ハマる“ことば”の見つけ方 歌人×作詞家クロストークイベント

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歌人・伊波真人さん(左)と作詞家・hotaruさん

 

「表現方法を選ぶのは、結婚相手を選ぶようなもの」――。

 

こんな発言が飛び出したのは、2016年7月3日に開催された、現代歌人・伊波真人さんとアニソン系作詞家・hotaruさんによるトークイベント「声に出すと気持ちいい“ことば”とは?」でのこと。

 

ご自身の“結婚相手”に「短歌」を選んだ伊波さんと、「歌詞」を選んだhotaruさん。お二人は、それぞれの表現方法において、どのように“ことば”を見つけているのでしょうか? そして、自分に合った“結婚相手”との出会い方とは……?

 

目次

声に出すと気持ちいい“ことば”って?

 

―「詠む」短歌と「歌う」歌詞、どちらも「声に出してみたときの気持ちよさ」が重要な表現方法だと思います。お二人にとって「声に出すと気持ちいい“ことば”」って、どういうものなんでしょうか?

 

伊波:短歌って、「韻律」っていうメロディー的なものがあって、これがすごく大事なんです。書いている途中で声に出してみると、「韻律」のよしあしがわかりますね。

 

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僕は短歌を作る際、頭の中に波形を描いています。上下の揺れが均等になっていると、韻律がなめらかになって気持ちがいいので、それに近づけるイメージで。激しいものを表現したいときは、あえてなめらかな波形からずらしたりします。

 

hotaru:歌詞も「歌う」というのが前提のものなので、声に出すっていうのは大切ですね。ただ、どんなことばが気持ちいいのか、っていうと難しいんです(笑)。「一音一音ぴったりハマっているのに、なぜか聞こえが悪い歌詞」、ってあるんですよ。

 

なんでかな、って突き詰めて考えると、単純に、「滑舌的に言いづらい」「同じ母音が続いちゃってる」とか、細かいところが原因になってくる。僕はそういう、音のハマり方とか気持ちよさを優先するほうなんですけど、歌詞の意味を優先するタイプの人もいて。

 

結局、自分の感覚が大事ですね。これまでどういう歌を聞いてきて、どういう歌詞がいいと思うのか。「あ、こういう風にことばが乗ったらいいな」っていう感覚を身に付けてる方は、音のハマりをきれいにできるんじゃないかな。

 

伊波:僕も最近、作詞の活動も始めたんですが……作詞の場合、まず楽曲が決まっていて、「長音」ってものがありますよね。楽譜で言うとスラー。そこってやっぱり、「発音したときに伸ばした音になることば」のほうがハマりやすいんですよ。短歌にはそういうことがない。これは、短歌と歌詞の大きな違いの一つでもあると思います。

 

hotaru:要はメロディーがあるかないか、ってことですよね。短歌にもことばの「区切り」という制約があるけど、歌詞はそこに「音の長さ」や「音程」といった制約が加わる。

 

伊波:作詞は、楽曲のリズムとメロディーに、「どういう言葉を入れたら気持ちいいかな」っていうのを探っていく作業だと思うんです。短歌には「区切り」、つまりリズムは最初からあるけど、メロディー、つまり「韻律」は、自分で作らないといけない。短歌は作曲もしないといけないっていう感じですね。

 

 

―作詞では、楽曲の「音程」にことばを合わせるということもあるんですか。

 

hotaru:めっちゃありますよ。特に日本語って、音で意味が変わることがあるじゃないですか。「橋」と「箸」とか。「橋」でいきたいのに、曲の音程的に「箸」にならざるをえないと、意味が変わって聞こえちゃう。そういうのは気にしてます。

 

 

―短歌でも歌詞でも、声に出すうえでは「韻律」、つまりメロディーが大切になってくるとのことですが……「押韻」についてはいかがですか?

 

hotaru:みなさんが思ってる、いわゆる「韻」って、文章の終わりで踏む「脚韻」のことですよね。でも韻っていろいろあって……頭で踏む「頭韻」とか、半ばで踏む「中間韻」とか。英語だと子音だけで踏むとか。

 

その中で、聞き手に伝わる範囲でできることっていうと、「二行丸ごと踏む」とか(笑)。それをやったのは、去年1月の「美男高校地球防衛部LOVE」っていう、とてもふざけたアニメのOP曲。

 

伊波:僕も、韻にはとても気を使っていますね。例えば、「角川短歌」2015年4月号に寄稿した、「あまたある花言葉にもない気持ち抱えてあゆむ春の舗道を」。これは頭韻なんですよ。「ア音」で踏んでる。

 

実はこの歌、韻を踏もうと思って踏んだわけじゃないんですけど(笑)。気持ちいいところを探っていったら、自然と頭韻が多めになっていたので、すべて頭韻に揃えました。「音の気持ちよさ」と「韻」って、密接な関係にあるんじゃないかと思いますね。

 

hotaru:ただ歌詞の場合、韻を踏みすぎると、どんどん意味が弱くなっていくんですよね。韻の方が目立っちゃって、中身が伝わらない。韻じゃなくても、音にきれいにハメすぎると、ことばがさらっと流れちゃったりする。だから、歌詞の意味を伝えたいときは、わざと音にハマらないようにすることもあります。

 

MYTH & ROID「STYX HELIX」(注:『Re:ゼロから始める異世界生活』ED曲)では、1・2サビでは英語詞だった部分を、あえて3サビだけ日本語にしました。これまでの流れを壊し、歌詞に注意を引き付ける効果を狙ったんです。

 

アニソンとはいえ、ひとつのアーティストらしい普遍的なメッセージを入れたい、とずっと思っていて。アニメの中だけではない普遍性、アニメを見ていなくても意味が届くような箇所を、どこかに入れるようにしています。

 

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