが、児童文学の講義にいらっしゃったのが(著者の)笹生先生なんです。講義の後に会う機会があって、そのときにネタとして取り上げられた感じですね。"家元探偵"って面白いんじゃないか、みたいに盛り上がって。もともと僕が推理小説好きなのもあったんですけど。

 

 

ー性格までモデルになったってわけじゃないんですね。小説のマスノくんみたいに、「我が道を行くトンチンカン少年」だったらどうしようって少しヒヤヒヤしてました(笑)

 

そうですね、あくまで"家元探偵"というジャンルのモデルになっています(笑)

 

 

ー推理小説がお好きということですが、どういった作家が好きなんですか?

 

泡坂妻夫さんの作品が一番好きで、小説も全部読みました。ああいう、ユーモアもあって、みたいな系統のミステリーが好きですね。

 

 

ー自分でも探偵のようなことをしたりとかは…

 

さすがにそれはないですけど、暗号が好きで、卒論も暗号をテーマにして…(笑)

 

 

ーえ〜!

 

知恵の輪とか数理的なパズルとか、そういったものをやる団体に入っていろいろやってました。

 

 

ーそういえば、生け花にもパズルの要素があるように感じたのですが、どうでしょうか。

 

そうですね、近いかもしれないです。最初にイメージした通りにいくことってほとんどなくて、「こう来たからここにいけよう」とか、「同じ花が並ばないように次はここに配置しよう、とか」。ある程度(完成形が)見えてはいますが、花を生けていく中で変わっていく、という感じですね。

 

 

ーずばり、生け花の魅力ってなんでしょう。

 

自由度がすごく高くて、正解も失敗もないことですね。生け花って花だけを使うイメージが強いと思うんですけど、実際にはあらゆるものが生け花にできるっていうのがあって、ワイヤーや布のようなものも使ったりします。型はありつつ、より現代的な方向に自由に自分の考えを出せることが面白いです。

 

 

ー増野さん自身の今後の目標はありますか?

 

生け花に今まで興味がなかった人にも「面白い」と思ってもらえるようにいろいろ活動できたらいいかな、って思ってます。それはうちの流派に限ったことではなく、生け花全体としてみなさんに感じてもらいたいですね。それから、舞台だったりドラマだったり、「こんなところでも生け花って使えるんだ」っていう、生け花の可能性を広げていきたいです。

 

 

―ありがとうございました!

 

総評

 

生け花を体験する前は、「なんかルールとかたくさんありそう」「変なことしたら扇で手を叩かれるのでは?」「そもそもちゃんと作品を完成させることができるのか?」という不安でいっぱいであった。しかし、体験中はただただ楽しく花を生けることができた。

 

それも増野さんの指導のおかげである。終始ニコニコしながら、それとなぁく筋道を示してくださる! 一から十まですべてを教えてくれるのではなく、あくまで悩んでいる時や横道に逸れそうになっている時に声をかけてくれるので、「自分でつくったぞ!」という自信にもなった。

 

いけばな雪舟流の教室では、30代の若い生徒さんが多いとのこと。昼間に開かれるコースのほかに、仕事帰りの生徒さんに向けた「ナイトクラス」があることが、若い人たちがいけばな雪舟流に集まる一つの要因となっているだろう。

 

さらに、お酒を飲みながらみんなで一つの作品を作り上げる「華道夜会」を開催するなど、「生け花をやってみたいけど、何から始めたらいいかわからない」「生け花って格式高そう……」と思って、一歩を踏み出せていない人たちが歩み寄りやすいようなイベントも開催している。

 

今回、いけばな雪舟流で初めて生け花をしてみて思ったこと。

 

「めっちゃ楽しい」

 

この一言に尽きる。みなさんにも、固定観念をかなぐり捨てて生け花を体験してもらいたいと強く思う。(取材・文 チ田一日)

「いけばな雪舟流」公式HP→http://sessyu-ryu.com