住んでいるとは言いたくない【吉祥寺】

公園から駅の方へ戻る。この街に慣れてしまっているせいかもしれないが、吉祥寺はやはり少し田舎臭い。「お洒落な街」というイメージがもう非お洒落で恥ずかしい。

 

お洒落に憑りつかれたこの街には喫茶店が不足している。ほんの一か月前まではマルイのある通りに「シェモア」という喫茶店があって、オアシスのような存在だったのだが急に閉店してしまった。(実際、店内には池のようなものがあって妙にじめっとしていた)

 

シェモアのバナナパフェ、この灰皿も懐かしい

 

ここは穂村弘さんが所属する「かばん」の集まりが開かれる場でもあったらしく、店のコースターの裏に書いてもらったサインは私の宝物になった。それには「ウサギの寿命の話はやめて!」とある。穂村さんはサインに自分の歌を書いてくれるのだけど、このときは『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ) 』からだった。

 

店の扉には「ご用があれば連絡ください」と連絡先が走り書かれた紙が貼られているが、いつもカウンターでテトリスをしたり、パソコンをいじったりしていたあのオーナーに連絡する勇気はない。せめてここで読ませてもらっていた『火の鳥』を譲ってもらえばよかった。

 

「長居させない気か?」というくらい華奢なカフェの椅子では心もとなく、一杯900円近くするコーヒーを、観光客でもない私が興味本位で飲みにいく気にはなれない。そうなるとマクドナルドで一杯100円のコーヒーを飲むことになる。吉祥寺はお洒落にコンプレックスを持つ人間にとても厳しい。

 

丸井のある通り。この奥にシェモアはあった

 

駅の南口には古本センターという、そのままな名前の古本屋があって、私はこの街の本屋ではここが一番気に入っている。本の売り方や新しい情報などで比べたら「百年」や「バサラブックス」の方が優秀で、人の心をつかむのかもしれないが、ここの品ぞろえもまあまあ偏っていて面白い。

 

入って右には映画とすこし良いめの画集が並んであり、一番右の通路は漫画がぎっしりそろってある。全巻そろってまとめ売りしているものが多く、シェモアでもらい損ねた『火の鳥』も7,000円でぽんっと積まれている。これは早いうちに買っておこうと思う。

 

奥には写真集や画集が平積みされていて、よっぽど目当てのものでないかぎり、動かすのを少し躊躇ってしまう。下の方にあるものは状態も悪くなっていそうだ(でもそういうところがいい)。

 

ここまで進んでくるとわかるのだが、おそらく掃除をしていないせいで、みそ汁を焦がしたような香ばしい匂いが暖房から漂っている。そのお洒落とは程遠い匂いが駅から15秒の場所にあるのだ。

 

きっと吉祥寺がスターバックスだらけの街になる以前から、この匂いは続いているのだろう。お洒落を憎らしく思うあまり、変なところで感動する癖がついてしまった。

 

またここは店内をなんとなく右と左に分けて作られているのだが、左側は完全にエロ本コーナーになっている。コンビニから成人雑誌をなくそうというこのご時世に、ここまでエロ本が並んでいる本屋もないと思う。

 

それも日活ロマンポルノのようなエロ本ばかりで、それなりの数のおじさんたちが物色している。それはとても健康的で、一種の羨ましさまで感じる光景だ。

 

レジで堂々とお弁当を食べているおばあさんと、内田裕也のようなおじいさん、どうもありがとう。(文・写真 あつかましいたけ)

 

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