少女まんが館に行ってきた ~河合隼雄も驚嘆した、少女漫画の持つ周波数とは?~

 

少女というのは難しい。

 

 

「きょうはあしたの前日だから……だからこわくてしかたないんですわ」

 

これはその作品が文学的に高い評価を得ている少女漫画家・大島弓子による『バナナブレッドのプディング』の冒頭にある少女のセリフだ。

 

 

少女が住み込む家の一室には、堆肥がまかれており、コケが恋愛するのを眺める。

 

これはその作品世界が少女漫画の先駆であると評される作家・尾崎翠による『第七官界彷徨』の設定の一部だ。突飛なセリフと設定に、面喰ってしまう人も少なくはないだろう。そうなのだ、少女のいる世界は何だか難しいのだ。

 

 

“少女”について、村上春樹と親交のあった心理療法家・河合隼雄は云う。

 

 

「ひょっとしてこの世の中で一番理解し難い存在でないかと思ったりする」(『猫だましい』)。

 

どうやら人と接する専門家からしても、少女は理解が難しい存在らしい。

 

年若い女性にだけ、ある周波数が聴こえるという話を読んだことがある。なんとも難しい言動をとる少女達は、自分達だけが聴こえる周波数にチューニングしてしまっているのだ、そう考えると納得がいく。

 

きっと「少女周波数」なんてものがあって、それにチューニングしてしまった少女達が、「きょうはあしたの前日だから……だからこわくてしかたないんですわ」などと口走ってしまうのだ。

 

河合は云う。

 

 

「思春期の女性が相談に来たとしても、私は避けて、そのような女の子に会うのが上手な人にまかせている。彼女たちより少し年上の女性が会うのがよいようだ。」「思春期の少女の内界を記述することは、まず不可能ではないかと思っていたときに、<略>少女マンガを見て、それが見事に表現されていることを知り、驚嘆してしまった。」(前掲書)。

 

少女漫画の多くは、少し前まで少女であった女性達によって描かれている。「少女周波数」にチューニングしてしまった少女達が見ている世界、その世界をチューニングしていない人達も伺い見ることができる窓、それが少女漫画なのだ。

 

東京の郊外・あきる野市にある少女まんが館に行ってきた。ここはライターの中野純・大井夏代夫妻が運営している私設図書館だ。青く塗られた木造建築の中に、寄贈された古今の少女漫画雑誌や単行本などが約6万冊つまっている。

 

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少女まんが館の入り口

 

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階段の裏にも漫画が並ぶ

 

「ひゃ~懐かしい」。小学生のときに読んでいた『りぼん』を見つけて声をあげた。夢中になって読んでいたものは四半世紀経ても見覚えがあるものだ。かつて少女だった人達の悲鳴に似た歓声が、このように館内のあちらこちらであがっている。

 

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四半世紀以上前の『りぼん』

 

 

私はここであれを見てみたかった。『別冊マーガレット』の、80年代後半の号が並んでいる棚を

探す。あった。1986年1月号。

 

『ホットロード』の第一回目が載っている号だ。『ホットロード』は、私が「少女周波数」の濃度が高いと思う漫画のひとつだ。紡木たくによって描かれ、昨年、能年玲奈主演で映画化もされている。

 

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『ホットロード』連載第1回目の最初のページ

 

ストーリーは、中学生の少女が暴走族の世界に入っていくという話だが、大人からすると眉をひそめるようなその行動も、繊細な心理描写によって、読んでいて共鳴できてしまうのだ。

 

私は連載が終了した数年後に単行本で読んで、その世界にびんびんに共鳴してしまったのだが、この第1回目をリアルタイムに読んでいた人達もきっと、びんびんと共鳴して読んでいたのだろう。そう想像しながら頁をめくった。

 

「少女周波数」に彩られた少女漫画は、かつて少女だった人達に当時の感覚を呼び戻させるだけでなく、まだそれを知らない人達に、新しい世界を見せてくれるに違いない。「少女周波数」が気になった方は是非、少女まんが館に足を運んで確認していただきたい。

 

(ところで、年若い女性にだけある周波数が聴こえるという話だが、確かにむかし何かで読んだのだが、現在ネットで検索してみても、それらしいものが引っかからない。もしかすると私がむかし読んだものは、年若い女性にだけ見える周波数で綴られた文字だったのでしょうか??)(取材・文 めるし)

 

目次

少女まんが館

住所:東京都あきる野市網代155ー5
TEL:042-519-9155

開館日:4月~10月の毎週土曜日、午後1時~午後6時
※11月~3月は冬期休館

URL:http://www.nerimadors.or.jp/~jomakan/

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