「港の人」「左右社」などユニーク出版社が鎌倉に集結!かまくらブックフェスタレポート

1

 

2015年10月10日土曜日。少し曇り空の鎌倉。小町通りや鶴岡八幡宮など、鎌倉定番の名所とは、反対側の西口に降り立った。

 

今日向かうのは、楽しみにしていた〝かまくらブックフェスタ〟。偶然、書店の片隅で出会った一枚のチラシが、今回の企画のはじまり。

 

2

 

「こだわりの本を手がける出版社や出版者が展示販売をおこなう、本好きのための本のお祭り」チラシにはそう書かれていた。一体、どんなお祭りなのだろうか?

 

sponsored link

 

3

 

会場は、二階建ての古いお家。一軒家を改装したものなのか、なんだか親しみの湧く空間である。「こんにちはー、月に吠える通信の…」と入口をのぞくと、ブックフェスタを主催された、〝港の人〟の代表者である上野勇治さんがいらっしゃった。

 

4

 

上野さんは、もとはフリーでライターや本の編集をされていたそう。それから出版社勤務を経た後に独立し、〝港の人〟を設立。〝港の人〟は日本語学、教育学、社会福祉等の学術図書、詩集、小説、人文書、芸術書などを刊行されている小さな出版社だ。社名は上野さんと縁の深かった詩人・北村太郎さんの詩集から名前を頂いたそう。早速、ブックフェスタについてお話を伺った。

 

―まず、〝かまくらブックフェスタ〟の概要をお願いします。

 

かまくらブックフェスタは“本好きのための本のお祭り”。本と鎌倉市民をつなぎたいという思いで2011年から始まり、今回で第5回目を迎えます。こだわりのある出版社(者)さんにお声をかけて、出店してもらっています。

 

 

―どうしてこのようなイベントを企画されたのですか?

 

大きな出版社が出しているベストセラー本は売れますが、詩集やユニークさで勝負する本の魅力は伝わりにくく、埋もれてしまいます。でも、すばらしい本がいっぱいあるんですよね。その魅力を伝え、本と市民をつなげたいと考えて企画しました。

 

 

―本と市民をつなげたいとは?

 

このようなイベントを行うことで、普段なかなか話す機会のない出版社(者)と市民が出会うことができます。出版社(者)は、市民に本の魅力やどうやってできたのかなど伝えることができ、市民は本ともっと身近につながることができます。

 

出版不況の中で、出版社はいかにして本の魅力を伝えるかが課題です。書店で手に取っていただくことも大切ですが、違った方法で本の世界にスポットライトをあてることで、さらに魅力が伝わりやすくなるのではと考えています。

 

 

―確かに、書店で目につくのは大手出版社の書籍が大多数です。このようなイベントがあると、今まで知らなかった面白い本に出会えてうれしいですね。市民の方や出版社(者)からは、どんな反応があるのでしょうか?

 

出版社(者)さんからは、直に話せて知っていただく機会があるのはいいという声をよく耳にします。自分たちの活動を知っていただくチャンスはなかなかないので、見えない財産を得ることができるといった感じで。市民の方からも、すてきな本に出会える喜びの声を伺っています。

 

 

―今回、〝港の人〟が出品している中で、一押しのすてきな本を教えてください!

 

チェスワフ・ミウォシュというポーランドの詩人が書いた、『世界 ポエマ・ナイヴネ』です。占領下のポーランドで書かれ(第二次世界大戦中)、地下出版されました。日本では初翻訳で、4年かかってやっと刊行できました。(とてもうれしそうな上野さん)

 

 

―思い入れがおありなんですね。どんな魅力を持った詩集なのでしょうか?

 

戦時下に書かれたにも関わらず、戦時色がほとんどないんです。子供の視点で書かれていて、美しくて、力強い。感無量です。戦争反対をそのまま書くのではなく、少し高い視点から描いている想像力がすごいなあと思うんですよね。希望は、自ら生まれてくるんだ、という意味の言葉に、感動しました。

 

 

―戦争で染まった世界で、どんな希望を描くのか、興味が湧きますね。ぜひ、読んでみたいです。かまくらブックフェスタの今後の展望はどういったものでしょうか?

 

まずは、毎年続けていきたいですね。秋になったら、かまくらブックフェスタがあるといった風物詩のように思っていただけるようになると、うれしいですね。

 

 

―最後に、かまくらブックフェスタに行ってみたい、と考えている方々に一言お願いします。

 

すてきな本を作っている出版社(者)さんがたくさんいらっしゃいます。もっと、本の魅力を伝えていきたいと考えて、そういう場を作っていますので、ぜひいらしてください。

 

 

丁寧で落ち着いた語り口調の上野さん。しかし、ご自身が編集された念願の詩集、『世界』についてのお話の際は、とても熱かった! 上野さん、貴重なお話をありがとうございました!

 

5
港の人のブース
6
「世界 ポエマ・ナイヴネ」

 

次に、出店されている出版社(者)の方々にインタビューを行った。

 

「北と南」と「ヒロイヨミ」

 

7

8

 

『北と南』というミニコミを作っている河内さんと、ヒロイヨミ社という出版社(主に詩などから、テーマごとに言葉を集めている)をされている山元さんのコラボチーム。今回お2人は、『ほんほん蒸気』という雑誌を共同製作されたそう。『ほんほん蒸気』とは、一体?

 

河内さん「『ほんほん蒸気』は詩をテーマにしています。いろいろな方に3つの詩を選んで頂き、載せています。今回は編集者、イラストレーター、文学者の方など、たまたま本関係の人ばかりになりました。最近は詩を読む人が減っているので、そういった方々に読んで頂きたいですね」

 

創刊号と書いてありますが…?

 

「次が出るかはわかりません。荒波がるかもしれないし、座礁するかも(笑)」

 

ヒロイヨミ社さんの紙や装丁へのこだわりも(さわり心地がとってもいい!)感じられる贅沢な『ほんほん蒸気』。次号も出して頂きたいです(笑)




 

MODERATO ROASTHING COFFEE

 

9

10

 

ちょっと一休み。由比ヶ浜にお店がある「MODERATO ROASTHING COFFEE」さんで、珈琲とフィッシュバーガーを頂きました。

 

左右社

 

111213

 

「腹が減ったら本を読もう」と書いてあるしおりと購入者限定おみくじを用意している、左右社さん。店主の小柳さんに、おすすめの本を伺った。

 

「『工作舎物語』ですね。工作舎は70~80年代に一世を風靡した出版社です。その中から独り立ちして行った方たちが、今は独自に偉業を成し遂げています。なぜその集団から、そういった人たちが生まれたのか、という疑問から作りました。おすすめする理由なんですが…、工作舎は今でいうブラック企業のような組織でして…」

 

出版社はブラックとはよく耳にしますが…?

 

「家に1か月は帰らないとか、今ではありえないような組織の在り方、経営なんです。そういったすごさが今の若い人たちに届けばいいな、と考えておすすめします」

 

今の若い人……「私です!」と購入してしまった。どんな世界が広がっているのか、読むのが楽しみ。

 

群像社

 

18

 

続いてお話を伺ったのは、ロシア関連の書籍しか扱わない群像社の島田さん。このころちょうど、ベラルーシのジャーナリスト・アレクシエービッチがノーベル文学賞を受賞した。群像社でも彼女の作品を取り扱っていたため、話題になってうれしい悲鳴をあげているそう。

 

ブックフェスタには今回が初出店だそうで、「学会などに本を出すことはありましたが、今回のようなイベントは初めてで、どんな方がいるのかわかりませんでした。なので、お話をしたり、どんな本を手に取って頂けるのかわかったのがよかったです」

 

15

 

そんな折、小さな女の子がやって来て、写真左上のお人形に興味津々(私もずっと気になっていた)。これは何かと聞くと、ロシア民話『まんまるパン』のパンのお人形とのこと。絵本と言っても絵はなく、このお人形などを使用して、お話の場面を作って撮影している。有名な民話で、結末は少し残酷。気になる方はぜひ、手に取っていただきたい。

 

 

最後にいろいろな出版社(者)の方々に、〝かまくらブックフェスタ〟の魅力をお聞きした。その中から印象的だったコメントを紹介する。

 

羽鳥書店・糸日谷さん。
「東京だと、大きな書店がたくさんあるので、本の魅力を伝えるということを忘れてしまうけど、ここに来ると伝えるキッカケを持つことができます。だから積極的に参加していきたいです」

 

『北と南』・河内さん
「鎌倉の地元の人がきてくださるので、他の文学フリマとはちがって普段会えない人と会える。文学フリマは本好きしかこないから、似たような人がくる。ここは風通しがいいです。海も近いですし(笑)。

 

あるものも何と言いますか、ちょっといいものがある。普通の書店にあるものよりも、愛情あるもの。ビールで例えるとただのビールじゃない感じ(笑)。気分がよくなるようなものが多い、かつ、鎌倉というところも、小旅行のような解放感があっていいです」

 

16

 

みなさん、市民の方々との距離の近さを魅力に感じているようだった。私自身も、一日中いてみて、みなさんの心温まる交流の場面を幾度も目にした。それは読者と出版社(者)のみならず、出版社(者)と出版社(者)の間でも。

 

出店する際に、自分のブースははっきり決まっているのだろうが、この〝かまくらブックフェスタ〟は、しっかりとした区画が見えないので、その境界が曖昧に見える。隣同士が近く、ゆるやかな繋がりを生み出しやすいのだ。人と人との温かな関係性を生み出すのに、とてもすばらしいお祭りだった。

 

紹介しきれなかった出版社(者)さん、書き切れなかった言葉がたくさんある。本が好きな人も、すてきな空間が好きな人も、いろいろな方に足を運んで頂きたい。来年ぜひ、秋の鎌倉で心温まる時間を過ごしてみるのはいかかだろうか?(取材・文 みもりん)

 

18
私の収穫物。