【第1回】世界のバックパッカーに聞く!「ねえ、何の本持ってきた?」in ラオス

目次

 

4人目:ソン (72歳/香港からアメリカへ帰化・サンフランシスコ)

 

笑顔のチャーミングなソンは定年退職後の一人旅を満喫中。70代とは思えないバイタリティ!

 

「私は香港出身で、1970年にアメリカへ移住しました。今はカリフォルニア州のサンフランシスコに住んでいます。システムエンジニアとして37年働いた会社を退職し、世界旅行に出発しました。今年の2月から、7ヶ月以上旅しています。ラサ、ヨーロッパ、9月には日本にも1ヶ月いたんですよ。それからベトナム。ラオスへは6日前に来ました。次はインドにも行ってみたいですね。サンフランシスコへは、今年の12月1日に帰る予定です」

 

・持ってきた本

「書法雅言」穆项(Xiang Mu)著 

※日本語版なし

 

中国・明王朝時代の書道家によって書かれた書道理論の本。17の章がある。

 

「この本は2年前に中国で買いました。私はアメリカ人に書道を教える先生もしていたんです。この本には書道の精神が書かれているので、何度も繰り返し読んでいます」

 

同じ漢字とは言え、中国語を読むことは難しい。内容を教えてもらった。

 

「冒頭には、中国人のルーツについて書いてあります。私たちの父母の祖先が馬の尻尾から筆を発明して、どのようにそれを改良してきたかということです」

 

「一番好きなのはこのページですね。”ポジティブでなければ良い書は書けない“ということが書いてあります」

 

細かなペンの書き込みから、真剣に読み込んでいることが伺える。

 

「サンフランシスコの自宅には3万冊の蔵書があります。中国語の本です。歴史書や孔子、“山海経”(中国の地理書)などです」

 

ソンの穏やかな表情の内側には、膨大な量の知識と教養があったのだ。

 

「私にとって文学とは、豊かなイマジネーションを与えてくれるものです。読む人や翻訳者によっても本の意味は変わります。そこが本の面白いところだと思いますね」

 

彼は親切にも、筆者にこの本をプレゼントしてくれた。中国語は読めずとも、彼の深い優しさと書を愛する気持ちは十分に伝わった。

 

5人目:マイケル (25歳/アメリカ・ラスベガス)

何でも経験してみたいと、インタビューにも気さくに答えてくれた好青年マイケル

 

「今年の6月にアメリカを出発して、4ヶ月ほど旅をしています。医師の勉強をしていたので、ベトナムの病院でのボランティアプログラムに3ヶ月参加しました。その後ラオスに3週間います。次はベトナムに戻ってからカンボジアへ行こうと思っています。帰国日は決めていません。学位を終えて少し働いていたのですが、辞めて旅に出ました。世界を見て沢山のことを経験し、新しいことを学ぶのが目的です」

 

持ってきた本

「The Things They Carried」Tim O’Brien著

※日本語版「本当の戦争の話をしよう」ティム・オブライエン著、村上春樹訳

べトナム戦争で若い兵士たちが見たもの、体験したこととは。人を殺すこと、戦友の死、帰還後の日々など、22の短編を収録。

 

「この作品について聞いたことはありましたが、内容はよく知りませんでした。適当に、裏表紙に沢山の賞賛レビューがあったので選んだんです。作者はアメリカ人ですね。60ページくらいまで読みましたが、面白いですよ」

 

ベトナム戦争に関する本を、どこで手に入れたのか?

 

「いつもキンドルで読んでいるのですが、ラオスの小さな村に行ったらWi-Fiがなかったのでキンドルが使えなくて。宿にブック・エクスチェンジという不要な本を交換するための書棚があって、そこで手に入れました」

 

旅は人との出会いだけでなく、本との出会いも楽しい。母国でも普段から本を読んでいるのだろうか。

 

「アメリカでもキンドルで読んでいました。複数の本を一度に読むスタイルです。ダン・ブラウン(代表作“ダ・ヴィンチ・コード”)などを読みます。エンタメ小説や推理小説が好きですね」

 

彼の考えるアメリカで一番有名な作家とは誰だろう。

 

「僕にとっては推理小説作家のジェイムズ・パタースン(代表作“犯罪心理学者アレックス・クロス”)ですね。 特に古いシリーズが好きです」

 

25年生きてきて、一番好きな本は何か。

 

「それはすごく難しい質問ですけど(笑)。一番好きな本は“The Art Of War”ですね。とても古い本ですが、10代の時に読んでクールだと思ったんです」

 

「The Art Of War」とは孫武の書いた「孫子」のことだ。紀元前500年の中国の兵法書が一番好きだとは。渋い!

 

アメリカの本を取り巻く状況はどうだろうか。

 

「アメリカでも子どもたちは小学生の頃からスマホやタブレットを手にするので、読書する人は減っていますね。僕は紙の本が好きです。見て触って、感じられるでしょう」

 

紙の本を持っている人に聞いているのだから当たり前かもしれないが、何だかホッとする答えだ。

 

「僕にとって本は逃避であり、学習手段であり、心を刺激する方法でもあります。旅行中は刺激が沢山あるけど、本でも心を刺激していたいですね」

 

全ての経験から学びたい。そう語るマイケルの瞳は生きることへの好奇心にキラキラと光っていた。

 

取材を終えて

 

5人それぞれに異なった本との向き合い方があり、それぞれの本に特別なストーリーがあった。調査の結果、紙の本を持っているかどうかを確認できたのは12人だった。持っていると回答し、インタビューに答えてくれたのが上の5人だ。

 

調査結果を国籍ごとに分けると以下のようになる。

 

 

ドイツ人:2人(持っていた人数)/3人(聞いた人数)
アメリカ人:2人/2人
フランス人:1人/1人
オーストラリア人:0人/1人
ガーナ人:0人/1人
中国人:0人/1人
日本人:0人/3人

 

母数が少ないが12人中5人、所持率約42%という結果だった。

 

筆者の海外一人旅は13年前のインド3ヶ月以来なのだが、感覚値として、当時はもっと紙の本を携行している旅行者が多かったように思う。インターネットやスマホ、電子書籍の普及により、紙の本での読書は特別なものになりつつあるようだ。

 

これは必ずしも嘆かわしいことではない。読むという体験がモニター上の、ある意味バーチャルなものになってゆく反面、紙の本は読むものではなく、触り、嗅ぎ、所有し、「体験するもの」へと変わりつつある。そして人間が「体験」を求めなくなることは決してない。数は減るかもしれないが、紙の本がなくなることはないだろう。

 

引き続き別の国でも調査を行い、紙の本や文学の持つ価値をより深く探っていきたい。(取材・文 荒木田慧)

※第2回のラオス編はこちら

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