「月に吠える」100周年の記念の年に、「月に吠えらんねえ展」を開催していただけたこと、とてもありがたいです。対談でも申しましたが、『月に吠えらんねえ』は過去に詩を読んだことのある人間が2012年のある日突然思いついた物語で、こういうテーマでといった目的意識は後からついてきたものです。
もともと次回作として他の漫画を考えていましたが、どうしても今これを描きたいという衝動に突き動かされ、萩原朔太郎氏の詩がはじめて雑誌に掲載されてから100年後、室生犀星氏の著作権が消滅した年に連載が始まるというのが本当に偶然だけに不思議な気持ちです。
そこにきて月に吠える100周年での前橋文学館での展示ですから。連載開始前にも訪れていただけに、あの空間のそこここに朔くんがいるというのが感慨深かったです。
対談は萩原朔美館長に完全にお任せで。気さくに、楽しく軽やかに進行していただき、口下手な私も緊張がほぐれあっという間の時間でした。朔美先生の著作を読んでいましたし、萩原葉子氏の本でもたびたび朔美先生のことが書かれていたので、私にとっては本の中の人で、わあ、本物だ…とびりびりきました。
対談の中でも触れましたが、私にとってご遺族、ご親族というのは強い罪悪感で固まってしまうお相手です。中でも朔くんは主人公としてものすごい描写をされています。それでも、変な漫画だねえ、と破顔一笑受け止めてくださったことに本当に感謝しています。
対談でひとつ心残りなのが、唐突に紹介した、三好達治氏が朔太郎詩碑の除幕式で当時の前橋市長に朔太郎さんは前橋がお気に召さなかったようで…と言われたと話している座談会のことです。
これは雑誌『無限』1962年冬季号「座談会 萩原朔太郎の世界」のことで、その中で伊藤信吉氏が「白秋は柳川という一つの地域を通じて環境全部肯定した。萩原さんは前橋を通じて現実を全部否定した。月の世界へでも行きたかった。」と発言していて、せっかく前橋での対談なのでそこから前橋と朔太郎さんについてお聞きしよう、話そうと思ってこの座談会の話題を出したんだと後から思い出し、メモを用意していけばよかったと後悔しました…。
朔美先生に葉子氏の小説をどこまで事実と考えれば良いか、というお話を聞けたのは、ずっと気になっていたことだったのでありがたかったです。
対談前後のサイン会は全く予定になく、問い合わせが来ていますがどうしますか、じゃあやりましょうと完全に突発で決定したので、文学館の皆様大変だったと思います。閉館時間を大幅に超過してしまいました…。しかし、遠路はるばる来てくださった方もいて、お話できる機会ができてよかったなあと思いました。
居酒屋BOXYを作っていただいたり、私の念願だった犀の顔出しパネルを実現してくださったり。とても楽しい企画展だったのでもうすぐ終わってしまうのが寂しいです。よかったらぜひ、いつかまた…よろしくお願いします(笑)
「月に吠える」通信さんにはいつも見守って、取材してくださりありがたいです。略称つきほえ同士として、今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
*
清家先生、本当にありがとうございます、これからも応援しております! ちなみに「月に吠えらんねえ展」は好評につき、前橋文学館の4Fで引き続き展示を見ることができます。ぜひ□街へ足を運んでください!(取材・文 ささ山もも子)
前橋文学館
住所:群馬県前橋市千代田町3-12-10
休館日:水曜日・年末年始(祝日の場合はその翌日)
観覧時間:午前9時-午後5時
TEL:027-235-8011